今日のエッセイ-たろう

食品衛生と、飲食業を工業的に解釈するということ。 2024年8月27日

飲食店をやっていると、衛生管理について考えないわけにはいかない。食材の点検、調理器具の管理、冷蔵庫の保守、体調管理に手洗い、害虫駆除。まぁ、食中毒をおこさないように色々努力しましょうということだ。アタリマエのことを、キチンとやるだけのこと。キレイ、清潔の感覚が備わっていれば、さほど難しいことじゃない。

ただ、「キレイ」とか「清潔」という感覚は、思っている以上にバラバラなのだ。気持ち悪いと感じる人もいれば、平気な人もいる。細かなところで、ちょっとずつ違うから、毎日の業務の中で差異が生まれる。肝心なのは、感覚を合わせることなのだ。

厚生労働省が指標とする衛生基準。これが、日本国内での「清潔」の基準になるはず。なのだけれど、これが案外微妙なのである。本来ならば、「感覚」「観念」を合わせることが肝心で、そこから派生する具体事象は「解釈」になる。

正直、「なにを清潔と感じるか」という曖昧な感覚を均質化するのはかなり難しい。禁止事項や奨励される事例を記載することで、このあたりが「清潔」なんだよ、と示すより仕方がない。ルールを整備する中で、伝えていくのだ。

本編のミルクシリーズの近代乳業でも触れているが、搾乳容器はきれいに洗って乾かしておくこと、手洗いを徹底すること、異物が混入しないように対策すること、などの具体的な内容が法令化された。そうか、異物が混入しているのは「キタナイ」んだな。前日のミルクのカスがついている容器を使うのは「キタナイ」ってことなんだな。毎日毎日繰り返し作業をしているうちに、洗っていない手を搾りたてのミルクに突っ込むことがオゾマシイことに思えるようになってくる。そんなふうにして衛生観念というのが伝わっていくのだろう。

当然、今のルール運用もそうなっている。手を洗わないで調理器具に触れる。この事自体が気持ち悪い。まるでホコリまみれの体で清潔な布団に潜り込むような気持ちになるのだ。

非加熱で提供するもの、加熱して出来立てのうちに提供するもの、加熱後保温しておいてから提供するもの、加熱調理後に冷却してから提供するもの。これらの食品の運用についても細かく基準がある。いわゆるバイキンが悪さしないようにするためだ。で、この運用のフォーマットが興味深い。

推奨される管理フォーマットが存在する。非加熱メニューは刺し身や冷奴、加熱料理はカレー、ご飯は保温。といった具合だ。もちろん、これは店舗ごとに異なる。このフォーマットを予め設定しておき、予め管理方法を定めておく。毎日、決められたとおりに管理が出来ているかどうかをチェックすべし、というものだ。この運用自体は問題ないし、違うパターンが有るのならば店舗ごとに独自に運用を考えても良い事になっている。

興味深いのは「工業的発想がベースになっている」こと。その日取れたものを調理して提供する。調理方法は日々変わる。というヒトにとって当たり前の行為ではなく、提供される商品はある程度固定化されていてそれを再現すること、が根底にあるようだ。そう言えば食材の仕入れに関しても、「問題が有れば業者に返品交換を指示する」というのが基本的スタイル。大多数がそうなのだろうし、現代の常識なのだが、歴史的に見れば非常識でもある。というのがとても興味深く思えるのだ。

今日も読んでいただきありがとうございます。いつもと盛り付けが違うとか、添付する調味料が違うとか、味が違うとか。当店では言われることは少ないけれど、そういう声を聞いたことがある。「あのな。工場で機械作ってるんじゃねぇんだぞ。」というのが本音だ。ミュージシャンのライブが毎回全く同じなんてことがあり得ないように、その時の感性で変わるのだよ。と思っている料理人仲間は多いけれど、ぼくらは「飲食業」の中ではマイノリティーだってことなんだろうな。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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