今日のエッセイ-たろう

手段の目的化バンザイ、というコミュニケーション 2022年8月27日

「なにかの目的があってやること」と「その行動そのものが目的であること」がある。手段の目的化という文脈で使われることも多いのだけど、それはそれで良いこともあるんじゃないかと思うんだよね。

例えば、飲食店で「お客様に喜んでいただく」ということが目的だとする。そうすると、美味しい料理を作ることも、部屋の誂を工夫することも、庭の掃除をすることも手段ということになる。さらに、美味しい料理を作るために必要な技術や道具もまた、手段ということになる。けれども、どこかで「美味しい料理を作ること」が楽しくて、それが目的になることもある。経営者から見ると、その行為が最終的な目的に合致していさえすれば良いのだ。もし、お客様の喜びにつながらない料理だったら、困る。そういう話なんだけどさ。

一方で、手段を目的化してしまったからこそ、その作業に没頭するし、結果として料理がアップデートされることだってある。そういう意味でも、手段の目的化が一概に悪いことだとはいえないと思うんだ。

もうひとつ。コミュニケーションの話ね。

営業職なんかだとコミュニケーションに目的を設定することがあるらしい。いや、少なくとも前職ではあったな。商談を円滑にするためにだったり、購入してもらうためにだったり、いろんな目的を付加してしまう。なんだけど、それってコミュニケーションの本質じゃないよなあと思うんだ。

基本的に誰かとコミュニケーションを取るという行為自体が楽しいのだ。ホモ・サピエンスは猿がグルーミングする代わりにコミュニケーションを行うのだそうだ。と、サピエンス全史で読んだ。いろんな意見があるらしいのだけど、個人的にはまあそうだろうなと思うのね。だって、仲の良い友達と「飲みに行こうよ」と言っている時は、酒を飲むことそのものが目的じゃなくて手段になっていると思うんだよ。「今度、ご飯でも行きましょう」なんて、よく聞く話でしょう。目的を明確にすると、コミュニケーションの時間を持ちましょうよって言っているの。それだとなんだか味気ない感じがするし、心理的な抵抗があるだから口実をつけているだけなんだと思うんだ。

とにかく、コミュニケーションの目的は、コミュニケーションそのものなんだと思うんだよ。

会話やコミュニケーションに関する書籍や記事があふれている。ということは、それだけコミュニケーションに自身のない人が多いってことなんだろうね。最近、ぼくも相談を受けたんだ。聞いてみると、話の落ちがないとか、結論がうまくまとまらないとか、展開がうまくいかないとか、そんな事を気にしているらしいのよ。起承転結。序破急。なんでも良いけど、そういう構文はあるよ。だけどさ、そんなの気にすること無いんじゃないかなあ。

「で、その話の落ちは?」「え?オチないの?」みたいなことを言われたことがあるんだけど、それいるのかね。いや、その人にとって「楽しい会話」は「オチのある話」なのかもしれないけれどさ。そんな人ばっかりじゃないと思うんだ。天気の話をし始めたら、延々と天気の話をしていたって良いじゃん。それで、お互いが楽しい気分になれるんなら問題ない。むしろ最高だとすら思う。

二人ないし複数の人で、一緒に協力してその場を楽しくする。案外コミュニケーションというのはそんなところが本質的なんじゃないかなあ。

協力プレイなんだから、ディスったり指摘したりする必要なんか無くてさ。それって、サッカーでチームメイトがミスをしたらキレている感じだよね。試合中に。そんな事している暇があったら、即座にカバーリングしたら良い。会話だって同じことなんじゃないだろうか。というようなことを思っている。

食事の場をコミュニケーションと捉えてみると、接待だとか食事会の見え方も変わるかもしれないね。家族や友人同士だったら、既に目的が達成される条件が揃っているかな。そもそも、食事会を通して何かを得ようという意識が働かないことが多いだろうと思うのだ。

これが、接待になると途端に違う目的をまとってしまうようだ。よくあるのは、商談をうまく進めるためにとか、これからの仕事を潤滑に進めるためにだろうか。別に良いとは思うんだ。そういうのがあっても。だけど、これに囚われ過ぎるとメチャクチャ疲れるでしょう。やたらと気を使い過ぎたり、面白くもない話を無理やり楽しいふりをしたり。今どきそんな接待があるのかと思うんだけど、実際あるんだよね。だから、接待のノウハウが販売されているわけだし、それにうちみたいな店では見かけることもある。

そんなことよりも、一緒に楽しむことに全力で集中することだ。とぼくは思う。話をすることも食べることも雰囲気を楽しむことも、全部をひっくるめて楽しむ対象とする。それを、お互いに共通の目的とするんだ。つまり、食事を介したコミュニケーションをしましょうってことね。

話題だって、どちらかが無理をするのじゃなくて、お互いに盛り上げる話題を探すところから始めたら良い。ぼくは、クラッチ合わせって呼んでいるんだけど。例えば、「星を見るのが好きです。」「ドライブが好きです。」という二人がいるとする。そしたら、キャンプとか夜景とか山とか海とか、なにかしらのシチュエーションでくくれば共通点が見つかることがあるんだ。そういう感じでふんわりと会話を楽しむ。

そこにいるみんなが本気で楽しんでいる。これは、本能的に察知できちゃうよね。これが達成されると、食事会そのものが印象に残る。この人達と一緒にいると楽しい。そういうポジティブな感情が記憶に残るよね。この関係がある間柄で、共同事業や商談なんかがギクシャクすることは難しいはず。この辺のことはぼくの経験からくるものだから、エビデンスがしっかりしているわけじゃないけどさ。どうも、そんなところが本質的なんじゃないかなと思うんだ。

楽しむことが最大の目的であって、それ以上でも以下でもない。たまたま、結果として他の効果をもたらしてくれるだけ。結果として円滑な商談につながるし、結果として家庭内が楽しくなる。それだけのこと。

結果として起こることをあまり意識しすぎると、うまくいかないことがあるんだよなあ。

今日も読んでくれてありがとうございます。勉強して面白かったことを、伝えたい、共有したいだけ。実はその方が反応が良かったりする。「学びになること」や「良いこと」を言おうと意識しすぎるとね。いまいち。端的にコンテンツがつまらなくなる。そう考えていくと、聞き手役がいてくれることはとてもありがたいことなんだなあ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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