今日のエッセイ-たろう

天井のムシに気がつく目線。 2023年9月8日

幼い娘と一緒にいると、いろんな発見があって面白い。先日もそうだったのだけれど、天井に虫がいるのに気がついたのだ。

天井に張り付いたそれは、小さな小さなクモだったのだけれど、家の中にクモがいる事自体は特に珍しいわけじゃない。我が家のように、周囲を自然に囲まれた環境であれば、時々ムシが入り込んでしまうことはあるんだから。

大抵の場合、一番最初に気がつくのは娘なのだ。ということが興味深い。

なにも娘だけがキョロキョロと周りを見回して生活しているわけじゃない。ただ、上を見上げる機会が多いのだ。キョロキョロするまでもなく上を見ている。大人が立っているだけで、彼女はぼくらの顔を見るために見上げなくちゃいけない。洗面所の鏡だって、なんとか自分の顔を見ることができる程度の身長だから、角度的に天井や壁の上の方が写って見えるのだ。

基本的に社会というのは大人に合わせて作られている。だから、子供たちの小さな体で世界を見渡せば、全てが高くて巨大に見える。もしぼくらが巨人の世界に飛び移ったら、彼らの体が大きいことにも驚くかも知れないが、あらゆる建物や家具や道具が大きくいことに驚くことだろう。その世界で生きていくことは、きっと不便でもあろう。

そんなふうに想像してみると、子どもたちにとってのこの社会は、よそ者っぽく感じるのかも知れない。もちろん、生まれたときから小さいわけで、大きくなったことなど無いから自覚がない。そういうものだと思って生きているだけだろう。ただ、大人向けに作られた世界におじゃましている、仮住まいしているというようにも見えるんだ。

レイヤーを少しずらすと、ぼくらも仮住まいかもしれないという気がしてくる。なにしろ、僕らが生きるこの社会は、ぼくのためにカスタマイズされているわけじゃない。きっと、誰かにとって過ごしやすい仕組みになっているのだろうけれど、それは一体誰なのだろう。

古い家屋だと、現代人にとっては天井が低いと感じることがある。ぼくは特別に背が高いわけじゃないけれど、鴨居が低くて思わず首を引っ込めたくなることだってある。当店に備え付けられた靴箱には、時々靴が収まらないこともある。総じてみんなが大きくなったのだろう。

つまり、システムが古いままだと過ごしづらさというか、不便さを感じることがあろうということである。

長年培ってきた伝統も、仕組みも、どこかで少しずつ変化が必要なのだろう。まるっきり変えてしまうのではなくて、ほんの少しでいいから現代に合わせてカスタマイズする。昭和後期の社会に合わせて作られたモノや仕組みは、人口増加や、経済が右肩上がりであることが前提になっていることもあるだろう。もうすでに人口は減少トレンドになっていて、今後30年間で3000万人ほど減ることがわかっているのだ。だとすれば、その社会に合わせてカスタマイズが必要なのだということになる。

最近、若者と高齢者とを対立構造で捉える向きがある。それは、もしかしたら上記のような構造があるのかもしれない。ちょっと住みづらいので、もう少し時代に合わせて変えませんか?という人たちと、いやいや、今のやり方で良いのだから、君たちが合わせなさい。という人たちの感覚のズレ。

まぁ、年齢で区切ることにあまり意味はないと思っているのだけれど、傾向としてはそうじゃないかと思ってね。

今日も読んでくれてありがとうございます。子供は、どうせ大きくなるんだからってことで、大人に合わせたサイズにしておいたほうが、コストが低いんだろうね。だから、家や家具をちっちゃくすることはない。だけど、社会の仕組みっていうのは、そういうわけにもいかないってことなんだろうな。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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