今日のエッセイ-たろう

「気合と根性」という思想 2023年1月18日

子供の頃は、「運動ができる子がモテる」と思っていた。実際にそうだったんじゃないかな。少なくとも「頭がいい子」よりは「運動ができる子」のほうがモテるイメージがあるのじゃないだろうか。例えば、足が速いだとか、サッカーがうまいだとか、野球がうまいだとか。小学生の頃はドッジボールが強いと人気だった。

モテると言っても、異性にモテるというだけじゃなくて、男の子同士でも人気がある感じだった気がする。ぼくの個人的な思い込みかもしれないけれど。まぁ、とにかくそんなふうに考えていた。

というのも、ぼくは運動が苦手だったのだ。だから、そう思っていたのかもしれない。鉄棒の授業があれば、逆上がりは出来る。少し時間がかかるけれど、一応及第点には達するのだ。ドッジボールをやっていても、キャッチも投げるのもテンで駄目なんだけど、それなりにはなんとかなっていて、割りと最後まで残る。避けるのだけは得意だったからだ。

何をやっても中途半端。走るのだって、クラスの真ん中くらい。少年団野球をやってる子達がいなければ、それなりに上位に入るのだけれど、彼らが加わればあっという間に真ん中。ぼくとしては一生懸命走っているのだけれど、いかにも凡庸である。

運動で目立つようなことを出来ないかと考えた。球技はダメ。技が必要だ。鉄棒選手みたいな軽やかさは皆無だったので体操系はダメ。短距離は、どうあがいても超えられない壁があるように感じた。そこで、注目したのが長距離走。これならなんとかなるんじゃないかと思ったのだ。

小学生も低学年の頃なら、速いと言っても知れている。ある程度体力があれば、そこから先は技術でもなく、能力でもない。ほとんど精神力である。いや、実際にはそんなことはないのだろうけれど、当時はそう思っていた。つまり、気合と根性があれば、それなりに上位に入ることは出来るはずだと。ある程度の走力はあったから、あとはとにかくペースを落とさなければ良い。ペースが落ちる原因は、気持ちが折れること。もうダメだ、もう良いや、って思ったら最後自分の体力に合わせてスピードを落とすことになる。だから、ギリギリの限界までガムシャラに頑張れば、それなりに上位に食い込めるはずだと。なにせ、ほとんどの同級生は、マラソンが嫌い。出来ればやりたくないと思っていた。これはチャンスだ。

母校では毎年冬になるとマラソン大会が行われていた。はたして、見事4位である。これはいける。小学校を卒業するまでの間、ずっと10位以内にいたのだ。能力が低くても、気合でカバーできる領域があると思った。能力がない分だけ、他の領域で結果を出す。質が伴わないのであれば、手数や量でカバーする。これでイケる。そんなふうに、勝手に確信してしまったのだ。

これが面白いもので、一度得意になったような気になると、たとえそれが思い込みでも歯車が回り始めてしまうのだ。周りからも「あいつは長距離はなかなかやる」という見方をされるようになった。大人たちも勝手に期待する。そうこうしているうちに、ドッジボールでもちゃんと投げられるようになるし、キャッチも出来るようになった。運動会でも、ギリギリだけどリレーに選ばれるようになった。なんだかイケそうじゃん。まぁ、相変わらず女子にはモテなかったけど。もう、それはどうでも良かった。運動ができなかったのに、それなりに「運動ができる子」の仲間入りしたような気分になったのだから。そうすると、ちょっと欲が出てくる。小5のときには、なんと2位になったのだ。こうなったら、一度くらいは1位というものを味わってみたい。

人生で初めて、マラソン大会のために努力をした。学校についたら、教室に行く前に校庭を走った。総合的な体力をつけるために、楽しみで通っていた水泳教室の一番上のクラスに入れてもらった。ついていけない、と言われたけれど、無理やり入れてもらった。そしたら、ほんとについていけなかった。いきなり2km泳がされて、途中で年下の子たちにどんどん追い抜かれて、それでも苦しくて、みんなを待たせてしまって途中でストップがかかる。けれど、それがウォーミングアップだというのだ。コーチにももとのクラスに戻るように言われたけれど、あんまり悔しいもんだから意地になって通ったら、半年も経った頃には少なくとも練習内容をこなせるくらいにはなった。残念ながら水泳は早くならなかったけど。

そして、小学校生活最後の冬のマラソン大会。学年で最も体力があって長距離では負けたことがないという子がライバル。そう決めた。小5のときの優勝も彼だった。やっぱり速い。とにかく必死に食らいつくしか無い。のこり数百メートルのところで、彼がペースダウンした気がした。そして1位というものを生まれて初めてつかんだのだ。

どうやら、ぼくはずっとこの思考で生きてきたようだ。誰でも出来ることなんだけど、とにかく人よりたくさんやる。技術や知恵が追いつかないのであれば、時間や量でカバーする。人の倍の時間を使って、気合で頑張る。根性でなんとかする。元々、そういう資質だったのかもしれないし、マラソン大会の経験がそうさせているのかもしれない。

料理をやるにしても、技や経験がない分だけ手をかける。上手な人が良い感じにこなしてしまうことは、出来ない分だけ細かな作業に徹する。誰でも出来ることだけど、あまりに面倒で簡略化するところをしない。もう、それしかないと思った。たべものラジオだって、ぼくなんかよりもっと上手に喋れる人はたくさんいるし、もっと優秀な人もたくさんいる。こんなに勉強しなくても、もっと素晴らしいコンテンツを生み出せるひとはいるはずだ。それが、ぼくには無いのだから仕方がない。出来る範囲のことを妥協せずにギリギリまでやるしかない。知らない概念をサラッと読んでわかった気になるということは、出来ないのだ。しょうがないから、理解できるまで調べるしか無い。それでも足りないので、リスナーさんたちから優しく指摘してもらって勉強させてもらっている。ありがたい限りだ。

今日も読んでくれてありがとうございます。なにをやるにしても、万事がこの調子だ。もっと才覚があればよかったのだけれど、ないものは仕方がない。手をかけるより他にやりようがないのだ。そんなだから、いつまで経ってもずっと時間が足りない。そろそろ、次のステップに進むためにも手段を講じなければならないんだろうなあ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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