今日のエッセイ-たろう

「SKS Japan 2024」で得たもの。 2024年10月29日

「Co-creation(共創)」と「Beyond border」、そして「Unlock」。それがSKS Japanの強力なメッセージ。言葉だけでなく体の中に染み込んできた言葉だった。

平易な言葉に直せば、みんなで一緒にやろうよ。という話なのだけれど、なかなか実行に移すのは難しい。具体的に動こうと思ったら様々な障壁があって、それらを乗り越えるための道のりを眺めて躊躇する。行動変容のためには、強く自覚して信念になるほどでなければならない。今は、確信していると言っていい。

普段の暮らしでは気づくことは少ないけれど、社会というのは思ったよりも上手く出来ている。ちょっとずつ長い年月をかけて上手く回るように調整してきた。その時々の環境に最適化してきたからこそ、快適な社会生活が送れる。けれども、環境が大きく変わったとき、快適なシステムは融通の効かないしがらみになって立ちふさがるのだ。

システムだけでなく、ぼくらの思考も行動も膠着してしまっている。それと知らずに暮らしていることが多く、自らが動き出したり、社会を俯瞰してみるようになって始めて気がつく。まず、この気付きを得るために、強固なロックを外すのだ。

良く出来たシステムは、分業化されていて、それぞれの領域が連関している。自分が属している領域で、それこそ真摯に一生懸命生きている。もちろん、とてもよく機能するからこそそれを選択してきたわけだけれど、残念ながら弊害も多い。業界の課題はもちろん、社会課題とされる大きな問も、属している領域からの視点でしか認識できないのだ。

例えば、食料の流通に課題があるとして、飲食店は飲食店の視点で、農家は農家の視点で解釈する。もっとこうした方が良い、と言っても、それが相手にとっても良い結果をもたらすとは限らない。だからこそ、ぼくらは越境する必要がある。隣接する様々な領域へ飛び出していって、互いに理解し合うのだ。

よく相手の立場に立って考えることが必要だと言われるけれど、それは思ったよりも簡単なことではない。日頃から意識して、相手を観察して、思考を重ねることで少しずつ得られるスキル。スキルなのだから、誰でも出来るというわけじゃない。と思って訓練するくらいで丁度いいのだろう。

だから、自分がいる位置から見えない領域を観察するためには、自分の足で近づいていかなければならない。といっても、実際に転職したり引っ越したりすることはない。簡単なことだ、興味を持って相手の言葉に耳を傾ける。それだけでも充分に越境する足がかかりになる。

出来れば、別の領域の人たちと一緒になにかをするといい。事業でもいいし、スポーツでもいいし、ものづくりでもいい。一緒に行動することで、脳だけでなく五感が勝手に細やかな情報を受け取るから。自分の感情の動きを観察すれば、それだけで相手との距離がぐっと縮まる。

それに、一緒に事業を始めると、互いに補完し合う関係になれる。先日、ノコギリとトンカチの例話を書いたけれど、それぞれの特性を発揮することで家が立つのだ。互いが異なるからこそのハーモニー。共創というのは、そういうことだろう。

「SKS Japan 2024」の最終日に改めて発せられた強いメッセージ「Speak Out!」。思いを語れ。誰が何を考えているのかは、言葉に出さなければ伝わらない。ずっと考えているだけでは何も起きない。だから行動に移せと。その一歩目は、まず「言う」ことなのだ。

誰に響くかはわからないけれど、やりたいことを語りだしたら誰かが共感する。共感した人の中から一緒にやろうと言う人が現れる。そうして、誰かの「やりたい」を中心に人が集って、共創の場が生まれる。

本当だ。言い始めたら、多くの人たちが耳を傾けてくれた。あれこれアイデアを出してくれる人、人を紹介してくれる人、一緒にやろうと行動を始めてくれる人。最終日の夜、終電が無くなっても、ずっとぼくらの話に心を向けてくれた人もいる。

感謝。その言葉以外が思い浮かばないのだけれど、もうひとつ新たな感情が生まれてくる。希望、そして強い決意だ。仲間が承認してくれるだけで、自分のやりたいことに自信が生まれる。一緒にやろうと言ってくれるからこそ、ブレない信念が生まれる。きっと、こういう感情が行動の源泉になるのだろう。頭で理解するのと、体全体で感じるのとでは大きな違いだ。

今日も読んでいただきありがとうございます。まだちょっとボーっとするけれど、なるべく早いうちに言葉にしておきたかったんだ。これが、今年のSKSでぼくが受け取ったこと。来年には、ただのスピーカーではなく、「SKSという舞台から生まれたいくつもの挑戦」のひとつを実践者として参加したい。

だからね。ぜひ応援してもらいたいんだ。きっと、日本の食産業にとって必要なことだし、ポジティブな影響があるはず。本当にお願いします。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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