今日のエッセイ-たろう

気候変化にあわせて、料理の味も変わっていく。 2024年4月4日

今年は少し桜の開花時期が遅いらしい。という話なのだけれど、本当かなあ。たしかに、昨年よりは遅いのだけれど、それって昨年が早すぎたんじゃないだろうか。なんとなく、4月の初旬に桜が満開になるようなイメージもあるのだ。人間の記憶や感覚というものは、あまり信用ならないようだ。

ここ数年間の記録を確認すれば良い。それだけで、一昨年以前の開花時期がわかるのだから。と思うこともあるけれど、わざわざ調べるほどの気力は湧いてこない。それほど重要な情報だと思っていないからだろう。せいぜい、会話の種になるくらいのものである。

もし、暦がなかったら。そうだ。暦というものが存在していなかったら、どんな感覚なのだろう。「今年は桜の開花が遅いんだな」、そんなことすらも思わないのか。それどころか、桜の開花時期を基準にした生活をしていたとしたら、その他の季節の移ろいのほうがずれているように見えるかもしれない。観察や比較をするためには、物差しが必要なのだ。その代わりに、桜を基準とするような別の物差しを捨てるということでもあるのか。

この数十年の間に、平均気温は上昇し続けている。この事実は、直感や記憶とも紐づいているような気がする。穏やかな春の温かさよりも、夏のうだるような暑さのほうが長い。そう遠くない未来、日本の気候区分は温暖湿潤気候ではなく、亜熱帯になってしまうのじゃないだろうか。

気候が異なると、人間の味覚は変わる。いや、気候の異なる地域間では異なる食文化が形成される傾向にあると表現したほうが正確だろうか。もしそうだとすると、日本の食文化は徐々に東南アジアや南アジアのような特徴を帯び始めるのかもしれない。比較的はっきりした味付け。油脂を使い、塩分や酸味を好むようになるだろう。かといって、塩分の過剰摂取は健康を害することになるから、辛味や香りの強いものが利用されるようになる。ちょっとしたスパイス食文化の国になるかもしれないな。

ただ、水資源の豊富は日本の特徴として維持されるだろう。硬度の低い水がこれほど豊富な国はない。よく、日本料理を評して「水の料理」とか「引き算の料理」と表されるのだけれど、この先もこの傾向は続くことになるのだろうか。

気候が変わるだけじゃない。野菜や果物だけでなく、酒も甘いほうが喜ばれるという傾向が続いている。糖度の高い農作物、砂糖を多用した料理などに引っ張られるように、いろんなものが甘くなった。20~30年ほど前のレシピを参考にして料理を作ってみるとよく分かる。野菜が甘くなった分だけ料理全体が締まりの無い味になる。その分、甘味調味料の量を減らす必要があるのだけど、この甘さに慣れてしまっているのが現代人なのだ。だから、古くから伝承されている料理を再現すると、美味しくないと感じてしまうことがある。

ここまで甘さを取り上げたけれど、これに限った話ではない。脂質が多かったり、濃い味のものが増えたりというのも、変化の傾向だろう。なんだか、太りそうな食文化である。

少ない塩味や甘味で満足できるような料理に仕上げるならば、やはりポイントになるのは「旨味」と「香り」だ。日本料理ではあまりスパイスやハーブを多用しないイメージが有るらしいが、実は香りの料理でもある。ただ、強烈な香りではなく食材そのものがもつ香りが好まれているだけだ。もし、亜熱帯気候に近づいていくのなら、この香りは南アジアや東南アジアのように強烈なものに変化していくのだろうか。興味深いところだ。

今日も読んでくれてありがとうございます。気候環境だけで食文化が決まるわけじゃないんだけどね。でも、確実に影響はある。日本料理というフレームの中で、徐々に変遷していくのだろうな。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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