今日のエッセイ-たろう

事実を伝える。主観の入りまくった解釈「も」伝える。 2023年6月26日

世の中の大体の人はこう感じているよね。ということをとても気にするのが、マーケティングの基本。この表現は、もちろん語弊がある。ただ、どんなにセグメントを切り分けたとしても、大衆心理を読み取って商品開発や販売戦略に活かそうという発想自体は、「みんなが思っていることを想像する」ことに通底する概念だろう。

小さいながら会社の経営をしていて、とても役に立つことが多い。いろんな条件を指定して、その条件のひとならきっとこういうふうに考えるだろうと想像する。それをもとに、どんな行動をするか、何が求められるか、何を提供すればウケるかを考察していく。その裏付けとなるデータがマーケティングに使われる。

マーケットインなどと言われるのだけれど、最初に市場のニーズを読み解くところからサービス設計が始められることがある。とても重宝する考え方だ。前職も現職も、市場動向を読み解く上では活用したいと考えている。

ただ、これには大きな落とし穴があるのも事実。まず意思ありき。これが抜け落ちることがあるのだ。

ありがちなのが「とりあえずデータを集めて分析してみて欲しい」という指示。「分析したら何が見えるだろうか?」というのが根底にあるのだろう。これは、ぼくが実際に言われたことがあるセリフだ。

気持ちはわかるのだけれど、ちょっと危ない。マーケティングの世界でよく聞く笑い話がある。とある小売業の企業が「売上が下がる条件を調査して欲しい」と依頼した。あらゆるデータを精査した結果、最も強い相関関係を示した条件が判明した。「社長、天気が悪い日は売上が下がることが明確になりました」

そんなことはわかっている。と言いたい。マーケティングが力を発揮するときは、もう少し具体的な内容を持った「何をしたいか」を設定したときなのだ。もっと偏った言い方をすると、憶測を検証する時に役に立つことも多い。

結局スタートは憶測なのか。まったく科学的ではない。と思うかもしれない。けれども、実に科学的だとぼくは思っている。なにしろ、この世界の科学の発端は哲学なのだ。理論と言い換えても良い。世の中をじっくり観察すると、なんとなくこうじゃないかという推測ができる。そして、その推測は合っているのかを検証していく。新たな事実が判明したところから、再び仮説を立てて理論構築をしながら新たな実験を行っていく。そんなふうに見える。

データを用いて社会を観察する。たしかにそれは重要そうだ。仮説を立てるには観察することが必要なのだ。一方で、現場から感じられる定性情報も必要だろう。これが、実際にやってみるととても難しい。

例えば、とある街の人たちが全体的にどんな嗜好傾向を持っているかを知りたいとする。めちゃくちゃざっくりしている。目的としては、自社商品を新たにその街で売り出したい、というくらいのものだろうか。さて、どんな情報を観察すればよいだろうか。そう、視点が大切なのだ。逆に言えば視点を持たない観察は、あまり意味を持たない。

上記も実話である。実際に行ったことは、まず目的を設定すること。認知度を高める。対象はビジネスパーソンや学生に絞り込んだ。その上で、街を歩き回って、5箇所ほどのポイントを設定。そこから見える看板や景色に対して、誰がどのように行動して視線を動かしているかを観察した。予算が少ない中で、最も効果的に広告を行う場所を探したのである。電車の釣り広告などの傾向や、街の看板には何が多いのか、色はどうだろうか、認識されているものはどれだろうか。道を訪ねた時に、最も多くの人が答えられたのは何だったか。

こう書き出すととんでもなく細かい作業をしているように感じる。しかし、実際は少しずつ仮説を立てては検証するという作業の繰り返しなのだ。デジタルデータを活用できればもっと早いかもしれないし、精度も高いかもしれない。

良し悪しはわからないが、結果として初月の販売は出足好調であったことだけは事実だ。

これらを支えているのは、実は「こう見せたい」「こういうことを伝えたい」という意図があるからでもある。客観的な事実だけでなく、「ぼくの主観ではこう見えてますが、みなさんはどうですか」というメッセージを込めるのだ。

よく見かける「自治体PR動画」では、主観が見られないことが多い。観光客が訪れそうな場所や景色、体験などが盛り込まれている場合。それから移住したらこうなるという未来像。もちろん、それも大切な要素なのだけれど、「私にとってのふるさと」という主観が見えないのだ。共感してもいいし、ちょっと違うなと思っても良い。誰かの主観が入った解釈を聞かされると、それを呼び水にして「私の場合はどうだろう」と想像し始める傾向にある。

前面に押し出す必要はないと思うけれど、どこかに潜ませておくくらいにはあったほうが良い。というのがぼくの持論。

今日も読んでくれてありがとうございます。今日の話は、完全に個人の解釈であり、勝手な持論である。たった一人の経験と学習に基づいたものだ。こういうのって正解が無いんだよね。それこそ、ぼくが観察した結果なんだけど。きっと事実だけ並べられても面白くないんだと思うのよ。ぼくはこの辺が面白いと感じるんだよね。という主観を見聞きするのが面白いんじゃないかな。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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