今日のエッセイ-たろう

デザインってなんのためにあるのだろう。 2022年7月30日

最近、ふと思ったのだ。世の中にはなぜデザインが求められるのかと。そんなことわかりきっている。という声も聞かないではない。けれども、よくよく考えてみると不思議なことのように思えてくるのだ。

今、デスクに何冊か本が積み上がっているのだけど、全部デザインされている。その本の内容やイメージを想起させるような装丁がされているわけだ。本質的な部分だけを考えたら、別に無くたって良いかもしれない。書籍の最も本質的な部分は、文字だ。文字の羅列が表現している世界が本質であって、それ以外のものは無くても成立する。実際に文庫本のカバーをはずせば、実にそっけないものになる。

料理だって同じコトが言えるだろう。極端なことを言えば、生きていくために必要な栄養素を摂取することが出来さえすれば、どんな料理でも構わない。生き物というのはそういうものだ。にも関わらず、人間は料理をして味をアレンジするし、美しく美味しそうに盛り付けをする。

直感的には、どんなモノでも美しい方がいい。使い勝手も良い方が良い。そう思っている。使い勝手については、理解がしやすいのだけれども、見た目のためのデザインはなぜ存在しているのか。それに価値を感じているのはどういうことなのだろうか。

モノの使い勝手。本の中身を想起させるような装丁は、とても便利だ。すべての文字を読まなくても、なんとなく世界観を伝えてくれる。写真や絵や色から、どんな雰囲気なのかということくらいは掴めるだろう。そうじゃないこともあるけれど、つくる人はそういうことを考えてデザインしているだろうから。

紙を束ねているということ。つまりは、私達が当たり前だと思っている本の形も、とっても使い勝手が良いようにデザインされている。蛇腹折りでもなく、巻物でもない。とてもコンパクトなスペースで本を読むことが出来る。立てることも出来るし、積み重ねることも出来る。まぁ、積み重ねるのは本の保管としては良くないそうだけど。そういえば、背表紙があるのも使い勝手が良いな。イチイチ中身を確認しなくても、ちゃんと並べてあれば背表紙だけでどの本なのかが判別できる。蛇腹折りだとなかなか厳しいものがある。巻物も立てるのは難しい。出来ないことはないだろうけど。

こうして考えていけば、使い勝手は理解しやすい。

料理の盛り付けも、ホントは機能が伴うはずだ。はずだ。というのは、私達の業界ではそれが普通なのである。見た目だけを重視して、食べやすさなどの機能を損う盛り付けは素人だと笑われる。前菜のように複数の料理が盛り込まれている場合、機能を考えて盛り付ける。まず、手前から食べることが多いということを想定する。だから、数種類のうち、最初に口にしてもらいたいものを手前に持ってくるのだ。味の濃いものは奥に置く。

とは言え、人というのは必ずしも手前から食べるとは限らない。もしかしたら、奥にあるものの方を先に食べたいと思う人もいるかもしれないのだ。そして、それは決して悪いことではない。食べる人の食べたいように食べれば良い。ただ、作り手がどのような思いで複数の料理を組み合わせたのかを知ることは楽しみの一つでもある。ということで、そのための簡単な手がかりとして一定の作法というものが存在する。

煎茶道における作法について、こんな記述を見かけたことがある。お茶を入れたり飲んだりするコツをわかりやすくまとめたもの。作法と聞くと、つい難しいものと捉えてしまいそうになるけれど、実はそうではない。より美味しく、より深く楽しむためのコツをわかりやすくしたテンプレートなのだ。ということなのだろう。

料理にもやっぱり作法があって、基本的には左手前から食べるということになっている。無視しても構わない。ただ、料理人と食べる人の間での意思疎通の材料として存在しているということだ。

使い勝手のデザインについては、少しずつ言語化することが可能だ。たぶん、もう少し時間をかければ、いくつもの具体例から抽象化していくことも出来る。という気がしている。では、見た目というのはなんのためにあるのだろうか。

ビュッフェスタイルの食事では、各自が自由に料理を更に盛り分ける。見た目もへったくれもない。そういうことが多いだろう。個人的にはとても気になるのだけれど、それは職業病みたいなものか。ほとんどの人が、デザインなど無視して、食べたいものを食べたいだけ取り分ける。これを見ると、デザインとはなんだろうと思うのだ。

車は走れば良い。家は雨風がしのげれば良い。服は気温に合わせることが出来れば良い。これらに利便性が加わればなお良い。というだけのことで良いのかな。

ファッションの世界では、オシャレは他人のためにある、という考え方があるそうだ。TPOにあわせて、相手に気分良く過ごしてもらうために自分を飾る。身だしなみという言葉のほうがしっくりくるかもしれない。発言した方の名前は失念してしまったが、超有名ブランドのデザイナーだった方だったと思う。

料理の盛り付けはどうなのだろう。スマホはどうなのだろう。車はどうなのだろう。見た目の美しさって一体何なのだろう。というドツボにハマってしまった。ここまで読んでくれた方には申し訳ないのだけれど、今のところ答えは見えていない。

そうそう。道具を美しい形に整えるということは、どうやら古代から行われていたらしいね。3万年前の遺跡から出土した土器にも、すでに模様が描かれていたのだとか。言われてみれば縄文土器などは、その典型かもしれない。煮炊きするためだけならば、縄目の模様など無くても良いのだから。なにか、人類にとって根源的な憧れのようなものがあるのだろうか。

動物としての人間には持ち得なかった、美への憧れ。そういうものがどこかのタイミングで私達の文明に登場して根付いた。ということは、人類にとってなにか良いことがあるから根付いたと考えたほうが良いのかな。なんだろう。

今日も読んでくれてありがとうございます。雑に並べただけの料理よりも、ちゃんと美しく盛り付けられたほうが良いもんね。料理は身だしなみも大切である。器は料理の着物であり、盛り付けは佇まいである。ということを、大先輩の訓示で伺ったことがある。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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