今日のエッセイ-たろう

ポッドキャストの場のデザイン。—BGMという設え

ポッドキャストの配信を始めてから5年。長いと言えば長いけれど、直近2年ほどは定期配信が出来ていないので、年数の割にはエピソード数は多くないかもしれない。とはいえ、このペースだと広がりが少ない。まだまだ取り上げたい内容はたくさんあるのだ。せめて、週一配信はしたいところ。

エピソードの内容については本編を聞いていただくとして、今日は「ポッドキャストそのもの」について思うところを書いてみようと思う。テーマは「BGM」だ。

ポッドキャストにBGMは必要?

正直、どっちでも良いと思う。あんまりBGMの音量が大きいとトークの邪魔になるので歓迎しないのだけれど、そうでなければ良い。普段よく聴いている番組も様々だ。オープニング、本編、エンディングという構成があったとして、それぞれに違う音楽が流れているケース。本編では無音になるケース。全体を通してBGMは使わないというケースもある。中には、リアルな波音がBGMだという番組もある。夜もビーチで収録したので結果としてそうなったのだそうだ。

どの番組も、好きなのだ。だから聴いている。そこには、BGMに関する共通項はない。なんとなく、それぞれの番組の個性が現れているな、と思うだけである。

番組の個性とBGM

場には場にあった音があると思う。飲食店に置き換えて考えてみよう。
おしゃれなカフェに日本民謡はマッチしないかも知れない。大衆的な定食屋だったら歌謡曲が似合うかも知れないし、場合によってはテレビが流れている方が雰囲気がいいかもしれない。広々とした窓から自然を眺められるような料亭ならば、BGMはじゃまになるかも知れない。

つまり、お店の個性を象徴するように「音を設える」のである。
BGMだけが個性を決めるわけではない。だけど、BGMも含めてコンテンツの一部だとすれば、そのチョイスは慎重になる。
少なくとも「たべものラジオ」では、BGMをどれにするか検討するだけでも、けっこうな時間がかかった。番組のコンセプトやイメージを具体的に思い浮かべて、感覚的にフィットする音楽を探した。もう何曲聞いたかわからないくらい。で、ある程度候補を絞ったら、今度はそのBGMに合わせて喋ってみる。といった作業をコツコツと行ったおかげで時間がかかったのである。

BGMの実務的な効果

BGMがあると、実務的な効果もある。ちょっとしたノイズをマスキングしてくれるし、無言の時間があっても、それがアプリのバグではないことを伝えてくれる。だけど、それ以外にも効果があると考えている。それは、アンカリングとリズムキープだ。

アンカリング

大抵の人は、どんなBGMだったかを覚えていない。いや、メロディーを意識して覚えている人は少ない、といったほうが良いだろうか。一度や二度聞いたくらいでは覚えられないのだ。でも印象だけはちゃんと残る。
だから、その音楽が流れ出せば「あ、いつものあれだ」と思い出せる。それだけで、番組の運営としては満点だろうと思っている。

「いつもの音楽」になるくらいの回数を聞いてくれている人ならば、音楽の冒頭を聞くだけでスイッチが切り替わる。このあとどんな話が展開されるのか、それに期待を持ってくれるようになるのだ。この効果は案外大きい。講演会などをやるとよくわかるのだけれど、場の空気が温まるまでには少々時間がかかる。それを、音楽の力で一気に乗り越えられるのだ。そういう意味では、オープニングや音楽のイントロ部分は特に大切なのだろう。

リズムキープ

これは、ぼくだけかもしれないけど、音楽とトークの「ノリをリンクさせる」という考え方をしている。ちょっとわかりづらいので、分解してみよう。

ノリは、話す速さだけでなくアクセントで生み出される。で、トークのアクセントと、曲のアクセントをなんとなく合わせていく。おしゃべりのリズムを、BGMとゆるく重ねるようなイメージだ。うまくいけば、まるで音楽と同期したような感じになる。

「歌うように語れ、語るように歌え(Talk like singing, sing like talking)」という言葉を聞いたことがあるだろうか。誰が言ったか知らないけれど、音楽や演劇に触れたことのある人ならば一度くらいは耳にしたことがある格言だ。
ぼくが体現できているかと言えばあやしいものだけれど、これを意識している。だから、収録中もヘッドホンからはBGMを流しているのである。たぶん、これをやっている人は少ないと思う。おかげで、会話のキャッチボールの「間」が、なんとなく音楽の拍子に合ってしまうのだ。

まぁ、さすがに5年もやっていると、たべものラジオのリズムが染み付いたらしい。BGMが流れていなくても、だいたい似たようなリズムでしゃべれるようにはなったのだが。

今日も読んでいただきありがとうございます。

「ポッドキャスト研究室」という番組でポッドキャストにおけるBGMについてあれこれと語っていたので、それに合わせて書いてみた。普段は、番組制作の裏側について語ることなんてないから、ちょっと新鮮だ。それにちょっと懐かしい。ここで書いたことは、5年前に考えてたことだからね。初心に帰るという意味でも、たまにはこんな振り返りをするのも悪くないな。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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