大抵のことは、前の世代を参照して変化してきたのだろうな。 2023年5月7日

チームとか組織といったものが、どういう状態になればより良く機能するのか。といったことを論じている書籍は結構多い。なかには、歴史上の偉人を取り上げて解説しているものもあるのだけれど、果たして家康の組織論やアレクサンドロス大王の組織論が現代に通用するものなのだろうか。

正直なところ、社会が違いすぎるようなきがするのだ。そんなことを言っても、人間の行動原理はそう大きくは違わないだろう。そんな声もあるだろう。たしかにその通りだと思う。だからこそ、人間観察を趣味にしているような人、つまりぼくみたいな人間が歴史を学んで面白がっていたりするのだ。

けれども、やはり社会が違いすぎるというのは大きいだろうとも思う。

武士と農民の格差。とりわけ社会的威信の格差がとても大きかったのが、封建社会である。現代人がどれだけ頭を使って想像しても、おそらく実感することが出来ないくらいだろう。戦国時代であれば、武士の感覚も、江戸時代のそれとは違う。家に忠誠を尽くすべきという感覚は、江戸時代に入ってしばらくしてから植え付けられた価値観でしか無い。もっと、命のやり取りが日常化していて、明日には自分も屍となって野辺にさらされるかもしれないというような、実感がある社会。そうした人間の集団が、戦国時代の武士集団だろう。そうした人たちだけの「共通認識」があって、それをベースにした組織が形成されているのが徳川家康の組織論なのだろうと思うのだ。

所領の城代を3人選出して、1年毎に交代制をしいた。そういう話が伝わっている。一人に権力が集中しすぎることもなく、誰かが城代を努めている2年間はその補佐役として全力を尽くした。これがとても良く機能したというのだけれども、それはあくまでも戦国武士という条件が付く。戦国期なのに、そのような仕組みを考えたのだからスゴイ。ということだろう。

個人的に好きな武士の一人に、上杉鷹山がいる。もっとずっとあとの時代の人だけれど、財政が逼迫した上杉藩を斬新な手法で立て直したことで有名である。後に、内村鑑三が代表的日本人に記し、それを読んだケネディ大統領が尊敬する政治家として名前を挙げたことでも知られている。上杉鷹山の政策の中で、身分を問わずに能力のあるモノを積極的に取り上げたことが挙げられる。

いろいろと細かい背景はあるのだけれど、それはさておき、能力のある者を身分を問わずに引き上げることは現代においてはさして珍しいことではない。一部には、家柄や学閥のようなものがあるかもしれないけれど、それは封建社会のものとは比べ物にならない軽微なものであろう。超名門の上杉家において、家柄というのはどれほど重要だったのか。そもそも、江戸期においては家康の時代から制度として組み込まれていたのが家柄重視の体制なのだ。その状況下において、柔軟に対応したからこそスゴイのである。

いずれにしても、その時の社会の中にあった常識と照らし合わせて、はじめて認識できる凄さであろう。

歴史を学ぶための番組を配信しているつもりはないのだけれど、結果として歴史を語ることになっているのは、上記のようなことがあるからだ。とにかく、その時代の社会的背景を把握しないと、何がスゴイのかさっぱりわからない。面白さも半減するだろう。だから、背景をしっかり語ることにしている。最近は少々やりすぎな気もしているのだが。

大抵のモノゴトは、少し前の時代のことを踏襲していると思うのだ。前の世代がこうだったから、それを発展させてこうしよう。前の世代ではこの部分が良くなかったから、それを改良するか廃止するかしてより良くしよう。そういう思いがずーっと長く連なっている。その過程にあるのが「いま」だ。

例えば、哲学を学ぼうと思ったとする。なんとなく、有名なニーチェだとかデカルトだとかヘーゲルあたりのことから学び始めると、大抵の場合混乱してしまう。というのも、西洋哲学は前時代の哲学者の主張を踏まえて、それに対して自分がどの様に考えるかということの繰り返しなのだ。発展させたり、変化させたり、反論したりの繰り返しだ。だから、前の時代の人が何を言っていたのかを知らないと、次の世代が言っていることの意味がわからかい。ということになる。

哲学を例えにしたのは、話を余計にややこしくしてしまったかもしれないが、つまりは世の中の大抵のことは同じだろうと思っている。常に、前の時代を参照しながら変化してきたのだろう。だから、現代人が参照すべき事象は数千年分あるわけだ。大雑把で良いから、多少なりとも知っておくこと。そういったスタンスそのものが教養と呼ばれるべき知性なのかもしれない。

今日も読んでくれてありがとうございます。書こうと思っていたことと全く違うところに話が着地してしまった。現代人の感覚にあった組織論の参照先を考えてみようと思ったんだけどね。まぁ、それはいずれ別の機会にでも考えてみることにしよう。

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