学びの連鎖:たべものラジオで紡がれる知識の結びつき 2023年4月26日

初期の頃に比べて、シリーズがどんどん長くなっている「たべものラジオ」。話を長くしたいわけではないのだけれど、つい長くなってしまう。

ひとつのシリーズを書き上げるのに必要な書籍は、さほど多くはない。せいぜい5冊から10冊程度。情報が重複している部分もあるから、本が多くなればそれだけ情報量が増えるというわけでもない。現在進行中の「砂糖の歴史」で、主に使用している書籍は3冊なのだけれど、かつて無いほどにシリーズが長くなっている。

なぜ長くなっているのか。と改めて考えてみる。

本を読んでいると、「よくわからないこと」に出会う。本の中では、さらりと流される単語に躓くのだ。もともと世界史に強いわけでもないので、例えば「フレンチ・インディアン戦争」とか「七年戦争」などの影響と言われても、「さてこれはなんだろう」、「で、どのような構造で影響を及ぼしたのだろう」と疑問だらけなのだ。だから、それを調べていく。

「アメリカがフランスからルイジアナを買い取った」という事実がある。その結果、アメリカ国内のサトウキビの生産量が増えたというのだけれど、「ナンノコッチャ」なのだ。そもそも、国家間で領土を売買する事自体が、現代の感覚では理解できない。

調べてみると、フランスなどのヨーロッパ諸国は、植民地を維持管理するためのコストが本国の負担になっていたということがわかる。ナポレオンは、カリブ海でのプランテーションを中心とした産業の構造改革をしようとしていて、その構想の中にはハイチが含まれていたのだけれど、独立されてしまった。しかも、本国では周辺国との戦争があって、お金が必要だった。これらの要素が重なって、北米の植民地を売却することにした。ということが見えてくる。

上記の部分は、参考書籍から読み解くのは難しい。背景の知識を予め持っていなければ、知りようのないことだろう。もしかしたら、この部分はラジオで話さなくても良いのかもしれない。けれど、せっかく調べたのだし、話したい。それに、ちゃんと背景を理解したほうが、砂糖産業の広がりに影響した力学が見えると思うのだ。

多くの「知識系ポッドキャスト」では、詳細部分を上手に割愛している。たしかに、ポッドキャストで、すべてを語ることは難しい。面白い部分を中心に、本質部分だけを語る。それを入り口にして興味を持った人がいたら、本などで勉強して欲しい。つまり、きっかけづくりである。

どう考えても、そのほうがわかりやすいし、誰も彼もが詳細情報を欲しているわけではないのだから、理にかなっている。にも関わらず、ぼくは詳細情報をドンドン詰め込むのである。

ただただ、話したいという欲求もある。「ねぇねぇ、調べたらこんなこと見つけたよ」と、子供みたいにはしゃいでいる。この気持は間違いなくある。でも、それだけじゃないのだと、最近になって気が付いた。リスナーの皆さんと一緒にたどり着きたい場所があるのだ。

いくつかのシリーズを聞いてくださっている方ならお気づきかもしれない。それぞれのシリーズでは、ぼくが勝手に命題を掲げている。日本料理とはなんだろうとか、伝統とはなんだろうとか、なぜ求められたのだろうとか、代替肉の捉え方だとか、スシの定義とはなにかとか。答えなんて出そうにないことを問いに立てて、話を始めていく。

この問いについて、予め答えを持ってからシリーズを始めることはない。そもそも、たべものラジオは自転車操業なのだ。調べては話し、調べて話すの繰り返し。全体の話を書き上げてから配信しているわけじゃないので、ぼくもリスナーの皆さんとほとんど同じくらいのタイミングで勉強している。だから、みんながどの様に解釈して、どんな解を得たのかを共有できたら良いなと思っている。シリーズの最終話になって、「ぼくはこう思ったけどよくわからない。皆さんはどう思ったかな」という帰結になるし、それを目指している。

シリーズの目的地が、「一緒に考えてみよう」なのだ。だから、それに必要になりそうな情報は、共有しておかなくちゃいけない。各自で調べてくださいというのは、少々申し訳ない。少なくとも、ぼくが調べてわかった事実くらいは全て共有して、その上で違う見解があるというのが面白いことなんだと思う。

で、これを実現しようとすると、けっこう多くの情報共有が必要になる場合が多いのだ。

今日も読んでくれてありがとうございます。授業じゃないからね。事実だけを伝えるなら、それは本を要約するだけでいいと思うんだ。事実を知った上で、ぼくの解釈を伝える。同じ事実を共有した人が、ぼくとは違う解釈を言う。お互いに解釈を交換して、また別の解釈が生まれていく。で、読み取りの解像度が上がっていく。それが面白いと思うんだよね。

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