最初に生野菜。はホント? 2022年7月13日

本来複雑で、様々な要素が含まれているモノゴトを単純化して考える。シンプルが一番わかりやすい。Simple is the bestという言葉がもてはやされることがある。確かに、単純化したほうがわかりやすい。わかりやすければ判断もしやすくて、答えを導き出すことが容易くなる。結果として行動に移しやすい。

結局、行動に移さなければなんの結果も得られないわけだから、なるほど確かに単純化することにも一応の意義はありそうだ。

とまあ、いきなり抽象的な話を始めてしまったわけだけれども、こんなことを考えさせられることが日常に多くあふれている気がしているんだよね。

時々。サラダの追加注文をいただくことがある。掛茶料理むとうは、基本的に会席料理の店なので、居酒屋やフレンチレストランのように単品メニューを中心に構成することはない。会席料理はセットメニュー。単品メニューだけのお店とは異なるのだ。

サラダの注文が入るのは、着席してすぐのことが多い。というか、それしか無いかも知れない。理由は簡単で、糖尿対策なのだ。

糖尿病を患っているか、糖尿病リスクが高い人は、最初に生野菜を食べるべし。そういうことが言われるようになって久しい。これを読んでいる人の中にも、聞いたことがある人は多いだろう。

だけどね。ホントにそうなのかな。ホントに、最初に生野菜を食べることが対策として適正なんだろうか。どう思う?エビデンスがあるという言葉が付帯されているから、すっかり信じ込んでいるけれど、そのエビデンスやイシューをちゃんと確認していないことが多いんだよね。

実際、研究者の間でも意見はわかれるそうだ。野菜から食べ始めることが効果的かどうかについて。

糖尿病対策としての食事で、最も重要視するべきなのは「血糖値スパイク」を起こさないことだ。急激に血糖値が上昇すると、体が反応してインシュリンという血糖値を下げる物質が放出される。今度は血糖値が急激に下がって、平常時以下まで低下する。食後に眠気がやってくるのはこのせいだ。細かいことはさておき、これが体に負担がかかるよって話。そして、糖尿病を患っている人は、インシュリンがうまく機能しない人のことだ。ちなみに、ほとんどの場合は後天的な疾患だけれど、先天性の人もいる。

メチャクチャ単純化すると。と言っている時点でアウトかもしれない。最初に書いたじゃないか。まぁ、とにかく血糖値が急に上がるようなことがないようにしようね、っていうのが食事療法の考え方なんだ。最初に生野菜を食べると、それが起こらないということを言いたい。野菜を先に食べることで、糖質の吸収を遅らせる。そういうことね。

だけど、ホントは「糖質の接種を最後にしましょう」が、一番有功。研究者の中で意見が分かれていると書いたけれど、この点は合意できることのようだ。だから、最初にタンパク質から食べたって問題ない。なにも、野菜じゃなくてはいけないという話じゃないのだ。

さらに。日本のほとんどの家庭では意味がない。野菜から食べようねっていう話は、もともと日本の食文化を全く考慮していないのだ。欧米、とくにアメリカの食生活をベースに語られている話なんだよね。最近は薄れてきているけれど、基本は三角食べだ。ご飯と味噌汁とオカズを入れ代わり立ち代わり口に運ぶ。それも、口中調味が行われるのことが圧倒的に多い。

例えば、お味噌汁を一口すすって、具を少しパクリ。それからオカズを箸でつまんで、パクリ。オカズを咀嚼するわけだけれど、飲み込む前にご飯をパクリ。そういう食べ方だ。しかも、オカズもご飯も箸でつまめる量だけを口に運ぶんだよね。だから、口がいっぱいになるまで頬張るということをしない。そんなことをしないという人もいるかもしれないけれど、これが基本形態ではあるよね。

この食べ方。実は、血糖値の急上昇が起きにくいということが分かっている。ご飯は炭水化物だから、分解されれば糖質。なんだけど、そんなに早く分解されない。だいたい、野菜や汁も一緒に胃を通過するくらいのタイミングなんだよ。口中調味どころか、胃の中でもシャッフルされるのよ。だから、あんまり血糖値の急上昇を気にしなくてもいいってことなんだそうだ。

これを書いていて気がついたことがある。ご飯の上にオカズをのせて、勢いよくかきこむのは行儀が良くない。とされている。一部の例外はあるかもしれないけれど、基本的に「ご飯は箸でつまんで食べる」ものとされている。作法や行儀ということになっているのは、見た目がよろしくないこともあるだろうが、少量ずつ食べさせるための工夫かもしれないよ。もしかしたらって話なんだけどさ。ほら、日本は古い時代からお米を食べたがる文化だよね。脂質はメチャクチャ少なくて、糖質とタンパク質を中心とした食文化。経験的にわかっていたのかもしれないな。その方が体の負担が少ないってこと。

こういう路線でモノゴトを考えていくと、単純化して「これがベスト」と決定してしまうことはナンセンスなのでは?と思ってしまうのよ。野菜から食べ始めたから、もうこれで安心だ。そんなふうな思考で、消化吸収の早いタイプの糖質をまとめて接種してしまったら意味がないんだし。そもそも、糖質摂取量が多ければリスクは高まるよね。

生野菜を食べるときに、ドレッシングをかけることが多いでしょ?ドレッシングの原材料は確認してるかな。けっこう多くの市販品は、糖質が入っているんだよね。液糖とかブドウ糖とか果糖って、吸収の早いタイプの糖質だから気をつけたほうがいいんじゃないかな。

そもそも、野菜も甘いものが増えている。野菜だったら何でも良いわけじゃない。緑黄色野菜なら、糖質が少ないけど、根菜類はけっこう含んでいるから。

真逆の目線で、肯定してみよう。

一品ずつ食べていて、しかも次の料理を食べるまでに間があく場合。これは、確かに血糖値の急上昇を抑えられる。それから、時間があくと食物繊維が体内で水分を吸収して膨らむから、比較的早い段階で満腹感を得られる。ということは、食べ過ぎになりにくいのか。これはこれで良いぞ。強制的に食事制限できる。確かにそういう意味ではダイエットにも効果があるかもしれない。だからといって、緑黄色野菜だけの生活は危険だけど。

あ、そうか。意見が分かれるのはここだったか。効果がある、の判定範囲が違うのかもしれない。そういうことか。

医療知識や栄養学の知識を習得するのは難しい。ぼくだってそうだ。医療知識なんて、ちょこっとそれっぽい本を読んだくらいだ。栄養学なら、まぁそれなりには触れるけれど、それもまぁ結構怪しいもんだ。一冊読んだくらいじゃ理解は浅いし、その本が正しいのかどうかもわからない。

専門家っぽい人が、これがいいって言い切れば、そうかもしれないとは思っちゃうんだよね。あっぶねーなぁ。この食材が最強とか言っちゃうと、それがやたらと売れる。ということは、今でもよくある現象だ。けどね。それだけを食べていれば健康的かというと、そうでもないはず。

食材というのは、いろんな栄養素が含まれている。その中の一部が体に良いとしても、じゃあ他の栄養素はどうなんだろうって考えていかなくちゃいけない。ジャガイモがカリウムの王様でビタミンCも豊富だというのは事実。だけど、糖質の塊であることも事実だし、タンパク質がないのも事実。足りないビタミンなんてたくさんある。両面見ないと意味がない。他の食材とのバランスもあるし、食べる人の体質によって必要な栄養の量も違うだろうしね。

そもそも、食材に「いい食材」「悪い食材」なんて二項対立のような区分なんて無い。あっても意味がない。

なんなら、人も食材も個体差があるんだから。

はぁ、もうどうしたら良いのかわからなくなってくるよね。栄養と体のことを考えて、その上で美味しくする。ムチャクチャめんどくさいでしょ。だからといって、この面倒くさいことを単純化するとどうなるだろうね。全く機能しないことにならないかな。

最近は、これらを遺伝子レベルで分析して、個人個人に合わせた食事を提供しようっていう動きがある。素晴らしいチャレンジだ。正直なところ、まだしばらくは課題がたくさんあるだろうと思っている。遺伝子だけでは無理があるからだ。だって、運動習慣が変化したらどうなるんだとか、加齢による変化はどう見るんだとか、睡眠時間の変化は加味しないのかということは、いま思いつくくらいだからね。そこに、文化や楽しみとしての食と整合していくんでしょ。大変だ。けど、そこに踏み込まなくちゃ、その後の課題も見えないし、解決もできない。ナイスチャレンジ。そう思うよ。

今日も読んでくれてありがとうございます。やたらと長くなったなあ。しかも、まとまりがない。文章としては反省が多い。

ところで、会席料理の前菜は、基本的に糖質が少ないケースが多い。野菜が中心だしね。前菜のあとには、汁物が提供されるわけだし。そこまで糖質摂取に過敏にならなくてもいいんじゃないかな。ケース・バイ・ケースで。生野菜を注文する前に、もしくは予約するときに、前菜の内容を確認しておくと良いかもね。

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