今日のエッセイ-たろう

日本の食文化を支える技術者ってスゴイよね。 2025年4月25日

なにかしら課題があったとして、もし因果関係がはっきりとした原因が分かったとする。その場合は、原因を取り除けば課題は解決される。なんてことは、よくある話。例えば、部屋の中で家の鍵がどこにあるかわからなくなってしまうとする。その原因は、無意識のうちにどこかしらの家の鍵を置いているからだ。と、考えてみる。ならば、鍵を置く場所を特定して、意識することなく必ずその場所に置くように習慣づけてしまうことにする。といった、解決策を考える。それでも鍵をなくしてしまうのであれば、習慣化が出来ないことが問題かもしれないし、また別の原因があるかもしれない。

こんな話は、日常に溢れていて詳細に書き出したらキリがない。

Aという課題に対して、明確な原因Xが存在する。そんなシンプルな状況は限られていると思うのだけど、まぁそうだと考えてみる。で、ホントはね。ここで一度立ち止まって考える必要があると思うのだ。もしかしたら、BもXに起因しているかもしれない。ってね。Bが悪いことなら構わないかもしれないけれど、良いことだったら困る。更に言えば、Bは、別のCの原因にもなっているかもしれない。

個人的にとても大切な考え方だと思っているんだけど、考えるのに時間が掛かるし、けっこう知識も必要みたい。

日本の食文化は、食品加工業によって破壊された。なんて投稿をSNSで見かけたんだけど、ホントかな。どこでも同じような味でつまらないし、いろんな保存料が使われているし、大量生産のおかげで味が平べったくなった。まぁ、そういう側面もあるかもしれない。ただ、投稿で嫌だと主張している内容は、誰が使っても美味しく出来て、長期保存ができるくらいに安全で、大量生産のおかげで手軽に手に入れられるようになったと言い換えられる。

これらすべてを手放したら、たぶんぼくらは生活の多くの時間を食料の確保に費やすことになる。いま、スマホでゲームをしたり動画を楽しんだり、ビジネスに勤しむことが出来ているのも、食品に関わる技術者たちがコツコツと努力をしてきてくれたからだ。

「伝統的な食文化破壊」という「A」の原因「X」は、実は「現代的生活」という「B」を支えている。本当に破壊されているかどうかについては、議論の余地があると思うけれど、ここでは一旦横においておく。とにかく、私達は「X」に依存してきたし、「X」に無理難題を押し付けてきたってことだと思うんだよ。

美味しくて、簡単で、安全で、きれいで、安くて、健康にも良くて、いつでも手に入る。これ、かなり難しいと思うんだ。想像してみて欲しい。仕事帰りにコンビニやスーパーマーケットにいって買い物ができるのは、誰のおかげだろう。戦前に戻ったら、お惣菜どころかインスタント食品もパンも手に入らないし、食材だって少ないのが当たり前の社会。明日からそうなります、って言われたらどうする?きっと多くの人が困る。個人が困るっていう程度じゃすまなくて、あっという間に社会構造がグチャグチャになって日常が一変するかもしれない。

良いかどうかはさておき、ぼくらは「X」の恩恵に預かっているし、それに期待してきたんだよね。それを達成した途端にはしごを外すように駄目だとするのは、さすがにちょっと違うんじゃないかな。

それに。ぼくは、日本の伝統が壊されたなんて思っていない。これは完全な持論だけど、課題が適切じゃないかもしれないと疑っている。

というのも、日本酒も寿司もぬか漬けも蒟蒻も、その産業はずっと古い時代の「X」だったりするからだ。その時々の社会のニーズに合わせて柔軟に対応してきただけ。そして、その中から良いと思うものを選び取って残してきた。それが、「伝統食と呼ばれているもの」。食の歴史を勉強していると、そんなふうに見える。だから、今も同じように「今ある中から良いと思うものを選び取る」ということを繰り返すだけなんだと思う。「ちょっと前まではあったけど失いかけているもの」の中で、残したいものは取り戻したら良いだけのことだし。

過去の良さと現在の良さを混交して取り入れていくこと。それだけのことなんだと思う。今が駄目だから過去に立ち戻ろうという意気込みはわかるけど、だからといって現在に存在する「良いと思えること」まで放棄する姿勢はちょっといただけないと思うんだ。

今日も読んでいただきありがとうございます。ちょこちょこ見かけるんだよね。自然栽培こそ至極。添加物撲滅。大量生産忌避。ちょっと極端なんだよね。昔ながらの生活が最高ってさ。いや、ホントに戻れると思うのかな。体験したこと無いでしょう。ぼくだってないけど、想像するだけでもけっこう大変なことだと思うよ。それにね。ここまで努力してきた人たちに、とても失礼だと思うんだ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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