今日のエッセイ-たろう

テレビの演出から、「伝える」について考える。 2023年6月18日

普段の生活の中で、あまりテレビというものを見ない。出勤してから家に戻るまでの間は仕事をしているわけだし、家に戻ったら寝る支度をして寝る。こうして文字にすると健全とは言えないだろうな、というきがしてきた。まぁ、そんな環境だからこそ、朝の時間や休日に家族と過ごす時間が貴重で、大切にしたい時間でもある。

先日、久しぶりにお昼の時間にテレビを見ていた。お昼の情報バラエティ番組というのだろうか。その時間は、ニュースではなく旅行先の特集。プロが選ぶなんとかかんとか。だいたい、東京を中心に企画されているだろうから、あまり遠方ではない。

とても面白いものを見た気がした。紹介された情報をのものは、知っていることだったり、興味をそそられることもないようなものだった。面白い!と思ったのは表現だ。そこまでするか、というくらいのパフォーマンス。気をつけていないと、そのまま聞き流してしまうくらいの小さなこと。だけど、普段テレビを見ることが少ないものだから、耳に残るのだ。

例えば、料理の紹介だ。「なんと毎日、餡を手作りしているんです!」「おぉ〜!」。それは「カサゴの唐揚げのあんかけ」のシーンだった。どんな状況を前提にしているのかわからないのだけれど、餡掛けの餡は直前に仕上げるより他にどうするというのだろう。少なくとも一人あたり一泊数万円の旅館で、しかも料理自慢の宿である。仕事は料亭と大きく変わらないのだ。

「こちらの宿は部屋の設備が充実しています。なんと◯◯のドライヤーが各部屋に1台ずつ」「おぉ〜」。確かに有名ブランドだけれど、めちゃくちゃ高級というわけでもなく、家電量販店で普通に庶民が買える程度のもの。

どちらの例でもそうなのだけれど、テンションが高い。別にどうということもないことを、とんでもなく凄いことのようなテンションで紹介して、それに呼応するように驚きの声を上げる。これが、とてもおもしろかったのである。当たり前だけれど、日常生活でこれほど大きな驚きに出会うことはない。テレビと同じテンションで生活していたら、ちょっとオカシクなっちゃったんじゃないかと思われるかもしれない。

これが、芸なのだろう。出演されている方々だって、その演出がわざとらしいということくらは承知の上だろう。なにしろ、上記に紹介したのは一部の話。番組の最初から最後まで、他愛もないことを大仰に紹介して、大仰に驚くいていた。それが、わざとじゃなかったら、ちょっと変な生活を指定得るとしか思えない。演出なのだ。力説するまでもないか。そんなことは、みんなわかった上でテレビという「芸」を楽しんでいる。

楽しんでいるのかどうかは、実際のところはわからない。もう、慣れきってしまって、毎日同じ芸を見せられているという感覚もあるのかもしれない。賛否についてはよくわからないけれど、そういった演出にニーズがあるから行われているのだろう。

ぼくらが、何かを伝える時。例えば、友人や家族に話をするときなどのことだ。伝え方や演出などということは考えない。淡々と話すのも、オーバーアクションで話すのも、それはその人の素の姿であることが一般的だろう。どんなふうに話せばよりインパクトを強く残せるか、などということを考えながら話す人は少数だろうと思う。

一方で、仕事でプレゼンテーションを行うときは、限られた時間で伝えたいメッセージを伝えなければならない。より強く、より明確に。それが求められるシーンだから。淡々と話すのも、少し間を取ったり、声を張ったりするのも、目的のために必要なことだからだ。

テレビの演出をプレゼンテーションだとすると、伝えるためにやっていることだと思えてくる。しかも、一人ではなくチームで。出演者だけでなく、プレゼン資料の段階からプロフェッショナルが企画しているわけだ。そいうあたりのところで、ぼくらのような素人が作り上げるものよりもクオリティが高い。

伝えたいことがある。そのために技術がある。しかもチーム戦略を駆使する。だから、よく伝わる。素晴らしいことなのだ。

しかし、伝えたいことがない場合もある。いろいろと企画してみて、考えたところ「これはボツかな」といこともある。ビジネスの世界のプレゼンテーションなど、日常茶飯事だろう。どんなに話し方が面白くても、伝え方が素晴らしくても、スライドショーが作り込まれていても。「で、伝えたいことはこんなこと?」ということはある。

この場合、伝える技術は逆に働く。つまらない内容であることが、よりはっきりと明確に伝わる。発信する人が情熱を持って伝えたいと思えない内容であることが伝わってしまう。技術というのは諸刃の剣なのだろう。だから、技術の目的を少し変える。大したことのない内容を、凄いことのように見せようとする。ということもあるのだろうか。

今日も読んでくれてありがとうございます。料理でも同じことが言えるんだろうな。気をつけなくちゃいけないのは、観光とかね。伝えたいことも、見せたいことも整理できていないのに「発信を強化する」という。すぐに動画や広告に飛びついてしまうのだけれど、それ以前の部分がすっぽ抜けるというケースがよくあるんだよね。良いものさえ作っていれば売れた時代は終わった。というけれど、良いものを作った上でプレゼンが重要になったという意味なんだと思うんだ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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