今日のエッセイ-たろう

日本の水資源について真剣に考えた。 2023年2月20日

水ってとっても大切よね。日本にいると、当たり前のように飲むことが出来てしまうから、その恩恵については意識しないと気が付かないかもしれない。まるで空気のような存在になっている。だから、なにかの機会を捉えては、水や土について考えるように意識していこうと思う。土壌学の研究者である藤井先生が、水に嫉妬すると言っていたのだけれど、土については水よりもさらに意識が低いのだろう。せっかくだから、セットで意識を向けるようにしていくことにしよう。

世界史で度々取り上げられる大航海時代は、同時に海賊の時代でもある。ディズニー映画のパイレーツオブカリビアンの世界だ。映画や小説の世界では、海賊は常に酔っ払っているイメージがる。実際に、海賊はほとんどアルコール中毒だったらしい。好んでアルコール中毒になっているわけではない。海上にいる間はワインしか飲むものがないのだ。真水を樽に入れて船に積み込むこともあったようだけれど、それは数日のうちには緑色のドロドロした液体になってしまう。当然だけれど、海水を飲めば命に関わる。だから、劣化しにくい酒類を飲むしか無いのだ。船上生活が酒飲みの日々なのだから、中毒になる。一度中毒になってしまえば、陸に上がってからも酒を飲まずにはいられないというのだ。

陸の上でも、もともと水は豊富ではない。あるにはあるけれど、硬度が高い上に飲水としては適さない水が多いのだ。日本人の子供に絵を書かせると、川の色は水色で描かれることが多い。これに対して、ヨーロッパでは緑色が用いられるという。日本で緑色の水といえば池くらいのものだ。この差はとても大きい。

大陸の河川と比べると、日本のそれは急峻だ。ヨーロッパ人が初めて日本の川を見たときには、ほとんど滝のようだと言っている。もちろん、これは山岳の多い地形が大きく影響している。大陸の河川は、実にゆったりと平地を流れていく。その海までの道のりは長い。雨が降ってから海に届くまでの時間も距離も長いのだ。その結果、土中に含まれるミネラルが水に多く溶け出す。これが硬度の高い水の主な原因だ。日本の場合は、あっという間に海に帰っていく。雨から海までが短いのだ。だから、ミネラルが溶け出している暇がない。結果として軟水が多くなる。

この時間と距離の長さが、水の鮮度にも影響を与えている。山や大地によって濾過された水が、地表に現れてからどのくらいの時間が経過しているのか。これによって真水を飲むことが出来るかどうかにも影響がある。つまり、硬度と鮮度の両面で日本は飲水に恵まれていると言える。

ところが、この急峻な河川は大きな弱点を抱えている。地表にある水量が少ないのだ。大きな河川であっても、源泉から海まではあっというまである。少しでも天からの水の供給が途絶えると、すぐさま水不足に陥るというのだ。黄河や長江、ナイル川、ガンジス川がそう簡単に干上がることはないだろう。それに比べると、日本の河川はその保水量において脆弱なのである。

よく、山林が水を蓄えてくれているという話を聞く。おそらく、学生時代の教科書にも記載されていただろうから、多くの人にとっては聞いたことのある話だろう。もちろん、これが事実なのだ。ただ、前述の河川の状況を把握した上で、山林の保水力としての価値を考えると、より重要度が高く感じられるのではないだろうか。

近年、東海道リニア計画について、様々なニュースが報道される。そのほとんどが静岡県知事が駄々をこねて経済に悪影響だという論説である。たしかに、経済活動の側面から見ればその通りだろう。水資源の確保について、もとの水量を河川に戻すようにしろとか、それを保証しろとか、まるで無茶を言っているように聞こえる。専門家の人たちが、これについて様々な証拠を提出しているらしいのだけれど、実際のところはどうなのだろうか。ぼくらは、その情報についてはあまり触れる機会がない。それに、研究機関の情報を精査するだけの一次情報も考察する能力も持ち合わせていない。

頼ってばかりで申し訳ないのだが、日本の水資源はちゃんと確保できるのかを明示して欲しい。そういう心配をしてしまうのだ。なにしろ、日本が自給自足で賄える最大の資源は水なのだ。口に入れる全てのものの中で、もっとも潤沢なのは水である。自給率が最も高い食品であるコメも、その水資源の力で成り立っている。

アメリカの五大湖周辺の水資源が枯渇しかかっているらしい。農業においては、豊富な湖と地下噴水から得られる水が重要だった。しかし、水が足りなくなり、土壌は塩害に見舞われているというニュースを聞いたことがある。あの広大な国が、水資源においてどれほどの深刻さを持っているのかは不明だが、それでもじわじわと水資源の確保に対して意識が高まってきているという。周知の事実だが、アメリカは世界最大級の農業国である。小麦やトウモロコシ、ジャガイモに大豆など、日本はその農業力に依存して生活している。もちろん、購入しているのではあるけれど、もしアメリカ国内の食料自給率が低下すればどうなるかわからない。輸出が制限されるかもしれないし、売価が高騰するかもしれない。

しかも、アメリカでは大規模農業の弊害が近年になって顕になってきている。アメリカ式の大規模農業が土壌の劣化速度を大きくあげてしまったようなのだ。これは、人類が初めて直面する課題である。大規模農業が始められる前に気づくことは難しかっただろう。さて、これが世界の食料問題にどの程度のインパクトを与えるのだろうか。

今日も読んでくれてありがとうございます。おそらく、世界中で最も水に恵まれた国の一つが日本である。土壌はさほど良くなかったかもしれないが、水のお陰で中世の早い段階から人口は増えていった。イギリスの人口が400万人だったころ、日本は既に2000万人を突破していたのである。もちろん、水資源が全てであるとは言わない。しかし、貴重で重要な資源であることは間違いないだろう。この資源をどう守り、どう活用していくのか。しっかり学んでいく必要がある。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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