今日のエッセイ-たろう

「ホウレンソウ」で時間をかけるのは相談。 2023年5月26日

「報告、連絡、相談」。通称「ホウレンソウ」は、社会人になると一番最初に言われることだろう。もっと前の学生時代から言われているかも知れない。たしか、ぼくが企業に就職したときもしつこく言われた記憶がある。で、少し思い出したのだけれど、けっこう無駄も多かったという気もしている。

前職では、毎週月曜日の午前中には必ず会議があった。営業部に所属していて、それも量販店の担当をしていたので、1週間の実績報告のために一堂に会しての会議となるわけだ。で、それに費やす時間が2時間くらいだっただろうか。その時間がもったいない気がするのだ。

報告というのは、基本的に過去の出来事の情報共有だ。定性情報については、肌感覚のようなものも大切になるからある程度は「会って話す」が必要になるだろう。けれども、定量情報については数字なのだから「見て分かる」仕組みがあればそれで良い。報告に必要な時間は極力短くして、その分他のことに時間を使った方が良いだろう。では、何に時間を使うか。それは、相談だ。

ホウレンソウの中で、最も時間が必要なのは相談。こればっかりは、一人では出来ない。情報と知恵を持ち寄って考えるのだ。何を考えるのかと言えば、それは未来のことである。来週はどうしようか、この事業はこの先どのように取り組んでこうか。といったことを議論して、最終的に合意することに意味がある。これには、時間と労力がかかる。いわゆる頭脳労働。

時間と労力の分配バランスなのだろう。もちろん、報告や連絡がなくても良いとは思わない。これらがなくなると、直近の情報が欠損してしまう。先日も書いたことだけれど、情報共有は議論の最低条件なのだと思っている。ただ、それよりももっと時間がかかる「相談」が待っているのだから、出来るだけ時間を効率よく使うために工夫したほうが良いと思う。

ともすると、報告のための資料作りに時間をかけ過ぎてしまうことがある。会議を短くしよう。そういう動きは、ぼくが所属していた企業でもあった。もっと現場に寄り添おう。それは良いことのように聞こえるのだけれど、そうばかりでもない。会議を短くするという目的のために、会議資料の作成にそれまでよりも時間をかけるのであれば、意味がない。報告にかかる時間数という観点で見れば、トータルで長くなっているからだ。

また、現場に寄り添おうという掛け声も聞こえは良いけれど、誤解を招きやすいかも知れない。会議している暇があったら現場へ行って手足を動かすこと。それ自体はとても大切なことで、現場に行かなければわからないこともたくさんある。それこそ定性情報を受け取る為にはとても重要だと感じている。

ただ、現場では出来ないことが会議の中で決められることがあるのも事実。今後の方針や、予算配分など未来についての方策は、相談の中から生まれてくる。現場の労働環境を良くしたり、売上を向上させるためのサポートを現場ではないところで行っていくことも重要な役割なのだろうと思う。この辺りもバランスの話になろうかと思う。

「たべものラジオ」は、「ホウレンソウ」という文脈で言えば「報告」に該当するのだろう。過去の情報を共有することは、例えば食に関連するビジネスをしている人たちにとって、有用なことだろうと思うのである。

日本の伝統産業のこれからを考えたときに、「かつての日本にはこういった素晴らし文化があった。だから守りながら発展させていこう」という話を聞くことがある。良いと思う。ただ、「かつての日本」という言葉が指し示しているのはどの時代のどういった文脈を切り取っているのだろうか。そこは、しっかりと見極めなくてはならない。

なにも、時間軸を長く取れば良いと言いたいわけではない。どう解釈するかなのだ。日本の食文化史の中で「大正期」を切り取るのも良いし、「江戸時代」でも良い。問題は、大きな流れを把握した上で切り取っているのかどうかだ。一部が全体とイコールではないことを知っているのか、それとも全体とイコールだと錯覚したまま進めるのかでは、今後の事業の方針に差が生まれることがあると思うのだ。

歴史の話をするとピンとこないかも知れないので、数字に置き換えよう。会社の成長部門を見極めて、どの部門に投資の比重を掛けていくかを決めるとする。その場合に、直近の3ヶ月の成績だけを見てこれからの3年間の判断をするだろうか。たった四半期だけで、会社の重要な戦略を判断することはできないだろう。数年前まで遡ってみて、直近の四半期との因果関係を見ることだ。今は成績が振るっていなくても、今後の投資価値が高いかも知れない。数年前に構築した仕組みが課題だとしたら、それを作り替えることで成長部門に変化するかも知れない。そういうことを考えて判断するだろう。

食産業。特に、これからの新しい可能性を切り開く場合には、業界全体のことを見なければならない。社会全体のムーブメントだとしたら、経済だけではなくて政治や世界情勢、文化や感情のうねりなども影響する。特に後者はバイアスが強いカテゴリである。だからこそ、長い時間軸で「時代のうねり」のようなものを捉えることが有効なのではないかと思うのだ。

そこから、変えるなり守るなりという判断へと繋いで行けば良い。そこから先のことは自由だ。

前半で語ったように、報告は時間をかけない方が良いと思っている。全ての経営者やビジネスパーソンが、たべものラジオで語るようなことを、自ら学ぶのは時間的にも厳しいだろうとも思う。だから、隙間時間で良いから耳からダラダラと流し込んでおく。そのくらいの感覚で良いだろう。耳学問というのは、なかなか覚えられないということもあるのだけれど、実はヒトによる。正確に言えば、その人が置かれている環境次第なのだと思う。普段から関心の高いことに関しては、ちょっと耳にしただけでも記憶に残りやすいし、気づきが得られる確率が高い。仕事に関連するか、しそうな事ならば関心が高いだろうから、耳学問でもインプットしやすいのではないだろうか。

今日も読んでくれてありがとうございます。食の世界の過去について、「基本的なこと」はたべものラジオで語っていくつもり。たべものラジオをきっかけに、必要なことを掘り下げて行ってもいいし、そのまま受け取ってしまっても良いし。メディアって、きっかけ作りというポジションが多いんだけどね。まぁ、全部を語るには限界があるしさ。だけど、ぼくらは、なるべくたくさんの情報をつめこんでる。それは、ある程度深いところまで耳学問で済ませられたら、もっと他のことに時間を使えるだろうからね。まぁ、エンタメとしてはかなりシンドイんだけど。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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