今日のエッセイ-たろう

電話営業は古いのか。何が「迷惑」と感じさせるのか。 2023年4月25日

「ウェブマーケティングの専門企業です。貴店の集客を2倍に出来ます。」という電話がかかってきた。とても興味深い話だ。興味深いのは、集客を増やせるという実利の話ではなくて、その企業の営業方法についてである。話によると、ウェブ媒体の工夫だけで集客を2倍に出来るというのだから、相当集客に自信があるのだろう。けれども、その企業がウェブマーケティングではなく、テレマで集客を行っている。なんとも皮肉な話である。丁重にお断りした。

社会が動き始めたからか、電話営業が増えてきた印象がある。世間では「迷惑」と捉えられがちなテレマーケティング。たしかに、迷惑な電話がとても多い。だからといって、個人的にテレマーケティング自体が駄目だとは思っていない。テレマーケティングには良い側面も多くあるからだ。

テレマーケティングの良いところは、プッシュ型営業であることだ。20年ほどの間に、ウェブ上の情報がかなり多くなり、スマホ普及後はその情報へのアクセス数が爆発的に伸びた。つまり、誰でも必要な情報を手に入れられる状況になったということである。反面、アクセスできる情報はぼくたちが能動的にほしいと思った情報に限られる。欲しいと思わない情報は、意識が変化しない限りは永遠に触れることがないかもしれない。検索サイトは、ユーザーの趣味嗜好を学習して、より興味の高い情報へのアクセスを誘導するのだから、その傾向はより高まる。情報が偏るのだ。

テレマーケティングは、相手の好みを飛び越えて潜在ニーズを掘り起こすことに関しては一定の効果があると思う。興味も必要もない情報のために時間を割くのは、正直気持ちが重い。ただ、時として潜在的なニーズを掘り起こしてくれることもあるのは事実である。

テレマーケティングの問題点は、その運用方法やトークスクリプトだ。電話というのは、一時的なものであっても人の時間を奪う行為である。作業中の手を止める。会話を中断する。映画の良いところを見逃した。など、嫌なものは嫌なのだ。かと言って、電話をかける祭には相手の姿など見えないのだから、空気を読んで声をかけるタイミングを図ることなど出来やしない。オフィスなど、姿が見える状況では相手の様子を観察して、良さそうなタイミングで声をかける。というのは、多くの人が無意識にやっていることだ。それが出来ない以上は、慎重にかつ綿密に想像を広げて、なるべく近づけることになる。

現状では、そんなことをしているテレマはほぼない。手間がかかりすぎるからだ。だから、とにかくたくさん電話をかける。断られても断られても、しばらく時間をおいてかける。駄目なら他に当たる。日本にはたくさんの中小企業もあるし、人口もいる。確率は低くても、何度も繰り返しせば当たりもあるのだ。というのが基本思想になるだろう。そんなにたくさん電話をかけるのは大変だと思うだろうけれど、彼らの多くは手動で発信しているわけじゃないのだ。専用のソフトウェアがあって、自動で発呼することができる。例えば5人のオペレーターが待機状態だとして、発呼比率を1.2にすると、同時に6件の電話をかけ始める。つながらないことを想定して、とにかく架電数を増やそうというのだ。

やけに詳しいのは、ぼく自身がコールセンターの管理者をしていたことがあるからだ。委託先のコールセンターの状況もよく分析をしていた。

トークスクリプトと表現するのは、いわゆる台本。話の構成は、チームで作成されていて、オペレーターはそれを元に話すのだけれど、実際は読み上げている人が多い。この台本が、実は問題だと思う。ぼくが現場にいるときは、何度も何度もダメ出しをした。というのも、胡散臭いのである。よくあるのは「電気代を下げられる情報があったので、お知らせします」とか「中部電力の料金を下げられます」という話だ。情報を伝えるためだけのように装ったり、中部電力のように装ったりしている。法律に引っかからないように、合間にこっそりと自社企業名などを入れて、後半にセールストークに導いていく。なかには「ちょうどそちらの地域を担当者が回っていて、お客様にとってラッキーなことに」ということを言う場合もあるが、担当者が近辺を巡回するかどうかは知ったことではない。ラッキーでもなんでも無い。「ほんの1時間でいいので話だけでも」というのは論外で、人の1時間の価値を何だと思っているんだ、と怒りを覚える人もいるだろう。

これらを全て考慮すると、どのようなテレマーケティングが有効なのだろうか。電話をする前に相手の情報を下調べする。個人相手の場合は難しいかもしれないけれど、企業であれば少なからずウェブ上に情報がある。そのうえで、提案内容や架電時間帯などを考慮して、1件1件丁寧に電話をしていく。実際に、そうして電話をしている企業もある。成約につながらなかったとしても話をすることが出来るし、真摯な対応であれば冷たい断り方をする人も少ない。だから、オペレーターも心を痛めることなく長く仕事をすることが出来る。

つまり、人としてまともな思考を働かせれば、それだけで良いということになるのだろう。

はっきり言って、この方法は効率が悪い。効率というのは、運用上の問題だ。電話をかけられる時間帯が1日のうちに3時間程度しか無い。提案商材と見込み客の状況によっては、そういうこともあるだろう。3時間しか電話をかけられないのに、電話をかけるだけの専門家を雇うのはコスパが悪い。それに、事前調査をするのも調査内容から提案を組み立てるのも、パートタイムジョブでなんとかなるようなスキルでもない。スキルの習得には相応の時間がかかるだろう。

これらを改善する方法は、いくつか思いつく。どうとでもやりようはあるはずだと思っている。それを検討しないのは、過去の慣習に縛られているからなのかもしれない。多くのテレマーケティングがマイナスの印象を与えているのだから、丁寧に正攻法で実施するだけでその企業の信用は上昇するだろう。ギャップがスゴイからね。

今日も読んでくれてありがとうございます。テレマーケティングを管理する経験はこの先も無いだろうなあ。問題だらけなんだから、「ちゃんとする」だけで効果バク上がりなのに。と思うんだけど、既存の枠を壊すのって難しいんだろうな。滅多にないけど、たまに電話営業するんだよ。イベントの集客とかね。メールや電話でしつこくやらないといけないタイミングってあるからさ。もちろん、日頃の信頼を構築していないと、出来ることじゃないけどね。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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