柔軟に、強かに、環境に合わせて生きる。 2023年9月12日

先日の台風で関東地方を中心に水害が発生した。テレビで見る程度でしか状況は分からないが、生活に大きな影響を与えたようだ。日常が早く戻ると良いな、と思うと同時に自然の力強さとか、恐ろしさを感じずにはいられない。

世界中に自然信仰はあるけれど、日本のそれが長く根強くあるのは、こうした自然災害が多いからこそなのかもしれない。とも思ってしまう。

自然信仰には、興味深い特徴が見られるという。それは、神そのものが善でも悪でもないということだ。例えば、水の神様は水の恵みをもたらすものであると同時に、嵐や水害をもたらす神でもある。太陽神も、その恵みを与えてくれるが、日照りをもたらすこともある存在だ。つまり、絶対的な力の象徴。

大いなる力に対して、人間は無力であることを自覚する。だから、祈るし、その力の前にひれ伏すしかない。そのうえで、社会を営むということは、人のほうが自然に合わせて生きるということになるのだろう。自然を変えてしまおうというのではなく、あるものに対して柔軟に対応していく。古代から中世の生活史を見ると、そんなふうに感じる。

平安時代初期くらいまでの建造物は、掘立柱建物が中心。弥生時代の遺跡では、竪穴式住居というのがあるけれど、あれと同じように大きな柱を穴に差し込んで建物をつくるのが一般的だったらしい。伊勢神宮も掘立柱建物だ。

高床式倉庫は、ネズミなどから収穫物を守ったり、湿気から遠ざけるために作られた。と、歴史の教科書では習った。たしかにそうだろう。一般住居が平屋建物だから、それと比較すればそういうことになる。屋内で火を使うとなると、どうしても土間が必要になるだろうしね。ところが、奈良時代くらいになると、貴族の住居は高床式になるようだ。

もしかしたら、水害から身を守るためという理由もあったのかも知れないという想像が働く。もちろん、ただの憶測でしか無い。まだ治水レベルの低い時代のこと。川が氾濫しなくても、町は水浸しになったのだろうか。歩くのも大変な状況。現代でも大雨が降ると、水害とまではいかなくても、地面が水浸しになっている光景は見られる。いくら、住居の周りに水路を掘っていても、浸水被害のリスクは避けられない。そう考えると、高床式の住居が一般化していくのは自然なことなのかも知れない。

報道では、今回で三回目の床上浸水の被害にあわれた方が紹介されていた。引っ越せばいいのにというのは、安直な発想だろう。現代社会では、土地の所有という概念があり、街のあり方も簡単には変えられない。生活を継続するためには、その地を動かないという選択が最も効率が良いということになるのだろう。

古代。現代とは全く違った社会形成。だとすれば、気候の変動などに合わせて町は徐々に移動していったのかもしれない。遷都はもっと政治的な意味を持ったり、呪術的な理由が本筋だろう。けれども、どこかで自然の変化に合わせて生き抜く社会を作っていたのかも知れない。そんな強かさを感じるのだ。

自然を変えてその地に生きるのではなくて、自然の変化に合わせて生きる場所すらも変えていく。そんな柔軟で、したたかな社会。それが古くから伝承される日本の社会なのかも。

今日も読んでくれてありがとうございます。万葉集とか古今和歌集なんかを見ると、自然に合わせて我々が変化しているというように見えるんだよね。まぁ、偏った見方なんだろうけど。地球温暖化や人口増に起因する食料問題なんだけどさ。今までの生活をある程度忘れながら、自然の変化に合わせるという部分も必要なのかも知れない。てなことを思った次第だ。

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