仕事をし始めて、何年も同じことをやっているとそれなりに安定してくる。スキルも蓄積されるし、経験も貯まる。それなりに社会の中で求められていれば、収入だってそこそこ安定する。その地に安住することは、比較的自然なことだろう。
一方で、同じ場所にとどまることが苦手な人もいる。当事者は得意とか苦手とか思っていないのだろうけれど、外側から見たらやたらと変化し続けているのだ。せっかく仕事がうまく行っているのに、さっさと会社を辞めて他の仕事に付く人っているじゃない。周りから見たらもったいないと言われるようなタイミングで。それから、環境を変えるばかりじゃなくて、仕事を変化させてしまう人もいる。同じことを続けるのが苦手なのか。それとも、新しいことに移りやすいのか。どういう心境なのだろう。
このまえ、そんなことを話していたら、ぼくらも変化が大きい部類に入るらしい。全く自覚がないからわからないのだけど。社会の中でポジションを変化させる動きのことを、リポジショニングというらしいということを聞いた。それまでの仕事と関連しているのだけど、同じじゃない仕事とそのエリアで活動するように転身することを言うらしいんだ。たしかに、たべものラジオをやり始めた時点で、それまでの飲食店とは少し違った動きにはなったかな。
他の大きな会社の事例を見ても、長く残っている会社の中にはメインの仕事を大きく変えてきたというところも少なくない。大学生協みたいな会社だったのに、いつの間にか化粧品や健康食品の会社になっているとか。カメラフィルムの会社だったのに、化学や薬品の世界で活躍している会社だとか。馬具を作っていた会社は、いまや世界的な鞄メーカーになっているだとか。
事業の平均寿命が18年くらいだっていう話もあって、会社が残るためには事業内容を変化させていかなくちゃいけないんだろうな。切り替える場合もあるだろうし、増やすという場合もあるだろうし。
会社経営の場合だと、ピボットと表現することが多い。バスケットボールをやったことがある人ならピンとくるかな。軸足を固定したまま、反対の足だけ動かして方向転換するっていう、あれ。それまでに培ってきた強みを別方面に向けて活かすっていう感覚なのかな。例えば、飲食店がテイクアウトを始めるとか、加工食品の販売を始めるとか、そういうこと。あとは、料理教室やフードコンサルタントみたいな変化もあるかな。中には、農村ゲストハウスみたいにしてしまって、泊まれるレストランにしちゃうってこともある。いずれにしても、料理技術をベースにして形態変化を起こしているってことだね。社会環境に合わせて変化するのは、生き物の進化と似ているな。
そういう意味では、たべものラジオもピボットといえるのかな。良くわからないけれど、少なくとも食に関することではある。食のルーツを辿るっていうのは、あんまり飲食店で表現されている気がしないのだけれどね。まぁ、毎日毎日食に携わっていれば、少しくらいは食のルーツにも詳しくなるってもので、それをベースにしているというのはあるのかもしれない。
さて、個人はどうだろう。ぼくらは小さいなりに会社をやっているから経営目線でモノゴトを考える癖があるんだけど。務め人の場合は、どんなピボットを考えたら良いのだろうね。営業職を長く続けていた人が、別の業界の営業職に就いたところで、それはピボットとは言えないんじゃないかな。リポジショニングとも違う。慣れ親しんだやり方を続けるだけだったら、下手をすると足かせにもなりかねないしね。ほら、今までのやり方に縛られるとか。
営業職だったら、企画や調整が得意という人もいるかもしれない。とにかく人前で話すのがウマイという人もいるかもしれない。資料を作らせたらメチャクチャ良いっていう人もいるかもしれない。どちらかというと、そっちのスキルを保有したまま他のジャンルに移行するのが良いのじゃないかと思うんだよね。営業職が別の企業の経理になったらどうなるんだろうか。全く想像がつかないけれど、逆に両方出来る人も珍しいかもしれないよね。横断することが出来たら、それはそれで特殊能力になるかも。
今日も読んでくれてありがとうございます。最近の個人的なトレンドは、横断。ひとつのジャンルを極めた人はいるけれど、複数の職能をこなせる人はまだまだ少ないんだ。横断したジャンルのそれぞれで一流である必要はないと思うんだけど、それなりに出来るようになれば貴重な人材になる。そういう生き方もひとつの道なんだろうと思う。