今日のエッセイ-たろう

この現象に名前が欲しい。そしてポップに伝わってほしい。 2024年8月30日

律令制。日本史の授業で聞いたことがある、という程度に記憶している人もいるだろう。遣隋使、遣唐使を通じて大陸から輸入した国家の統治システム。雑に言うならば、法律による統治と官僚システムのこと。聖徳太子の時代に始まって、平安時代までのおよそ500年間にわたって用いられた仕組みだ。

これが崩壊した理由はいくつかある。外敵がいなかったせいで、国内での権力闘争が激化したこととか、科挙のような登用試験が機能しなかったこととか、まぁいろいろあるらしい。個人的に大きなきっかけとなったのは、墾田永年私財法(743年)辺りだと思っている。日本史から遠ざかっている人にとっては懐かしいでしょう。なんだか語呂が良くて口に出して言いたい言葉のひとつだ。

もともと律令国家では、すべての土地と人民は天皇のもの。公地公民っていうやつだね。だから、土地は朝廷から借りているもので、借りている以上は返さなくちゃいけない。でね。それなりに統治がうまくいって、気候が良くなったこともあって人口が増えていった。人口が増えたら、その分食料生産も増えてほしいのだけれど、増えなかった。当寺は農業技術も未発達だったから、生産量を増やすなら農地を増やすしか無い。だけど、農民にはそのモチベーションがないのだ。頑張って開墾したところで、それは自分のものにはならないから。そこで、三世一身の法というのを作って、新しい感慨設備を作って開墾したら三代の間は自由にして良いということにした。だけど、結局は調停に返上しなくちゃいけないからあんまりやる気が出ない。儲からないんだ。じゃあ、しょうがないなあってことで、新たに開墾した土地は君たちのものでいいよって言い出したんだ。それが墾田永年私財法。

律令制って、中央集権国家を駆動するためのシステムなのね。そのために、天皇にあらゆる権力を集中させていたわけだ。公地公民もそのひとつで、下手に貴族とか豪族とかが土地を持って権力を持ち始めると中央集権システムがうまく立ち行かなかくなる。税収が少ないからって、本質の部分に目を瞑って場当たり的な対処をしてしまったわけ。確かに数十年単位では税収が上がったのだと思う。だけど、まさか墾田永年私財法をきっかけに地方荘園が力をつけて、それを統治する人が武力権力を持つようになって、武士が台頭するようになって、最終的に律令制が崩壊して武家政権ができるなんて思っていなかった。250年後にそんなことになるなんて、聖武天皇は思いもしなかっただろうね。

今あるシステムが、何に立脚していて何を目指して作られたものなのか。これを知らなくちゃいけなかったんだと思う。いうなれば、企業理念とそれに基づいた仕組み。眼の前の売上を上げるために、企業理念に反した行為は組織の崩壊につながる。ということなんだけど、これがなかなかわからない。なにしろ、直近ではポジティブな成果が出るからね。人間の命の長さを超えたところでの影響は気にしようがない。

だから、歴史に学ぶ必要があるってことなんだよね。

先日、ぼくよりも圧倒的に日本史に詳しい友人と7時間くらいしゃべっていたんだ。会話の流れで、たまたまアナロジーとして「律令制の崩壊みたいなこと」って言ったら、彼は瞬時に「墾田永年私財法ね」って返してきたんだけど。これ、全然伝わらないなって思ったの。ぼくらにとっては「あるある」の代表例なんだけど、歴史に詳しい人しかわからないの。

人生経験では理解できない、もっと時間スケールの長い影響。これ、もっとわかりやすく、しかもポップに伝えることできないかなぁ。というのが目下の悩み。いいアイデアあったら、ぜひ教えてほしい。

今日も読んでいただきありがとうございます。普段はあまりニーズがないかもしれないけれど、ぼくがやろうとしている事業の説明では避けて通れない概念なんだよね。どうしたもんかな。こまったこまった。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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