食文化の特徴を勝手に考察してみる。 2024年6月1日

ミルクシリーズも超長編になってしまった。もうすでに、過去最長。こんなに長くて良いのだろうか。たべものラジオは、今のところミルクを語るラジオになりかけている。うまくまとめれば、もっと短くなるのだろう。ただ、今シリーズはじっくりと向き合いたい内容だと思っている。

現代の日本では、ミルクは食文化に定着しているし、重要な産業の一つになっている。その歴史の長い文化圏に比べれば年間消費量は少ないけれど、それでも一年を通して一度も乳製品を口にしないことなど無い。そう断言できるほどには浸透している。

では「和食」の範疇かと問われると、そうではないと直感的に思う人が多いだろう。本格的に日本で産業化されてから150年ほど、各家庭まで広がってから70年ほどだろうか。まだまだ新参者の様相だ。厳密に言えば、1000年以上前から日本でもミルクがチラホラと歴史に顔を出すのだが、ミルク文化の圏外にいると言って差し支えないだろう。

日本の食文化を深く理解しようと思ったとき、日本以外の食文化を並列に眺めることで見えてくることがある。世界の食文化を、「ミルク食文化」というフィルターを通してぐるりと見てみる。そうすると、なにかが見えてくるかもしれない。という期待もある。ミルクに限らない「なにか」が。

縄文時代は狩猟採集だったが、弥生時代から農耕になっていった。かつては、そんなふうに学習した気がする。この認識を持っている人もいるかもしれない。だが、どうもこの認識は明確に誤りのようだ。狩猟栽培。このほうがずっとぴったりとくる。そして、このスタイルは広い意味で縄文時代と同じ。弥生時代が始まる頃に水稲栽培が加わって、その比重がとんでもなく大きくなっていっただけのことだ。

日本人は狩猟民族という感覚が薄くなっているけれど、ちゃんと残っている。ほら、スーパーマーケットで売られている魚は「天然」の方が高級で「養殖」のほうが安く扱われているでしょう。価格が安いのは、養殖のほうが生産効率が良いからだけれど、ぼくたちの中に「天然」のほうが上等だという感覚がないだろうか。実際、天然のほうが味が良いことが多い。牧畜というのは、獣の養殖なのだ。近年になって、ジビエがもてはやされるようにはなったけれど、まだまだ獣くさいから苦手という人も多いと聞く。が、ジビエとは天然物なのである。

もし、天然の牛やブタを保護するとして、漁業と似たようなことをするなら放流するのだろうか。どこか無人の山野に幼獣を放って、いつか狩りに行く。なんだか、現代人には想像しにくい。ちょっと残酷に感じるかもしれないけれど、少しは自然に近いようにも思える。

農耕栽培、狩猟、採集、牧畜。と、食料獲得手段を並べて眺めてみる。それぞれのスタイルの中で、人為的な方法から自然に近い方法までグラデーションになっているのだろうな。とても自然に近い農耕もあれば、管理された狩猟だってある。牧畜だって、かなり自然に近いやり方をしている人だっている。ただ、近現代は牧畜がずっと人為的な方法に偏っている。人間にとって都合の良い様にコントロールしているように見える。というのは、他の食料獲得手段と比べて、その様に見えるのだ。

欲しいと思ったときに必ず手に入る。本来ならば、そんな食材はほとんど無い。だから、たまたま手に入ったものを食べるしかない。だから、調理というものが発展したのじゃないかと思うんだ。今、ふぐを食べたいと思ったとしても、ふぐが釣れるかどうかはわからないもの。たまたま釣れたのがアジだったら、それを一番美味しい状態でいただくことを考える。

これと並行して、なんとかして保存する方法を編み出してきた。発酵や脱水など、様々な工夫をして、たくさん入手できたときに加工してとっておく。まさに人類のミルク食文化のほとんどはこれだ。

「あるものを食べる」「保存する」という2つのスタイルを、それぞれの地域で環境に合わせてうまいことバランスを取ってきたのだろう。たまたま日本列島は食材がとんでもなく豊富だから、ユーラシア北部に比べて「あるものを食べる」比率が高いように見える。日本は発酵大国であることは間違いないのだけれど、保存を通り越えて調味料として多く用いられるのも、そうした背景があるかもしれない。一方で、保存食品の比率が高いのは、獲得できる食材が少なかったからだろうか。

今日も読んでいただきありがとうございます。まだミルクシリーズは続くのだ。もう飽きちゃったかな。でも終盤に差し掛かって入るからね。ちょっと思いついたままに、気がついたことを書き出してみたのです。

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