今日のエッセイ-たろう

言葉はファジーじゃないとコミュニケーションツールにならない。 2025年5月8日

日本人は、物言いがストレートではないと言われる。ストレートに言わないから伝わりにくいということで、ちょっと批判的な意味が込められている気がする。だけどさ。日本以外でもストレートに表現しない文化ってあると思うんだ。ちょっと昔の本なんかだと、ヨーロッパのものでも曖昧な表現が多い。例え話とか、比喩表現ばっかりでよくわからない。よくわからないからこそ解釈が多様で、だからこそ長い間読みつがれてきたなんてこともある。

ファジーな表現っていうのは、解釈の余地を残している。だから誤読が発生する。誤読が発生しやすいものが長く読みつがれていて、多くの人に愛されてきたというのであれば、ぼくらのコミュニケーションはファジーなもののほうが適しているっていうことになる。と思うのだ。

ファジーな表現だと、コミュニケーションは「シチュエーション」や「関係性」が重要になってくる。ぼくと妻の関係性があるから成立する言葉は、他の誰かに言っても伝わらない。伝わらないどころかすれ違いの原因になることすらある。友達同士でも、人が入れ替われば同じように伝わり方は変わるはずなんだ。だから、ぼくらは無意識のうちに使う言葉を選んでいる。

会議中での会話と、休憩室での会話は言葉が違う。というのと同じように、食事中の会話だとしても居酒屋のようなオープンスペースと個室では、やっぱり言葉の選び方が違う。そういうものなんだろうと思う。言葉の表現から曖昧さを取り除いたら、もはやコミュニケーションツールとしての機能が薄れてしまうんじゃないかとすら思う。ぼくも時々やってしまうのだけれど、誤解がないように正確に伝えようとするあまり、厳密な説明になってしまい、会話が間延びしたり白けてしまったりすることもある。そういうのは、シチュエーションや関係性、これまで積み上げてきたコミュニケーションの文脈が解決してくれる。

和歌なんて、安直に例えるものじゃない。と紀貫之も記している。隠された意味を読み取ろうとする行為こそが、和歌に深みを与えるというようなことを言っているんだと思うんだ。ポエムってそういうものでしょう、とね。

そういう思想が、きっとあちこちに潜在的に存在している。

普段、ぼくがこうして書いている文章だってそうだ。読む人が、ある程度日本語を読めることが前提になっているし、ある程度は日本文化を感覚的に認知している人だと思っている。その関係性を勝手に想像しながら書いているはずだ。意識しているわけじゃないけれど、たぶんそうだろうと思う。ポッドキャストだって、連続して聞いてくれている人とは関係性があって、だからこそ伝わる言葉がある。直接あったことがなくても、そういう関係性が生まれているんじゃないかな。

だから、シチュエーションとか関係性を「存在しないことにする」と、言葉はいかようにも誤読できることになる。SNSや動画の切り取りが炎上するのは、言葉以外の部分が削ぎ落とされてしまうからだろう。

逆に言えば、関係性が構築されていない場合に使うべき言葉は限られてくる。その場合にはストレートな物言いをせざるを得ないのだろう。だけど、それだと言葉では伝えきれない多くの情報がこぼれ落ちてしまう。ビジネスでもパーティーでも良いのだけれど、人と人との接続がひどく短絡的で深みのないものになりそうな気がするんだ。で、もしそうなら、脆い関係になってしまう。

だから、教養が重要ということになる。私とあなたの直接的な関係性はないけれど、共通点があることで関係性を作っていくことが出来る。同じ趣味であったり、同じ本や映画を知っていたり、文脈を知っていたりすること。相手がシェークスピアを読んでいて、ぼくがシェークスピアを読んでいなくても、源氏物語を知っている。というくらいのことでも、互いの文脈を交換することくらいは出来る。そういうことの連速の上で、いろんなコミュニケーションが成立するんだと思う。もしかしたら、歴史を学ぶことが大切だと言われ続けてきたことの一部はコミュニケーションのためでもあるのかもしれないな。

今日も読んでいただきありがとうございます。接待とかパーティーとか、旅行とか。なんでも良いから、共通の文脈をつくりながら関係性を構築しておく。だから、日常会話がスムーズになる。っていうことを考えると、やっぱり会食って便利なんだよね。あんまり機能だけで見るのは好きじゃないのだけどね。ビジネスパーソンは理解しておいて損はないと思う。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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