今日のエッセイ-たろう

ひとつ前に戻って学び直すと、目の前の事が急にわかるようになる気がする。 2023年4月7日

最近になって、学びについて強く感じていることがある。小学生や中学生の頃の学びが不足しているな、と。こうしたことに気がついたのは、もちろんたべものラジオを始めたから。原稿を書く前に、色々と調べ物をするわけだけれど、調べて手に入れた情報をどう理解していいかわからないことも多い。仕方がないので、基本的なところから学び直しをすることになるのだけれど、大半のことは中学校で使っている参考書や資料集で事足りてしまう。

たべものラジオでは、食べ物の来歴を語るという特性から、歴史の学びが多くなってしまう。十字軍や三角貿易、アメリカ独立戦争などの歴史的事象については、高校生でも世界史を取っていないと学ばないかもしれない。けれど、大雑把な歴史の流れは中学生の頃に勉強しているはずなのだ。数学的なことを取り扱うことはないけれど、小中学生の理科に相当することが食品の理解に繋がることはよくある。

義務教育は、基本的に積み上げ型。だから、一つ前の段階のことをしっかりと理解していないと、その先のことがわからなくなってしまう。基本的な四則演算をちゃんとマスターしているから、因数分解を理解できるわけだし、因数分解がわかるから関数の世界を深く探究できる。この過程のどこかで、躓いてしまうとその先の世界が全くわからない。

雑学を集めたおもしろ本のように、パラパラとめくって気になったところを読むだけで面白がれる。というようなものではない。学びというのは、そういうものなのだろう。そもそも、雑学本を楽しめるのは、義務教育などで基礎教養を授けてもらった経験があるからだ。

もし、今なにかを学んでいて、どうにも理解できないことで躓いているとしたら、一つ前の段階にもどって学び直すことを勧めたい。なんのエビデンスも提示できないのだけれど、ぼくの経験ではそういうことになる。

砂糖に関する歴史や、甘さと権力の関連をまとめた人類学の本などは、初めて読んだ段階ではよくわからなかった。文字情報は流れ込んでくるし、曖昧な納得感を得ることは出来る。けれども、実態や構造をしっかり理解することができなくて、なかなか読書が進まないのである。まるで「周知の事実」のように書かれていても、それはぼくにとっては「未知の発見」なのだ。だから、ひとつひとつを丁寧に調べていかなければならない。

仕方がないので、中学高校の歴史資料集とにらめっこしている。ぼくにとって歴史の教科書はわかり易すぎて、「わかったつもり」になりがちなので、時々読む程度にしている。そんな苦労を重ねていくと、いわゆる「世界史」が見えてくる。その状態で、もう一度砂糖の歴史に関する書籍や考察を読むと、今度はより深く映像とともにぼくの内側に入ってくる。

前提知識をしっかりと理解しておくこと。それが、新しいことを学ぶためにとても大切だということを、今更知ったという話。

積み上げ構造という意味では、おそらく今の社会も同じようなものなのかもしれない。

砂糖というなんだかわからないけれど、人類が欲しがる食材を作り出した。だから、生産方法が確立されて、社会に供給できるようになると、需要が拡大する。だから、より生産性の高い方法を生み出していった。その結果、更に市場が拡大したために、生産が追いつかなくなってくる。生産が追いつかない理由は、土壌の劣化と労働力の不足である。だから、あらゆる手段で労働力と土地を確保しようとした。

砂糖を巡る産業を乱暴に要約すると、このような流れだろう。それぞれの事象をつなぐ接続しは「だから」である。世の中は「だから」の連続でここまで来たというように見えるのだ。

もし、世界が「だから」の連続でここまで流れ着いたのだとしたら、である。ぼくが学びの中で一つ前の段階に戻って学び直したのと同じ様に、世界を学び直すことは有効なのではないかと思うのだ。一つ前の社会のことを学ぶ。そうすると、その社会を作り出した「だから」があって、もう一つ前の社会を学ぶ。つまり、前提知識を学ぶという作業なのである。

歴史を知ることは、それ自体がとても面白い。面白いから学ぶという姿勢でも全く問題ない。ぼく自身もそうだ。それとは別に、現代社会の役に立てたいと思うのならば、「今を知るために歴史を学ぶ」という姿勢も良いかもしれない。繰り返しになるけれど、歴史は現代を知るための前提知識だからだ。

今日も読んでくれてありがとうございます。人文知識の社会実装というのを、どのような形で具現化させるのが良いのかはイマイチわからないんだけどね。ある種のマーケティングと捉えるという感覚もあるかもしれない。マーケティングって、市場や社会そのものと企業やプロダクトとの関係を見定める行為でしょう。食料問題やフードテックと向き合うにあたって、とても大切なことのようなきがするんだよなあ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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