今日のエッセイ-たろう

「嫌いな人がいない」という違和感について考えてみた。 2022年11月4日

「私には、嫌いな人なんていません。そう言う人は、ちょっと信用しきれないんだ。」というのは、僕が言っているのではなくて、聞いた話だ。

言った人は、個人的にお付き合いのある人で、信頼している人なのだ。なんというか、示唆に富んでいて、対話をしているとお互いに学びを深め合うことが出来る関係。なのだけれど、冒頭のセリフの解釈が難しい。わかるようでいて、しっくりこない。そんな感覚かな。実は、このセリフを耳にしたのは夏のことなんだ。もう数ヶ月前のこと。良し悪しはさておき、ぼくなりに解釈をしてみたくて、しばらく寝かしていたんだよね。

こうして書き始めてはみたものの、まだ釈然としていない。いくつかのヒントに触れた気がするから、いつものように文章にしてみたら、何かに気がつくかもしれないと思ってね。さて、どうなることか。

「嫌い」という言葉を文字通り受け取ると、けっこう強烈だな。ホントに「嫌い」なのではなくて、なんとなく「好かん」というくらいでも通用することなんだろうか。性に合わないとか、話が噛み合わないとか、生理的に受け付けないとか。ただの言葉遊びみたいだけど、言葉の印象を入れ替えてみたら、なにか気がつくかもしれない。

そうだな。「好かん」というくらいで解釈してみようか。嫌いではなくて、好きではない。好きの対象をどこまで捉えるかというのは問題だけど、冒頭のセリフを鑑みると「普通より下」くらいのポジションが良いか。なんとなく好きになれない。そんな程度ということにしよう。

じゃあ、好きになれないのはなんでだろう。ちょっと、限定的な状況を設定してみようかな。

5~6人で飲みに行ったとして、そのうちの1人が対象だとする。うん、まぁ別に問題ないな。居ても居なくても大差ない。好きになれない人だとすると、率先して会話をしないのかもしれないけれど、それでも話はするだろうね。このくらいの人数で飲み会をしていて、全く喋らないのも不自然だし。みんなで会話をしていれば、流れで話すこともある。そんな状況。

この場合で想像できる「好かん」はなんなのだろう。話が合わないとか?でも、そうじゃない場合もあるんだよなぁ。意見や考え方は違うのだけれど、その人達と一緒に話をしているのが楽しい。冒頭のセリフを言った人もその一人。一致することもあるし、相反することもある。そこじゃないか。だとすると、一致することも相反することもあるという対象と比べてみるとわかるのかもしれない。

一緒に居て楽しい人は、相反する考え方になった時にどんな対応だったかな。「でもさ」という言葉も使うよね。反論するんだから。それでもOKなんだ。同じくらいに「なるほどね~」とか「だとしたら」という言葉も多い印象がある。

そうか。話が合わないんじゃなくて、合わない話を楽しめるかどうか、なのかもしれない。一見して否定の言葉でもある「でも」は、相手を否定するために使っているんじゃないんだね。反証をあげることで、相手の意見を深く探ろうとする意思の現れなのだ。否定じゃなくて、反論の存在の主張。だから、会話をしていても一緒に居ても不快感が少ないのだ。

好かんという人は、そこなのかもしれない。となると、その人の人間性に依存するようにも見える。だけど、そうばっかりじゃないのかもしれないな。前述の条件にすべて当てはまる場合でも、それでも好かんという人もいそうだ。そりゃそうか。前述の条件は、あくまでも僕個人の価値観なんだからね。個人の価値観においては、この部分を重要視しているということだ。

価値観の違い。そうだな。重視しているポイントが違うってことなんだろうね。それぞれに、自分なりの価値観があって、そのポイントが大きくずれているとか、互いに干渉し合う場合に「好かん」という状況が生まれるのかもしれない。そして、それぞれの価値観は否定するようなものじゃない。困った事のようにも見えるのだけれど、好きな色が違うとか、好きな食べ物が違うといったような類のものだろう。DNAに刻まれているものなのか、それとも社会や歴史や環境に依存するものなのかはわからない。とにかく、違うという事実だけがある。そう考えると、世の中には必ず「好かん」という対象が発生することになるんだろう。

とりあえずは、冒頭のセリフについての解釈はこんなところに着地した。あとは、嫌いな人とどう折り合いをつけるかが次の話になるね。互いに変わっていくだろうし。環境とか学びとか、そういったもので価値観は変化していくよね。ぼくなんかは、学び、つまり勉強や経験によって、自分の既存の価値観が壊れる瞬間に楽しさを感じちゃっている。そういう人は他にもたくさんいるだろうし、知らず知らずのうちに価値観が変化することもあるだろう。それは、すれ違いを生むこともあるけれど、かつては好かん対象だった人とも仲良くなる可能性もあるってことだなのだ。

今日も読んでくれてありがとうございます。若い頃には美味しいと感じなかったものが、いまは美味しいと感じる。そういうことってたくさんあるよね。それは、価値観が変わったということだ。その間になにがあったのかを振り返ってみるのも面白い。一度の経験だけで判断してしまうのはもったいないよね。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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