工夫の方向性、ちょっと変じゃない?2022年12月9日

昨日の続きです。

いわゆるテレマのコールセンターには、台本がきっちり用意されている。という話。で、その手法には、いささか課題が多いように感じているんだ。

テレマの台本には、いろんな工夫が施されている。お仕事として、販売なりアポなりの数字をあげなくちゃいけないからね。ということで、いくつかのテクニックを紹介してみよう。

冒頭の「お世話になっております」というのは、あたかも既存の取引や関係があるように誤認させるためだね。代表自らが電話に出るケースは少ないから、少しでも決済者に電話を繋いでもらうための工夫。

「○○をご利用いただいている皆様に順番に紹介しております」とか「ちょうどそちらの地域を巡回しておりまして」などと、機会の演出をすることもある。いわゆる「いまがチャンス」ということを感じてもらいたい。文字として読むと、意味がないのだけれど、なんとなく「今がチャンス」というイメージを持ってもらいさえすれば良い。それだけで、会話が続く可能性が上がるからね。

これは、販売とか契約という言葉を使わずに、「親切心で紹介しているんですよ」アピールをしていることでもある。セールスだって明言しちゃうと、電話を切られちゃうからなんだろうね。新設で紹介しているんだし、メリットがあるんだから契約するよね、と言外に言いたいのだ。

あと、「ちなみにAとBだったら、どちらがよろしいですか?」という選択話法は、検討対象をイエス・ノーからそらすためだ。「買いますか?」って言っちゃうと、もうひとつの選択肢は「買わない」になるよね。だから、「青と赤だったらどっちが良いですか?」という、購入前提の選択肢を提示することで、思考の段階をひとつ飛ばさせようと試みるわけだ。

で、最終的には「この後確認の電話がかかってきますので、ご対応よろしくお願いします」という言い切りだ。もう、話が前進したことを前提にグイグイと進める。下手に「はい」などと言おうものなら、じゃんじゃん電話がかかってくる。

メチャクチャ大雑把だけど、概ねセールスの電話の構成はこんな感じになっているはずだ。ついでに加えるなら、あえて文章を長く書いているところも多い。~で、~でして、などと文章を連接させるんだ。下手に句読点を入れちゃうと、そこでお客様が発話してしまう。だから、言いたいことを言い切っちゃう。そういうこともする。

ね。やたらと詳しいでしょう?それだけたくさんのセールス電話の対応をしているからでもあるんだけど、前職ではコールセンターの立ち上げと運営を行っていたから内情はよく知っている。業務委託先の責任者が作る台本というのは、だいたい前述した構成になっていたからね。まぁ、ぼくが責任者だった間は、そう簡単にこんな台本を採用させなかったけど。ぼくがOKを出したのは、上記の内容が真実だったときだけ。「今がチャンス」と言うときは、ホントに今しかないという場合に限る。なんなら、冒頭で「セールスです」と明言させていたくらいだ。

たぶん、この意味のないテクニックが気持ち悪いんだよね。ウソっぽい。なんとかして嵌めようとしている感じが出ちゃっている。そうじゃないのになぁ。

ぼくならこうする。ちゃんと真正面から「焼酎の造り酒屋です。こういった特徴が売りなのですが、話を聞いてもらえませんか。興味があったら購入してもらいたいです。」と、冒頭に言っちゃえば良いのよ。実際に、そういうところからも電話がかかってくるんだ。いっそ清々しいじゃない。じゃあ、試しに1本買ってみようかな。という気持ちになるかもしれない。で、駄目だったら、ブランド名だけでも覚えてもらえたら嬉しいくらいのスタンスでさ。どこかで見かけたときに、「あ、聞いたことあるやつだ」ってことになれば、それだけでも宣伝効果はあるんだから。

そんなことをしていたら、効率が悪いじゃん。と、コールセンターを運営している会社は言う。でもね。そもそも、電話セールスって効率が悪い仕組みなの。そういうものなの。効率を求めたら、電話セールスという手法を選んだら駄目なんだ。そこじゃないところにメリットがあるからやってるわけでしょう。

それに、だ。ぼくがコールセンターを運営していたときの成約率は、最高値で業界平均の8倍から9倍。圧倒的に高確率で成約いただくことが出来ていたのね。はっきりとセールスですって断言しても、工夫するポイントを間違わなければ、お客様が後悔することなく喜んで購入するなんてことも可能なのである。

既に述べたとおりだけど、工夫をすべきポイントが違うんだよね。小手先の技術で買ってもらおうとするのと、欲しいと思ってもらえるような商品設計をするのと、どっちが良いだろう。ただ、これは商品設計に携わる人にしか出来ない方法に思えるかもしれない。いや、やりようはあるんだ。だけど、業務委託や販売代理店としてもコールセンターは、工夫するポイントがトークしか無いと思い込んじゃっている。そこがもったいないんだよ。

高校数学で「ベクトル」というのを習ったと思う。始点があって、そこからの方向と力の大きさが矢印で示される。スタート地点がどこで、そこからどんな方向へ向かうのか。そのためには、どのくらいのエネルギーが必要なのか。この概念は、工夫や努力についても同じだと思うんだ。適切なときに、適切な方法で、適切な量の行動をすること。

どこかのだれかが、とあるテクニックで成功したからと言っても、それが即ち自分にも当てはまるとは限らない。ベクトルで言えば始点が違う。富士山に向かうのに東京から出発するのか大阪から出発するのか、ロンドンから出発するのか、では全くアプローチが違うでしょう。そういうことだよね。

今日も読んでくれてありがとうございます。いやあ、ほんっとに久しぶりにテレマについて書いちゃったなあ。なんだか懐かしい。今となっては、ほとんど使わない知見ばっかりだしね。転用出来る部分もあるんだけど、それってのは、もともと他の事象での経験や学習から転用したものだから、当たり前なんだけど。なんだか、懐かしいな。

記事をシェア
ご感想お待ちしております!

ほかの記事

エンバクについて、ちょっと調べたり考えたりしてみた。 2023年5月29日

エンバクというのは不思議な植物だ。人類が農耕を始めた頃は、まだただの雑草だったらしい。まぁ、人間が利用している食用植物は、ほとんど雑草だったのだけれど。エンバクが面白いのは、大麦や小麦の栽培が始まった後の時代でも、ずっと雑草。つまり、麦畑では邪魔者だったわけだ。...

食産業の未来を考える。たべものラジオ的思考。2023年5月27日

もしかしたら以前どこかで話したかもしれないのだけれど、現代の食産業は、産業革命期のアーツアンドクラフツ運動の時期に似ているののじゃないかと思っている。簡単に言うと、産業が近代化した時にあらゆる物が工場で機械的に生産されるようになった。安価でデザインを置いてきぼりにした家具などが大量に出回るようにな...

「ホウレンソウ」で時間をかけるのは相談。 2023年5月26日

「報告、連絡、相談」。通称「ホウレンソウ」は、社会人になると一番最初に言われることだろう。もっと前の学生時代から言われているかも知れない。たしか、ぼくが企業に就職したときもしつこく言われた記憶がある。で、少し思い出したのだけれど、けっこう無駄も多かったという気もしている。...

「食事」という人類の営みの歴史から見る「作法」と「矜持」 2023年5月25日

時々目にすることがあるのだけれど、飲食店によって独自のルールを決めているという記事や書き込みがある。同じく飲食店を経営している身であるから、気持ちは分からなくもない。けれども、独自ルールが特徴的であるということが記事になるような場合、少々やり過ぎではないかと思うケースが多いように見える。...

食べ物と産業と歴史。これからの未来のために。 2023年5月24日

たべものラジオは、食のルーツを辿る旅のような番組だと思っている。その特性として、歴史という意味ではとても長い時間軸でひとつの事象を眺めることになる。ひとつの時代を切り出すのではなくて、紀元前から現代までの長い時間を、ひとつの視点からずっと追っていく。そういう見方だ。だから、ひとつのシリーズがとにか...

話し合いの作法と情報共有。 2023年5月23日

話し合いという場で、どうしても会話が噛み合わないことがある。それは、それぞれの人が大切にしているポイントが違ったり、思想が違ったり、解釈が違ったりするからで、ある意味仕方のないことだ。むしろ、そうした人たちとの対話は望ましいとすら思う。ただ、上記のこと以外で会話が進まないことがあることに気がついた...