2026年2月23日。ガストロノミーシンポジウム掛川2026を開催する。
昨年の今頃、同じ書き出しで文章をしたためた。2回目の開催ということだ。
今回は少しばかり名前を変更して、”掛川”という地域名を後ろに表記した。もちろん理由がある。
「ガストロノミーシンポジウムのようなイベントが、あっちこっちで乱立してくれたら良いな」
「でね。それぞれが独立しているんだけど、なんとなく繋がって交流がある。そういう感じが良い」
というのが当初の願い。
そういう意味では、地名が強く出過ぎないほうが良い。と思ったんだ。
さて、ここからは今回のテーマに深く踏み入っていくのだけど、ぼくらがどんな課題意識を持っていて、それに応答するプログラムを考えたのか、という話でもある。
”食の土台”の持続可能性
各地域に「特色ある郷土食」っていうのがある。それは確かに伝統的なものなのだけれど、どこかデフォルメされている感じもする。例えば「◯◯鍋」みたいな郷土料理があったとしよう。それを村興し的に活用しようとすると、アピールするために「◯◯鍋の特徴」を”可視化”するわけだ。「たっぷり芋を入れるんです」とか「かぼちゃは欠かせません」、「味の決め手は地元も味噌です」などと言ってパッケージになっていく。やがて、それが”地域外の人”に認知されていく。わかりやすからね。
だけど、地元に行くと「うちは代々かぼちゃなんか入れないよ」という人もいるし、「味噌は県外産」だったり「醤油が良い」という人もいる。デフォルメされた結果”アピール力”は高まるけど、同時に”多様性”は失われていく。
失われていく理由は、ビジネスによる部分も大きい。特に飲食店や食品加工業は”わかりやすいイメージ”に寄せていくから。悪いのではなく、そうしないと買ってもらえないのだ。世代が入れ替わる位の時間が過ぎた頃、本当に”多様性”が失われるケースがある。「え〜、かぼちゃが入っていないなんて〇〇鍋じゃないよ。」と心の底から信じて育ったのだから仕方がない。
良いとか悪いという話ではなくて、ちょっと立ち止まって考えたらどうだろうと思うのだ。
「それってどこまでやるの?それでいいの?」
そう思う理由について、こんなふうに考えている。
今見えている「特色ある郷土料理」は、”そうなるための土台”があって生まれたもの。ここでいう”土台”っていうのは、例えば「温暖で雨量も多いけれど水はけが悪くて河川も少ない」みたいな環境条件もある。それから、他の地域とどう繋がっているかというのもあって、東海道みたいな幹線だったり、海運だったりする。どこをどのくらいの頻度で人が旅をして、産業に活用されていたか。支配者が都との繋がりが強ければ、都の食文化の影響を受けやすいわけだ。祭りの影響も受けるし、文学などにある”美意識”の影響も受ける。こうした様々な「土台」があるから「郷土料理」は生まれた。
つまり、土台を失うと「特色ある郷土料理」は「特徴的な癖のあるどこかの料理」になる。地域との接続を失って根無し草になるのだ。
変化しないように守るべきだ、と言っているわけじゃない。むしろ、どんどん新しいチャレンジをしたほうが良いと思っている方である。ただ、売れるかどうかだけを見てものづくりをすると、自分たちの持っている資産(=土台)を活かせなくなることもあるってことを危惧している。
極端なことを言えば「今、◯◯がブームで売れまくってるから作ろう!」みたいな感じでスタートしても、環境条件が合わなければどこかに無理な力がかかってしまう。自分たちの食習慣にないものをガンガン作り出しても、環境に合わないものは地元では消費されず他地域へ輸出するしか無い。で、気がついたら「この町でなければならない理由」が無くなっていた。なんてことになるかもしれない。
この考え方は慎重すぎるかもしれない。だけど、それでいいと思っている。だって、一度崩壊した文化は、そう簡単には戻らない。仮に、意図した方向とは全く違う結果になったとしても、「ちゃんと学んで、いろいろ考えたうえでやったんだよね。」と納得できる。それが「良き祖先」という姿勢じゃないだろうか。
”担い手”の持続可能性
地域の産品が「完全なるオンリーワンで圧倒的生産力がある」というケースは稀だ。ぱっと思いつくのは群馬県のこんにゃくだけど、これほど圧倒的なものは本当に珍しい。地鶏、和牛、大根、葱、と言った具合に並べてみればわかるけれど、あちこちに名物があるのが普通なのだ。味噌も醤油も日本酒も、日本全国に醸造蔵がある。
こんにゃくのように”一強対その他”という構図の場合、その他が取りやすい戦略は高付加価値化だ。滋賀県の赤こんにゃくは他に類を見ない特徴を持っていて、他の地域が真似してもすぐに模倣品だといわれる。そういうブランドが確立している。ぼくの地元なら、生芋こんにゃくなどを売りにしたり、有名な神社の参拝客を相手にブランド化している。
もう一つ例を上げれば、ビール業界も似た構図に見える。圧倒的な大手メーカーに対して、クラフトビールが高付加価値を目指して特徴を生み出している。
つまり、こういったケースの場合は”大量生産勢”と”高付加価値化勢”がうまく棲み分けが出来ていると言える。
一方で群雄割拠状態の産業もある。例えば味噌だ。生産量日本一は長野で有名なメーカーも多いが、実はほとんどが中小企業なのである。それだけでなく、味噌は種類が多様だ。仙台味噌、八丁味噌、西京味噌、麦味噌など有名どころだけでもバリエーションが多いことがわかる。そして、味噌は日用品であり各地域、各家庭に”定番の味噌”がある。麦味噌というジャンルの中で群雄割拠状態なのだ。
この場合、多くのメーカーが弱者の立場であると自認するかもしれない。特に、現状の味噌蔵や醤油蔵は経営が厳しいところが多いと聞く。存続をかけて利益を上げようと思ったら弱者の戦略を選ぶだろう。高付加価値化だ。もし、全てのメーカーが高付加価値化を戦略として選んだらどうなるか。今は1kgの味噌を数百円で購入することが出来るが、もしかしたら平均価格が2000円ということになってしまうかもしれない。
核家族と外部通勤という現代の社会で、自宅で味噌を作れるという人は少ないだろう。味噌は身近なものではなくなり、高級店でしか味わえない味になってしまうかもしれない。というのは少々オーバーだろうか。少なくとも、大手メーカーへの収斂が進み、多様性は少なくなり、よりいっそう味噌蔵が減少することになる。
少し話はそれる。ぼくが経営している店は料亭だ。一人当たり数千円から数万円の料理を提供している。いわゆるハレの食事だ。毎食これだったら、一ヶ月で一人当たり100万円になってしまう。ハレというのは、ケがあるからハレなのだ。絶対的なハレもなければ、絶対的なケもない。あくまでも相対的なものであって、互いの存在が互いを支え合っているのだ。定食屋を営んでいる知人が「定食屋としての矜持がある」と言っていたが、まさにそのとおりである。以前から主張していることであるが、何でもかんでもハレに近づける必要はないのだ。むしろ、ハレとケのギャップが幸福度を高めるという研究さえあるのだ。
さて、これらの話を踏まえて、産業全体を眺めてみよう。といっても、ここで語るには時間が足りないし、知見も足りない。
まず、ぼくらが認識したほうが良いだろうと思うのは「日用品が日用品であることの価値」だ。そして、それは”誰か”の不断の努力で成立しているという事実だ。困ったことに、日用品はインフラで、インフラというのは認知が低くなる傾向にある。そういうものなのだ。結果として、ぼくらの食卓を支えてくれているインフラに無頓着になってしまう。この状況は、ちょっとマズイ。
”誰か”が支えていくれているのだが、その”誰か”が報われなかったとしたらどうだろう。別に注目を集めたいというわけじゃないだろうけれど、誰にも感謝されないし、十分な報酬も得られないとしよう。だとしたら、誰が次の”誰か”をやるのだろう。
すぐに答えが出るようなものではないかもしれない。だからこそ、正面から直視することが大切なのだと思う。そして、「うーん、わかんないねぇ」なんて言い続けていても”失われた何十年”みたいな状態が続いていくだけだから、ちょっとでもいいからチャレンジを繰り返すしか無いんだと思う。そういう感覚を共有しておきたいし、共有した人たちとは折に触れて話題にしたい。
それが「知って、繋がる」というガストロノミーシンポジウムでもある。
今日も読んでいただきありがとうございます。
「知る」「繋がる」「越境する」については、昨年の記事を読んでいただくのが良いかな。昨年は「強い光の一等星だけじゃなくて、5等星もしっかり見よう」というテーマだった。それ自体は今年も継承しているんだけどね。上記の”2つの持続性”についても踏み込んでいこうと思ってさ。だから、今年は加工とか物流(中間事業者)が多いんだ。そして、それを包括する意味で、「コミュニティ」「ネットワーク」に着地するっていう流れにしたんだ。
で、この流れは2月21日に開催される「Koji The Kitchen Academy」とも繋がっているし、22日のツーリズム豊橋to掛川にも繋がっている。
開催概要
【ガストロノミーシンポジウム掛川2026】
テーマ :ローカルから考える文化と人のサスティナビリティ
開催日時:令和8年2月23日㈷ 10:30〜17:30(開場10:00)
会場 :SK駅前ホール(静岡県掛川市駅前4-4 4階)
定員 :現地100名
チケット:現地25,000円、オンライン10,000円
*早割・学割あり
公式サイト:https://kakegawa-gastronomy.studio.site/
チケット購入:https://kacha-muto.com/shop/
【もっと深めるネットワーキング】
開催日時:令和8年2月23日㈷ 18:00〜
会場 :やさいバス食堂(静岡県掛川市駅前4-4 1階)
定員 :たぶん50名くらい?
会費 :5〜6,000円くらい
【Koji The Kitchen Academy】
開催日時:令和8年2月21日㈯ 10:30〜20:15
会場 :emCAMPUS FOOD(アークリッシュ豊橋)
定員 :現地40名、オンライン100名
チケット:現地66,000円、オンライン11,000円
*ディナーなし版、早割あり
公式サイト:https://kojiyasanzaemon.store/blogs/koji-the-kitchen/presale-koji-the-kitchen-vol-6
申込サイト:https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSdSgc5PD6v-f_S_HFFFahS9XrgkV_PeQ3hHou7n8nnK-H0sBg/viewform