「出来ない」って、不便で楽しい貴重な時期。 2024年6月4日

ここしばらく体調を崩していて、まだ回復していない。そんなわけで、せっかくの休みもほとんど自宅から出ることなく療養するはめになった。かといって、1日中寝てはいられないのでオンデマンドで適当に選んだ映画などを見ることにした。

「天下人のスマホ」という1話5分ほどの動画。しばらく前から話には聞いていたのだけれど、オンデマンドで「家康と三成のスマホ」を見つけたので、なんとなしに再生してみたら、これが面白い。妻や子どもたちも面白がっていたので、歴史の知識がなくても十分に楽しめる無いようなのだろう。日本史を知っている人なら、あちこちにちりばめられた小ネタに心をくすぐられるかもしれない。

戦国武将たちが、スマホでやり取りを進めることで歴史が動いていく。むろん、パロディ。石田三成が関ヶ原で決起するときなんて、超長文を送りつけるあたりがなんとも言えないほどいい味を出している。誰かを説得するにあたって、ついつい長文で思いの丈をぶつけてしまうというのは、純情さでもあり、不器用さでもあり。場合によっては、鬱陶しいやつというイメージを与えてしまうかもしれない。歴史上、面倒くさいほどに長い文章を送りつけて、失敗した例もあればうまく言った例もあるのが興味深いところ。読み手がなにを汲み取るかなのだろうか。純情さに心を打たれて味方するかもしれないし、長々とした理屈に辟易するかもしれないし。言葉というのは便利なようで不便でもある。

そういえば、「不便だからこそ良い」ということもある。いつだったか、京都先端科学大学の川上教授がこんなことを言っていた。富士山頂までエレベーターを設置したら、ずいぶん気軽に山頂へとたどり着くことは出来る。けれども、山登りを楽しみたい人にとっては、意味がない。余計なお世話だ。昭和の子どもたちは、遠足のおやつは300円までと決められていた。制限があるから、あちこちの駄菓子屋さんに行ったり、スーパーをウロウロしたりしておやつを選ぶのが楽しかったのだろう。大人になってから、共通の話題で盛り上がれるのも制限があったから。

似たような話で、「出来ない今」が楽しいということもありそうだ。言葉がわからないというのは、誰でも幼いときに経験したし、海外旅行で体験することもある。下手くそなりに頑張っている姿が共感を呼ぶのか、我が子の可愛さなのか、ついつい歩み寄って意図を汲み取ろうとする。そういう姿勢だからこそ生まれるコミュニケーションの深さというのもある気がする。で、言葉を上手に扱えるようになってくると、コミュニケーションのカタチは少し変わってくる。もう、かつてのような「下手くそだから」というコミュニケーションは取り戻せないのだ。「出来ない自分」を楽しめるのは、今しかない。なんとも不便だけれど、それが面白い。

まちづくりで大切な3つのもの「よそ者若者バカモノ」も期間限定。移住してきた人は、そのうちよそ者じゃなくなるし。若者だって、年を取る。いつまでもバカモノのままではいられないのは、まちづくりに積極的に参画していると学んでしまうから。となると、新規参入の人でなければ「よそ者若者バカモノ」はなかなかつとまらないということになる。門戸を開いておけというのは、そういう意味でも大切だということなのか。

歴史は好きだけど、よくわからない。学生時代に学んだことも遠い記憶だし。ましてや、食の歴史や庶民の暮らしなんて学んだことがなかった。わからないことだらけ。なのに、毎日ごはんを食べていて、よくわからないのに伝統的だと感じている。びっくりするほどに、自分の生活のルーツがわからない。だからこそ、面白いと感じているのかもしれない。かれこれ3年近く勉強していて、ポッドキャストも配信しているのだけれど、まだまだわからないことや知らなかったことに遭遇し続けている。自分の思い込みがガラガラと音を立てて崩壊していく瞬間は、なによりの楽しみだ。

今日も読んでいただきありがとうございます。もしかしたら、自分自身を常に「弱い立場」に持っていくというのは、楽しみを増加させる行為なのかもしれないな。生活の全部を持っていってしまうと苦しいだろうから、一部「おれって弱いなあ」という部分を作り出しておくのも良いかもね。

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