今日のエッセイ-たろう

ぼくはなぜ「たべものラジオ」をやっているの? 2025年2月5日

ぼくはなぜポッドキャストをやっているのだろう。しっかりと言語化しようとするとよくわからない。

目立ちたいからなのか?それも無くはないけど、目立たなくてもいい。いや、もっと若い頃は目立ちたいという気持ちがあったんだけどね。バンドやってて、ライブやってまったく目立たなかったら寂しいし。褒められたら素直に嬉しい。そういう気持ちも無くはないけれど、どちらかというと生み出された作品を良いと感じてもらえたら嬉しいかな。料理だったら、ディテールを褒められるよりも「おいしかった」「楽しかった」というのが嬉しい。

そういう意味では、個人が目立つかどうかは二の次と言えるかもしれない。

一方で、ある程度は目立つ必要があるとも思っている。どう表現するのが良いかな。同じ内容の番組でも「ぼくという個人が喋っていることが重要」という側面もあるとは思う。それがどんな評価を得るかはわからないけれど、ディズニーランドのミッキーマウスのような存在が必要ではあると思うんだ。作品を受け取ってもらうために、一定は必要なことなんだろうな、と。

そういう状況は嫌いでもないし、あまり苦でもない。苦手な人は苦手なんだろうけど。

実際、番組を作ることそのものは楽しい。喋るのも好きだし、考えるのも楽しいし、勉強して何かを掴んだような気持ちになるのも楽しい。日常業務は体力勝負だし、そのせいで本を読んでも全く頭に入らないこともあるんだけど、もっと勉強したいとすら思っている。

勉強した結果、料理や食文化や食材などのことが、以前よりもずっとよくわかった気がしている。献立の組み立て方も、アイデアも桁違いだ。かつて、車輪の再発明をして得意げになっていた自分はもういない。もとはといえば、ぼく自身の料理人としての学びだったし、飲食店を経営するにあたって必要な学びだったわけだ。

そもそもだけど、この学びは時流に乗っていないものだった。売上や集客のことを考えれば、もっともっとマーケティングに特化したら良い。自分の美学よりも、売れる方法を追求することも出来たはずだ。そういう目線で見れば、わざわざハードゲームに突入してしまったとも言える。

この状況って変じゃない?これやってたら産業そのものが崩壊しかねないんじゃない?料理人ってそんなに存在価値低いの?今の社会って食品の生産者に負担かかりすぎじゃない?

とか、いろんな疑問に気がついてしまった。気がついちゃったからには、もう無視できなくなっちゃったんだよね。だからといって、料理屋の仕事を急激に変えられるわけもなくて。そんなことしたら経営が破綻しちゃうから。ジレンマを感じる日々が始まった。

よくよく考えてみれば、ぼくはそれほど「料理を作る」という行為に執着がない。料理が好きだからとか、食が好きだからという理由で料理人になったという人の話を聞くけれど、ぼくにはない。料理人に対して憧れを抱いたこともない。むしろ、避けていたくらい。

ただまぁ、絵を描くとか音楽を演奏するとか、そういうのよりは料理のほうが適性があるらしいとは思う。適正という意味では、勉強して整理したり考えたりしたことを喋るということのほうが適性があるのかもしれないけど。どうなんだろうな。

どうやら、たべものラジオというポッドキャストは、ぼくが想像していたよりずっと多くの人に役立ちそうだ。ということに気がついたのはいつ頃だろうか。ちょうど「食」や「食産業」のあり方が問われ始めた時代にマッチしたんだろう。つまり、社会のほうがハードゲームに突入せざるを得ない状況になった。そしたら、科学だけじゃなくて人文領域の知見も必要になった。

個人的には、「食」「歴史」に限らず、いろんな領域の事柄に興味がある。今まで対して勉強してこなかった分だけ、いまになって勉強が楽しくてしょうがない。だから、ポッドキャストで食をテーマに位置づけたとき、歴史だけじゃなくてサイエンスや地学やテクノロジーについても台本に取り込んでいこうと思っていた。実際、その感覚は今でもある。

ただ、今のところ「食産業」には「人文知」が少々足りていないらしいと気がついた。得意というわけじゃないけれど好きなジャンルだったこともあって、意識的に人文知のボリュームを多めに番組を作るようになったんだよね。

食とか歴史が好きかどうかと問われると、なかなか答えに困る。もちろん嫌いじゃない。楽しいとも思っているし、今では得意だと思っている。社会貢献したいという気持ちもあるけれど、それだけでやっているわけじゃない気もする。

料理で言えば、足りない味がわかっていて、その部分を補いたいという感覚に近い。もっと美味しくなるのにもったいない。

美味しいものを食べて笑顔になる人がいる。ぼくが料理を作る動機はそれだ。幼い子供がやるように、誰かを喜ばせたいというシンプルな動機。必ずしもぼくが料理人として料理をする必要はないし、楽しい空間を作り出せるなら料理以外のこともやる。その延長線上に、たべものラジオを面白いとか役に立つと思ってくれる人がいるからやっているのかもしれない。

人を喜ばせて嬉しくなる子どものような感覚。ってことなんだろうな。その割には万人受けしない情報量なんだけど。それは、きっとそのくらいの濃ゆい感じを面白いと思ってくれる人がいるからなんだろうな。だいいち、ぼくが楽しいと思っている。

内容は万人受けしないんだけど、ぼくが面白いと思っていることをちゃんと食べてもらうために、話術でなんとか最後まで聞いてもらおう。最近は、ちょっと無茶な挑戦をしてもいる。マニアックな食材なんだけど、調理方法や見せ方で美味しく料理を味わってもらおうということだ。

今日も読んでいただきありがとうございます。自分自身の行動原理って、本当によくわからない。他人とか社会をみて行動原理を観察するのが楽しいんだけどね。まぁ、誰かの役に立っているということには安心感があるのかもね。存在意義を認められるというか。そう表現してしまうと、やりたいことってなんなのかわからなくなっちゃいそうだけど。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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