今日のエッセイ-たろう

日米のスシの違いから、それぞれの国の文化の特徴を考えてみる。 2025年6月2日

海外で人気のスシは、現代日本人から見るとちょっと珍妙に思える場合がある。最近では、一部の都市で本格的な握り寿司を提供する店もチラホラ見られるけれど、多くはロール、つまり巻き寿司だ。それも、鉄火巻やかっぱ巻きとは違う路線のものが多い。

日本人の感覚では、魚介類をタネにしたものがスシの主流だ。それはもう、熟れ鮨の時代からずっとそうだったから、そうではないものに出会うとちょっとした衝撃を感じるのだろう。もしかしたら、かっぱ巻きや稲荷ずしが登場したときにも、同じような衝撃があったのかもしれない。などと想像するると面白い。

アメリカで人気のスシが、日本人の感覚からすると珍妙に感じるのは魚介類を使っているかどうかではないだろう。確かにスパムやミートパティやチリビーンズなどを使ったロールもあるけれど、それよりも強烈な味付けに起因しているように思える。クリームチーズやスパイシーマヨネーズ、ハラペーニョ。他にも独自のソースで味付けされたものもあるし、視覚的にもインパクトの強いアレンジも広義の意味で強烈な味と言えるかもしれない。濃い味付けが好みなんだろうな。

アメリカの食文化と言うと、ハンバーガーやアメリカンピザ、ジャガイモなどの均質化したイメージを持つ人も多い。実際、そうした社会が出現したことも事実だ。けれども、元々は驚くほどに多様な食文化を内包していて、他の国のように国全体を包み込むような統一したパラダイムが薄かったから、統一感のないバラバラの郷土料理がたくさんあった。しかも、先住民、ヨーロッパの色んな地域、アフリカ大陸のあちこち、西インド諸島、南米、アジアのいろんな国々の人たちが寄り集まっていて、場所によって異文化の混交の仕方が違う。土着的ではなくて、人の混ざり具合で出来上がった、ごちゃ混ぜの食文化が多様に存在しているのがアメリカという国の食文化。

18世紀頃から続く「多様性」と20世紀以降の「均質化」は、行ったり来たりしている。均質化しすぎると、反動で多様性を求める動きが登場する。そのとき、注目されるのがアメリカではない食文化なのだろう。国内には古い時代のものがないので掘り起こしようがないし、そもそも異国文化を取り込んで混ぜ合うのがアメリカの伝統。多様性を取り戻そうとするときには、国外を見るというのが基本的なスタンスになっているのかもしれない。まぁ、アメリカ以外の国でも見られる現象だけど。日本もそういう側面があるだろうしね。ただ、アメリカは時間的サイクルが短いから、動きが激しいんだと思う。

多分に私的推察を含んでいるものの、こうした多様性の流れはアメリカに顕著に見られると考えている。この流れを踏まえれば、アメリカ流のロールスシ文化は実に伝統的で正当な文脈に沿ったものと言えるだろう。

アメリカがアメリカらしさを追求していくと、それは国を閉じることではなくて開き続けることに繋がるように見える。これ、日本と逆なんだよね。遣唐使を廃止すると国風文化、鎖国すると江戸文化みたいに、一度インプットしたらインプットを止めて自己流に作り込むと独自文化が強化される。あ、でもオリジナリティを追求すると均質化するのかな。よくわからなくなってきた。

もしかして、閉じた社会のなかで文化共有が進んで、それが行き過ぎると均質化するのか。それがアイデンティティとして良いのかどうかはわからないけれど、日本は比較的文化共有によって独自文化を築いてきたし、アメリカは国際的多様性によって文化を築いてきた、と解釈することも出来るかもしれない。多様性ってイノベーションを生む原動力みたいなところがあるから、文化的にも経済的にも必要なんだよね。

あ、そうすると江戸時代のイノベーションの説明がつかないな。国際的には閉じている状態だけど、内部にある社会の多様性をうまく調整できたってことなんだろうか。地域性とか、個人の違いとか、男女差とか年齢とか。それって、文化の共有が前提にあるから出来ることなのかもしれないな。なんというか、同質社会だから得られる安心感とか共同体意識。そういうのが、個人の多様性を受容するベースになっているとか。

こうして考えると、ひとくちに多様性と言ってもレイヤーが違う気がしてくる。個人という単位で考えるのと、〇〇人と考えるくらいの解像度の差。実際の生活では、そこまで大きな差分があるかどうかわからないけど、わずかながら傾向くらいはあるかもね。だからこそ、大きな集団になったときに文化としての固有性が表出する。食文化という題材は、こういうのを考えるときにはとても良いサンプルになりそうだ。

今日も読んでいただきありがとうございます。たべものラジオを始めてから気がついたんだけどね。社会を読み解くのに、経済とか政治だけだと見えてこない部分があって、衣食住とかアートみたいな文化が大切なんだと思うんだよ。なんで、そんなこと考えちゃうの〜?みたいな違和感てあるでしょ。意外と根っこにある考え方って、生活文化と切り離せないところにあると思うんだ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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