今日のエッセイ-たろう

砂糖と世界史、人が作り出した社会のパターンを見つめる。 2023年4月27日

「甘さに魅せられた人類の欲望と権力の物語」。これが砂糖の歴史シリーズのタイトルのはずだった。弟の「長い」という一言により、強制的に「権力の砂糖」という全く意味の通らない謎の日本語になってしまったのだが。

なぜ甘いものが好きなのか。人間の根源的な問を設定することも出来たのだろうけど、それはやめた。あんまりおもしろくないと思ったのだ。糖質と脂質とタンパク質という三大栄養素と、動物のエネルギーを考えればさして難しくもない。タンパク質は体の部品で、糖質と脂質がエネルギー。細かいことは置いといて、こんな感じだ。脂質はエネルギーとして使用するためには、分解しなければならない。圧縮エネルギーボールみたいなものだと思ったら良いかもしれない。糖質は、そのまま使えるので体にとっては楽ちんなのだけれど、糖質の形のままでは体内で保存できない。大まかに言えばそんな仕組み。体外に大量の糖質を保存しておいて、いつでもそれを接種できるということは、ことエネルギーの接種だけを考えればとても効率が良いということになる。動物の味覚は、必要な栄養素を美味しいと感じるようになっている。だから、甘いものが美味しいと感じるのだ。

他にもいろんな説があるだろうけれど、概ねこんなところ。原稿にしたところであっという間に書き終わってしまうような問いではある。それよりも、もっと興味深いことが広がっているのが砂糖を巡る人間の愚行である。なにしろ、前述の通りに人間は糖質を至高のものだと体感してしまう。だから、それを欲しがるのだ。結果として、多くの人が欲するものは取り合いになるし、需要が高まれば産業になり、産業が発生すれば経済が強くなる。

砂糖を持っている人とそうでない人というヒエラルキーが発生する。現代社会でもそうだけれど、たぶん人類は他人と比べて競争をしたがる生き物なのだ。お金をたくさん稼ぐひとは「偉い」という感覚を持っている人も多いのではないだろうか。少なくとも「スゲー」とは思うだろう。それは、お金の多寡が競争の尺度とされる社会だからだ。お金は人の価値を図る点数として機能している部分がある。SNSで「いいね」の数を競うのも、別の競争ゲームだろう。

たまたま、近世以降のヨーロッパ社会は「お金」が競争ゲームの尺度となっていて、砂糖というアイテムをゲットすると高得点を得られるというルールになっていた。そのための手段には、道徳的な考え方や規範のようなものがなくて、その名の通りの放任型自由経済のなかで自由に選択されていた。プレイヤーの中でも強い人達が、自分に有利なように作り出したルールなのだ。当然といえば当然の結果である。

そして、その先にやってきた未来は「三角貿易」「奴隷制」「民族の分断」「資源の枯渇」などであった。これは、近世・近代の世界史に明るい人なら、誰でも知っている世界。そして、現代社会は確実に近代の延長上である。

米ソ冷戦、米中対立、ロシアウクライナ戦争、これらのいずれを見ても、確実に「近代の続き」である。まだ、世界は第一次世界大戦の続きにあるのだ。どうも、現代日本人はこの感覚が薄いらしい。明治維新や太平洋戦争を境目にして、別の物語にでも切り替わったかのように感じているかもしれない。「○○編完結、新シリーズスタート」。そんなわけないのに、である。

元々のタイトルの通り、砂糖の歴史をたどる旅は、人類の欲望と、それが作り出した社会の仕組みを知ることだった。際限なく高得点を目指すゲーム。上限が無いから、金持ちは大金持ちを目指すし、大金持ちももっと巨額の富を得ようとする。富があるから、自分に有利なルールを作るような権力もついてくる。そうなれば、格差は広がる。当たり前の話である。

特に、産業革命以降の格差は大きく開く一方だった。もともと格差を作り出す要素があった社会構造に、ブーストを掛けたのが産業革命。石油エネルギーの登場だったのだろうか。

格差が広がる。不満がたまる。限界に近づいて爆発する。奪い取る。新たなルールへと移行して勝とうとする。などの行動があちこちで見られるのが砂糖の歴史を通して感じたことだ。調和よりも、競争で勝つことが優先される。で、実はその価値観は今も同じだ。国家間であっても、自国民が最優先。自国を犠牲にしてまでも他国の安全や幸せを優先するなどということはない。むしろ、ライバルよりも優位にたとうとする。健全な競争状態であれば良いけれど、いつでも砂糖を巡って繰り広げられた暗黒時代に戻る可能性があることを忘れてはいけない。何をするということはなくても、その可能性があるということを知っていることと、ウォッチすることが大切なことのように思えるのだ。

今日も読んでくれてありがとうございます。砂糖の歴史シリーズの本題とは違うんだけどね。いろいろと勉強してみると、こんなことにも思考が巡ってしまうんだよ。もちろん、三角貿易が行われていた時代は現代とは違う社会だから、全く同じことが起きるとは思わないよ。だけど、行動原理としてはホモ・サピエンス社会に組み込まれたプログラムだろうから、そういう意味の理解だけはしたほうが良いかなと思うんだ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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