今日のエッセイ-たろう

消えていくものと残るもの。文化の担い手とは。 2024年9月1日

仏教発祥の地といえばインドだ。元々インドにはバラモン教というものがあって、そのなかからウパニシャッド哲学というものが現れた。紀元前1000年〜500年くらいだったかな。バラモン教がとても形式的になってしまっていて、それってどうなの?と考える人が出てきたのだ。で、ちゃんと内面的な思索を重視して真理の探求をしようよという動きになっていく。これがウパニシャッド哲学

有名なのは梵我一如。宇宙の根源=梵、人間の本質=我。両者は究極体に同一であることを認識すると、それは真理を把握したことになる。自分の中に宇宙みたいなものがあって、それは構成要素こそ違うけれどカタチ(関係性とか構造)は宇宙と同じ。だから、これを理解できれば世界そのものを理解できるっていうはなし。悟りだ。ゴータマシッダールタが悟りを開いたかどうかは、悟った人にしか理解できない。出来ないんだけど、「悟ったと信じる」というのが仏教。

既存の教えが、本質から離れて形式化してしまう。で、社会の上層だけのものになっていく。そうすると、それって本質じゃないよねってことになって、新たなものが生まれる。

実は、インドから仏教が消えていった経緯も似たようなもの。修行した僧侶たちが、親権に仏教哲学を追い求めていく。それは、学問のための学問みたいになっていってしまって、民衆とは大きく距離が離れてしまったんだ。出家しなくちゃいけないし、学問を追求しなくちゃいけないい、お金も時間もかかる。仏教は一部の人達だけのものになった。一般社会との乖離が激しくなっていくと、ついには心も離れていってしまう。で、また別の宗教が庶民の間に広まっていく。

もともと普及していたものが、あるとき高尚なものになっていって、一部の人達だけのものになっていく。距離がどんどん離れていく。そうすると、新たな勢力が現れて書き換えられる。この構造って、他にもありそうな気がするんだ。

庶民から取り上げてはならない。というのが、教訓になるのだろうか。

大正時代にかけて、握り寿司は高級化した。いろんな美食家が現れては、握りは90度傾けて食べるべし、箸ではなく手づかみで食べるべしだのと言い、食べる順番まで指南した。そうでなければ握り寿司を語る資格が無いと言わんばかりに。だけど、握り寿司はずっと庶民のものだった。高級になったけれど、それでもちょっと背伸びをすれば庶民でも食べられるものだし、回転寿司などの登場によって、手軽に食べられるスタイルも定着した。何が違うんだろうな。

近世以前の茶懐石も本膳料理も、いまとなっては風前の灯。そもそも、庶民にとっては無縁の食事スタイルだったから浸透していないってこともあるのだろうけどね。ぼくらが一般的に会席料理と言っているものは、江戸スタイルじゃなくて近代のものなんだけど、これももともと庶民の食事じゃなかったんだよね。一般に広がったのっていつだろう。やっぱり高度経済成長期からバブルにかけてだろうか。美味しんぼを見ていると、日常ではないけれどそれなりに近くにあるものっていう雰囲気がある。

ひとつは、旅行かな。団体旅行。今でも古い旅館を訪れると、「ステージ付きの大広間」を見ることができる。食事をするのに、なぜステージが必要なのかと首を傾げたくなるところだけれど、需要があったんだ。社員旅行だったら、偉い人がステージで喋ったり、宴会芸を披露したりしていたんだろうか。映画「釣りバカ日誌」でもちらっと見たことがある。

こういうところで提供されていたのが、旅館スタイルの会席料理。いまでも、ほとんどの旅館では「ずらりと料理が並べられている」というスタイルが一般的だよね。

高尚になりすぎないギリギリのところ。庶民感覚の延長上にあるいい按配のところ。肩ひじを張らずに、雑に楽しめる。そういうのが必要なんだろうな。

その国のスポーツの強度はアマチュアの数に比例するって、どこかで読んだな。きっと、ルールもいい加減だし、プロのすごい人の名前なんか知らないし、ただただ楽しいからやっているっていう人もいるんだろう。それなりに頑張ってやっているひともいれば、真剣にプロを目指している人もいる。

最もゆるい参加者のグループがいなくなってしまうと、いつのまにか業界全体が小さくなっていくのかもしれない。素人が気楽に楽しめる。知識や技術の多寡でヒエラルキーを作らないし、知らない人のことを駄目だって言わない。そういう裾野が大切なんだろうな。下手でもいいから料理を楽しむ人がいて、それもまた良いよねっていう世界。料理はこうあるべしなんてことを言うのは、一部で良いのだよ。

今日も読んでいただきありがとうございます。握り寿司を支えてきたのは回転寿司だし、カトリックを支えてきたのは修道院だし、日本仏教を支えてきたのは浄土系。という気がしてきた。文化の担い手って、すっごく幅が広くて、その広さが大切なんだろうな。

タグ

考察 (300) 思考 (226) 食文化 (222) 学び (169) 歴史 (123) コミュニケーション (120) 教養 (105) 豊かさ (97) たべものRadio (53) 食事 (39) 観光 (30) 料理 (24) 経済 (24) フードテック (20) 人にとって必要なもの (17) 経営 (17) 社会 (17) 文化 (16) 環境 (16) 遊び (15) 伝統 (15) 食産業 (13) まちづくり (13) 思想 (12) 日本文化 (12) コミュニティ (11) 美意識 (10) デザイン (10) ビジネス (10) たべものラジオ (10) エコシステム (9) 言葉 (9) 循環 (8) 価値観 (8) 仕組み (8) ガストロノミー (8) 視点 (8) マーケティング (8) 日本料理 (8) 組織 (8) 日本らしさ (7) 飲食店 (7) 仕事 (7) 妄想 (7) 構造 (7) 社会課題 (7) 社会構造 (7) 営業 (7) 教育 (6) 観察 (6) 持続可能性 (6) 認識 (6) 組織論 (6) 食の未来 (6) イベント (6) 体験 (5) 食料問題 (5) 落語 (5) 伝える (5) 挑戦 (5) 未来 (5) イメージ (5) レシピ (5) スピーチ (5) 働き方 (5) 成長 (5) 多様性 (5) 構造理解 (5) 解釈 (5) 掛川 (5) エンターテイメント (4) 自由 (4) 味覚 (4) 言語 (4) 盛り付け (4) ポッドキャスト (4) 食のパーソナライゼーション (4) 食糧問題 (4) 文化財 (4) 学習 (4) バランス (4) サービス (4) 食料 (4) 土壌 (4) 語り部 (4) 食品産業 (4) 誤読 (4) 世界観 (4) 変化 (4) 技術 (4) イノベーション (4) 伝承と変遷 (4) 食の価値 (4) 表現 (4) フードビジネス (4) 情緒 (4) チームワーク (3) 感情 (3) 作法 (3) おいしさ (3) 研究 (3) 行政 (3) 話し方 (3) 情報 (3) 温暖化 (3) セールス (3) マナー (3) 効率化 (3) トーク (3) (3) 民主化 (3) 会話 (3) 産業革命 (3) 魔改造 (3) 自然 (3) チーム (3) 修行 (3) メディア (3) 民俗学 (3) AI (3) 感覚 (3) 変遷 (3) 慣習 (3) エンタメ (3) ごみ問題 (3) 食品衛生 (3) 変化の時代 (3) 和食 (3) 栄養 (3) 認知 (3) 人文知 (3) プレゼンテーション (3) アート (3) 味噌汁 (3) ルール (3) 代替肉 (3) パーソナライゼーション (3) (3) ハレとケ (3) 健康 (3) テクノロジー (3) 身体性 (3) 外食産業 (3) ビジネスモデル (2) メタ認知 (2) 料亭 (2) 工夫 (2) (2) フレームワーク (2) 婚礼 (2) 誕生前夜 (2) 俯瞰 (2) 夏休み (2) 水資源 (2) 明治維新 (2) (2) 山林 (2) 料理本 (2) 笑い (2) 腸内細菌 (2) 映える (2) 科学 (2) 読書 (2) 共感 (2) 外食 (2) キュレーション (2) 人類学 (2) SKS (2) 創造性 (2) 料理人 (2) 飲食業界 (2) 思い出 (2) 接待 (2) AI (2) 芸術 (2) 茶の湯 (2) 伝え方 (2) 旅行 (2) 道具 (2) 生活 (2) 生活文化 (2) (2) 家庭料理 (2) 衣食住 (2) 生物 (2) 心理 (2) 才能 (2) 農業 (2) 身体知 (2) 伝承 (2) 言語化 (2) 合意形成 (2) 儀礼 (2) (2) ビジネススキル (2) ロングテールニーズ (2) 気候 (2) ガストロノミーツーリズム (2) 地域経済 (2) 食料流通 (2) 食材 (2) 流通 (2) 食品ロス (2) フードロス (2) 事業 (2) 習慣化 (2) 産業構造 (2) アイデンティティ (2) 文化伝承 (2) サスティナブル (2) 食料保存 (2) 社会変化 (2) 思考実験 (2) 五感 (2) SF (2) 報徳 (2) 地域 (2) ガラパゴス化 (2) 郷土 (2) 発想 (2) ビジョン (2) オフ会 (2) 産業 (2) 物価 (2) 常識 (2) 行動 (2) 電気 (2) 日本酒 (1) 補助金 (1) 食のタブー (1) 幸福感 (1) 江戸 (1) 哲学 (1) SDG's (1) SDGs (1) 弁当 (1) パラダイムシフト (1) 季節感 (1) 行事食 (1)
  • この記事を書いた人
  • 最新記事

武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

-今日のエッセイ-たろう
-, ,