今日のエッセイ-たろう

「顔合わせ」と「結納」の意義。歴史に裏打ちされた現代における機能。 2023年5月19日

「顔合わせ」「結納」は、結婚に関連する儀式である。昨今は、その存在意義が伝承されていないのか、様々な問い合わせが増えている。それとともに、個々の自由な言葉の解釈に変化してしまっていて、会話の齟齬すらも起きているらしい。

そうは言っても、我々だって日本料理を生業にしているからこそ知っているだけのことである。日常ではなく「ハレ」であるからこそ、知る機会が少ないのも現代のような個別化した社会では仕方のないことなのだろう。ということで、あまり語られることのない、これらについて改めて整理してみようと思う。

顔合わせと結納は明確に意味が違う。

顔合わせは、まだ結婚が確定する前に行われるものだ。「この人達と親族になるけど大丈夫だよね?」という確認。この人と結婚したいというだけであれば、両親に引き合わせれば済む話だ。本人がどう思うと、結婚したら両親は「この先長い間親戚として付き合う」ことになる。そのことに関して、事前に合意を得ておこうというのだ。

現代においては、顔合わせのあとに破断になった話を聞いたことがない。ということを考えると、両親同士が打ち解けるための予備動作と捉えるのが良いだろう。何のための予備動作なのか。それは結納である。

結納とは、家族と家族が連帯することを確認する儀式だ。実は、本人たちではなく家族にとって最も重要な儀式は結納である。結婚式はその延長上にあるモノと解釈してしまっても構わない。

結婚という行為には、2つの段階がある。ひとつは、当人同士の合意。もう一つは、周囲の認知。役所に届け出るのは、社会的なシステムに登録するという作業であって、結婚という本質とは何ら関係がないのだ。そういう意味において、結納は合意と認知の中間点にあたる。

まず、家族同士の結びつきという合意形成の場である。両親の立場になってみればわかるのだが、どんな人と親族になるのかは「強制的にやってくる」ものなのだ。古い映画などのように、親が勝手に結婚相手を決めるという時代があった。結婚する当人にしてみれば、顔合わせや結納が初対面。だから、少しずつでも互いの距離を縮めていくという細やかな準備が必要なのである。現代では、結婚相手を決めるのは当人同士ということが一般化している。つまり、両親が「結びつく家族」を決められてしまう状況なのだ。段階を追って、少しずつ仲良くなるような場の設定が必要ということになろう。

そうした背景を考えると、顔合わせで少し仲良くなり、結納で家族となる意思を固める、というのが両親の視点から見える景色である。既に気が付かれていると思うが、顔合わせも結納も、場の主役は両家の両親である。そして、合意するという意味において、結納はとても重要な儀式なのだ。決意と言っても良い。

これをもって、互いに連帯する。「これから二人の結婚式や新生活について、両家で連帯して応援していきましょうね。」という意識を醸成する場でもあるのだ。

少々味気ない話をしてしまうと、当人たちにとっては投資にあたる。今後の新生活を応援してもらうための環境づくりであり、その精神的な基盤が結納を端緒にしていることが多いのだ。そういった意味でも、ゲストは両家の両親であり、当人たちはホストに徹することが良いだろう。そして、しっかりと「よろしくお願いします。」という気持ちを表すことだ。

ほとんどの結婚式において、両親に思い出を尋ねると「あんまり覚えていない」「とにかく気忙しかった」などという言葉が帰ってくる。逆に、しっかり時間を取った結納は、両親の記憶が鮮明だという。

結婚式というのは、親戚や地域住民や友人などの関係者に「結婚を認知してもらう」という意味がある。もちろん、祝福や連帯という意味もあるが、バランスとしては認知に偏る。そして、ほとんど動き回ることがない当人たちに変わって、ホストとして動き回ってくれているのが、実は両親である。もしかしたらこんな光景に出会ったことがあるかもしれない。両親が瓶ビールを手に、親戚や友人などの席を訪れ、酌をして言葉をかわす。そして、二人をよろしくお願いしますと。まさにホストそのものであり、最大のサポートなのだ。つまり、結婚する二人が両家の両親をもてなして、誠意を伝えて今後の関係を築く入り口は、結婚式よりも前にしかあり得ない。だから、顔合わせと結納においては、ホスト役は結婚する二人なのだ。

さて、今回ご紹介した「顔合わせと結納の意義」については、諸説存在している。もちろん、歴史的な意義とは少々異なっていることも承知だ。なぜ顔合わせや結納という儀式が生まれたのか。それは、その時代のそれぞれの社会に合理的な理由によってである。だから、今回の解説とは異なる歴史解釈が存在するのだ。

どんなフォーマットもそうだが、時代とともに意義は変遷するものである。そういう意味で、現代社会においてはこのような意味があって、直近1世紀ほど機能し続けているということを紹介した。

古くからあるしきたりを表面だけで判断するのではなく、本質的な意義を含めて実施するかどうかを判断するのが肝要だろうと思う。そして、この記事が少しでも役に立てば幸甚である。

今日も読んでくれてありがとうございます。結納も接待も食事会も、本質的な部分はだいたい同じなんだ。時々「日本の慣習」と切り捨てる人もいるんだけど、実際には世界中で同じような儀礼段階が存在しているんだよね。コミュニティ同士が結合して連帯する。そのために人類が到達した知恵のひとつなんだと思うよ。だとしたら、感慨深いよね。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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