日本料理を通して伝統について考える。 2023年2月3日

「日本料理の変遷」シリーズを通して、日本文化とはなにかについて見てみようと思っていた。なにか掴めたのだろうか。ということで、今一度振り返ってみることにする。

なにかと、海外からの影響を受けて日本料理のフォーマットは変わっていった。特に中国大陸文化の影響はかなり大きい。平安時代の大饗料理にしても、鎌倉から室町に入ってきた精進料理も、基本的に中国文明からの輸入品。千利休が完成させたという茶の湯と懐石にしても、元はと言えば茶道というものの源流は中国にある。江戸時代に伝来した普茶料理はシリーズでは取り上げなかったけれど、これもまた日本の食文化に大きな影響を与えた。明治時代になってからやってきた西洋料理は、恐ろしく日本というものを意識させるきっかけになったし、同時に日本の食卓を西洋化させもした。

にも関わらず、だ。いずれの外来文化も、どこか日本流にカスタマイズされていってしまう。よく、日本は外来品を魔改造するのが得意だと言われるけれど、その傾向は日本に限った話じゃないと思うのだ。おそらく、世界中のあちこちで同じように自国文化に取り入れていって、気がついたらその国の独自の色に染められている。

既に配信したシリーズで言うと、豆腐もそうだ。今では同じ中国の中ではあるけれど、元々南北の文化は別物だったというのが、中国の文化。北方の文化を取り入れた南方の人たち。逆に南方の文化を取り入れた北方の人たち。じゃがいもだって、元はと言えば南米はインカ帝国特有の食文化に根付いたもの。それが、いつのまにかジャガイモ料理といえばドイツとかフランスと言われるようになったし、フィッシュアンドチップスとなりフレンチフライになり、アメリカでポテトチップスが生まれた。みんな、それぞれの国の特有の食文化になっている。

どうも、ぼくらは日本文化の源流を茶の湯と懐石に帰結させてしまう傾向がある。ワビサビの文化だ。物静かで、わびている。どこか物足りないが、それを美しいと感じる心。空間の芸術とでも言うのだろうか。それこそが「日本らしい」と感じてしまう。

けれども、このワビサビを原点とする「日本らしい」という感覚は、明治時代に政府の方針で定められたものであるという。外来文化が攻撃的に入ってくる時代。西欧列強と伍して渡り合わなければならない時代。西洋人からみてもわかるように、彼らの文脈に則った文明を表現してみせたのは、既に本編で語った通り。西洋文明を模倣して取り入れるということを行ったわけだ。一方で、当時の世界は「日本とはなにか」を問い、その答えを求めた。お前たちはなにものだ。と。

これに対する答えを、当時の人達は持っていなかった。いや、感覚的にはあったかもしれない。ただ、それは日本全体の文化ではなく、一部のもの。というのも、それ以前の日本というのは多様な文化の集合体。江戸三百諸藩といわれる独立国家がそれぞれに文化を持っている。それどころか、日本列島全体が一つの文化で統一的に語られた時代は存在していなかった。

そうは言っても、諸外国に対して「日本」を語らなければならない。まだ、産声をあげたばかりの近代国家「にっぽん」を。それも、一端の文明国として。

そんな努力の一部が、新渡戸稲造の「武士道」であり、岡倉天心の「茶の本」であり、内村鑑三の「代表的日本人」である。言語をもって、諸外国に対して日本人とは何かを説明した書籍だ。今でも評価の高いそれらは、見事な働きをした。

この時期に、食文化や芸術といった文化を取りまとめるために用いられたのがワビサビである。もちろん、ワビサビが日本の伝統的文化を牽引してきたことは間違いない。ただ、これ一色であったかというとそうでもないはずだ。

江戸時代の日本絵画でも有名な伊藤若冲は、明治以降はしばらく忘れられた存在になってしまったし、曾我蕭白も同様だ。彼らの絵はまったくもって見事ではあるし、日本の誇りである。しかし、当時はワビサビに文化を集約してしまったために、日本文化から振るい落とされてしまった。だから、海外の美術館などに多く流出しているのだ。

こうした、削ぎ落としのようなことが他にも起こっているかもしれない。と考えたほうが良いと思うのだ。それだけ、現代人である僕たちは、「日本らしさ」即ち「ワビサビ」という先入観に染まっているのだと意識することから始めたほうが良さそうだ。

今日も読んでくれてありがとうございます。今更ながらに、日本の伝統というものを考えてみると、食文化だけじゃなくて建築とか、慣習とか、創作物まで意識を広げる必要があると思うんだよ。それには、ぼくの知識はまだまだ足りない。まだ、しばらくは勉強が必要だな。

と言いながら、もう少し考えてみたいので明日も続きを書いてみよう。

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