今日のエッセイ-たろう

江戸時代に「循環型社会」は意識されていたのか。未来人視点の現代。 2023年11月5日

たべものラジオの影響で、ぼくのグーグルアカウントはやたらと「歴史」「食」「健康」「テクノロジー」などのキーワードの組み合わせでニュースを紹介してくれる。おかげで、検索の手間も省けるし、時には自分で検索してもたどり着かなかっただろうと思える視点に出会えるのはありがたい。一方で、偏りが強いのは困る。そこで、興味のないことをあえて検索してみたりもするのだけれど、その時間は一体何なのだろうという気持ちになる。なんだかAIに振り回されているような気もしないでもない。

現代人には現代人なりの感覚があり、些末な日常の中にちょっとした不満や満足がある。不満だとか、満足だとかの感覚は、相対的なもの。前述のような「AIによる情報のパーソナライズ」が存在しているから、その延長線上に「もっとこうだったら良いのに」とか「この部分は助かっている」という評価がある。もし、サービスそのものが存在していなかったら不満も満足も存在しない。

グーグルがおすすめしてきたネット記事の中に、「江戸時代の生活はサスティナブル」という内容のものがあった。ふむ、確かにそのようにも見える。いろんなコメントが付いていて、肯定派も否定派も様々だったのだけれど、その前に考えなくちゃいけないことがあると思うのだ。

「それは、当時の人達の感覚ではない」

当たり前だけれど、江戸時代の人たちが「これこそサスティナブルだ!」なんて思っていたわけがない。サスティナブルという外来語があるわけもないし、日本語だとしても「持続可能性」という概念が現代と同じ文脈で語られていたかというと、甚だあやしい。

持続可能性ということを考えているとしても、ちょっと視点が違う。よく「もったいない精神が生きている」と言い換えられるようだけれど、それもまた違うのだと思う。全部、現代人の視点なのだ。

着物は長い間使われて、古くなったら他のものに形を変えて使い倒される。酒蔵で使われた桶は、醤油蔵、味噌蔵へと譲り渡されて、バラして木片となったあとでも活用されてきた。それは、もったいないという感覚よりも、それしかないからなのだろう。高価だったり貴重だったり、入手するためには苦労しなければならないものは、目の前にあるものを上手いこと利用するほうが合理的なのだ。

それ以外の選択肢が極端に少ない。だから、その事自体に不満も満足もない。池波正太郎の小説では藤枝梅安が品川の自宅から上のまで出かけていくシーンがよく見られる。馴染みの料理屋があるのだ。たかが料理屋に行くだけのために、品川から上野まで「歩いて」行く。現代人の感覚であれば、大変そうだとか時間が掛かるとか、ありえないとか、いろんな感想があるだろう。けれども、それ以外の手段がほぼない。となると、それに対して不満もなにもないのだ。

どこでもドアが存在しない現代社会では、新幹線で移動するのは最良の手段だし、飛行機を使うのは長距離移動における最速の手段だ。時間が長いとか、腰が痛いという不満はあっても、それ以上に短縮された世界を知らないのだから、本質的な不満は存在しない。

未来人の視点で振り返った時に、たまたま江戸時代がサスティナブルな社会のように見ることが出来る。ただそれだけのことだ。で、これを現代に引き付けて考えるとどうなるのか、というのが寛容。

現代において、当たり前の生活。それは文化的なものでもいいし、産業的なものでも良い。もっと身近な生活習慣でも良い。サスティナブルだとかリジェネラティブだとかを意識していない物事が、数百年後の人たちからどう見られるだろうか。

現代社会を捉えるためのひとつの視点として、未来人を持ち出すのも良い手段だと思うのだ。ぼくらが過去を振り返るように、擬似的に未来から今を振り返ってみる。それは、歴史を現代に活用するために必要なスキルのひとつだと、ぼくは思う。

今日も読んでくれてありがとうございます。そう言えば、歴史上の偉人ってやたらと「歴史書にどう語られるか」を気にしていたよね。なんだか、よくわからない感覚だったし、見栄っ張りだななんて思っていた。なんだけど、もしかしたら統治を考える時に、過去と未来の両方から今を眺めるということをしていたのかもしれないな。と、いま書きながら思いついた次第だ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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