今日のエッセイ-たろう

「Do you have a pen?」の意図するところ。 2023年10月13日

「Do you have a pen?」というフレーズを、たしか中学生の最初の頃に授業で聞いた気がする。「Yes, I do.」なんていう返事を教わりながら、このフレーズは一体いつ使うんだろうかと思ったりもしたものだ。

使うことなんて無いと思っていたフレーズだけれど、案外使い道があって、この方が自然なんだと感じたのは、それからずいぶん時が経ってからのことだった。

あなたはペンを持っていますか?と訳すと、イマイチ掴みきれないのだけれど、「ねぇ、ペン持ってる?」といった具合の感覚だと、なんとなく意味がわかりそう。日本語でも同じセリフを言うことあるよね。そう、ペンを貸してほしい時に言うのだ。貸してくれる時は、短く「Yep.」なんて言って、ペンを差し出してくれるし、持っていない時は「No,I'm sorry」となる。

「Can I borrow Your pen?」などと言う友人は皆無だった。というのが留学していた時に感じたことだった。

テスト用紙に答えを書くのであれば、間違いにされてしまいそうな回答。それが、実は一般的で自然であるということはよくある。逆に丁寧な表現は、日常では違和感をおぼえることだってある。コミュニケーションとは、とても面白いものだ。

アンケートだったか、それともテストだったか忘れたけれど、「似たような経験をしたことはありますか?」といった設問があった。例文が記載されていて、それに対する問いである。「イエス・ノー」で答えられる質問なのだから、たしかに「はい」と書くだけも文法上は問題ないのかもしれない。けれど、それでは会話が成立しない。経験談を教えてほしい時は、「そのことについて、簡単に教えてください」などと言葉を繋げば良いし、そういう会話もあるのだけれど、少々不自然に感じるシーンもある。

もしかしたら、こうした深読みを期待するという姿勢は、言語の誤用にあたるのかもしれない。ただ、世の中のコミュニケーションは誤用があるから成り立っている部分もあるのだろう。察するということが、コミュニケーションを円滑にしている。

ちょっと面白いのは、この誤用が会話の中で登場するのか、それとも文章で登場するのか、で印象が変わるということ。確かな研究ではなくて、ぼくがそんなふうに感じているに過ぎないのだけれどね。特に、試験のような緊張する場面では、文字通り誤用のない表現でなければ不自然に感じるというのもあるかもしれない。

会話というのは、声や動きや表情、それに話の流れが加わる。文章よりもずっと情報量が多いから、無意識のうちに言葉に含まれた意図を汲み取る。文章を読んだ場合、特に音声で再生しない場合には、そのままストレートに解釈する。なんてことがあるんじゃないかと思っている。

先日、ChatGPTなどの音声認識AIに対して話しかける時に、つい不自然な言葉を選択してしまうということを書いた。これも、似た現象だろう。どこかで、書き言葉を意識している。書き言葉のように、誤用のない表現をしなければ伝わらない。その感覚が、不自然な話し方に繋がるのかもしれない。

ちゃんと言わなきゃわからない。それも事実だ。と同時に、ある程度は意図を読み取るのが自然言語である、というのも事実。なにも察するというのは日本語や日本人特有の特徴ではないのだ。みんなやっていて、それで世の中のコミュニケーションは成り立っている部分を持っている。

サイコパスと呼ばれる人たちは、他人の心情を理解できないらしい。だからといって、そのままで良いというわけでもない。自認している人たちでも、技術として意図を汲み取るとか心情を想像するのだ。共感しなくても、そういう技術を磨くことが出来るという。

つまり、何が言いたいかって。国語の授業って大切だってことよね。

今日も読んでくれてありがとうございます。まぁ、別に誤用なんてものがなければ、それでも良いのかもしれないけどね。ただ、既にたくさんあるのだし、そういう世の中なのだ。と思って、いい感じに寄り添っていけば良い。それなりに技術を身につけたほうが、それはとても便利だと思う。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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