今日のエッセイ-たろう

外食産業とはなにか。エンタメ視点で考える。 2023年11月26日

国立科学博物館特別展「和食」を見に行って、購入した公式ガイドブックを読み進めている。時間がないっていうのに、他にもやることあるっていうのに、まぁ面白いんだから仕方がない。

和食ってなんだろう。それをベースにしてビジネスをしている料亭ってなんだろう。そんな問が、ずっと脳内でグルグルと渦巻いている。こんなことを真剣に考えすぎてしまうと、実はビジネスに差し支えるのだ。もっと、目の前にあるビジネス上の課題をクリアしていくことのほうが経営的には実績に直結する。売上を伸ばすための手を打つべきなのだろう。

だが、それだけで本当に良いのだろうか。という疑問はいつもある。もしかしたら、ぼくらのやっていることは、意味がないのかも知れない。社会にとって、マイナスかもしれない。数百年後の人が見るような視点で考えることも必要なんじゃないかと思っている。

最近、後者の意識が強くなり過ぎてしまっているのは良くないとも思う。バランスなんだよなぁ。

一口に外食と言っても、いろんなカテゴリがある。日常生活の代行としての食堂もあれば、エンタメ要素が高いレストランもある。人と人とが集う場所というのも、外食産業の発展には欠かせない要素である。

外食産業の歴史を振り返ると、エンタメタイプが最も後に登場するように見える。最初はどっちだろう。カフェハーネ、のちのコーヒーハウス、バー、居酒屋、これらは集会所の色が強い。屋台や宿泊施設を起源にもつのは日常生活の代行か。日常生活の代行は、生活者の代わりに家事を行ってくれるわけだから、それは都市生活が発展した後のこと。そう考えると、旅のための生活インフラであったり、コミュニケーションのための集会所というのが元祖になりそうなイメージがある。

エンタメが最も遅いのは、まさに贅沢な行為だからだ。その起源は上流階級の宴などに求めることができるのだけれど、だからこそビジネスにならない。貴族や武士などであれば、饗宴は自宅で行う。そこに、料理とお金を直接交換するような行為はないのである。

庶民が豊かになって、初めてエンタメ要素が強い外食産業が登場する。日本なら札差などの金持ち、フランス革命以降のブルジョアジーや産業革命以降のジェントリーなどが、客となり「食事体験」を買うようになって初めて成立したのだろう

お抱え料理人も含めて、エンタメ要素が強い料理体験を作り出す料理人は、アーティスティックでありクリエイターの気質が求められてきた。それを実現し続けるには、彼らの生活を支える必要がある。初期の段階では、貴族階級が、後に金持ちが支えるようになった。そして、ぼくら一般庶民がバトンを受け取った時、彼らを支えるモチベーションはなんだろうか。

このカテゴリが消失したとして、困ることはなんだろう。伝統的な料理のほとんどは生活空間から生まれている。外食の一部がなくなっても大して困ることはないかも知れない。そういう意味では、プロスポーツやコンサートも似たような構造に思える。

サッカーを楽しむのなら趣味でもプレーしてもいいし、観戦するのだってプロスポーツじゃなくてもいい。決定的な違いはなんだろう。多くの人が同じものを楽しむ。専門性が高いからこそ生みだされるファンタスティックなプレー。高度な技術や発想が、見る人を楽しませるのだろうか。

だとするならば、料亭や高級レストランなどは、ちょっとやそっとでは真似の出来ない高度な技を披露しなければならない。問題は、スポーツや音楽と同じように理解者が必要なことだ。凄さがわかるためには、最低限のリテラシーが必要。サッカーならばルールを知っているとか、対比する対象を知っているとか。楽しみ方を知っている人が必要なのだろう。

今日も読んでくれてありがとうございます。ダラダラと書いていたら、長くなっちゃったので半分に分けることにした。こんなところで、たべラジの配信フォーマット適用しちゃった。この問は、たべラジを始める以前からあったからね。むしろ、この問を探求するために学び始めたことが今の番組に繋がっているくらいだ。何度も書くし、書く度に長くなる。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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