食料と人類社会という、大きな視点で構造を観察してみる。 2023年11月4日

ここ近年、フードビジネスが活況だ。と感じるのは、ぼく自身が食に関わる立場だからだろうか。これまでの報道を見ていると、ビジネスの発展という側面だけでなく、食糧問題やそれに関連する内容が増えてきているような気がしている。人類全体で見て、食にまつわる課題は大きなものだということだ。

食料が足りなくなる。それは、ひとえに人口が増えたから。過去の事例を見てみると、日本では明治から昭和初期にかけて海外への移民政策が取られたことがある。これは、それまで3000万人程度で推移していた日本の人口が急速に増加して5000万人近くにまで達したことが大きな要因だとされている。ハワイを始め、ブラジルなどへの大量移民となった。

もっと大きなサイクルで考えてみると、「食糧生産量が増えると人口が増加する。」ということになる。逆に言えば、食料が増えない限り増加しないのが通常モードだった。食料が減る時、それは人口が減ることと直結していたと言える。

歴史を俯瞰してみるとそう見えるのだけれど、減少トレンドの当事者たちは、やはりぼくらの社会のように色々と模索していたのだろうか。まだ、ネットワークが今よりも小さかった時代、手の届く範囲で試行錯誤が繰り返されたことだろうし、苦悩も多かったのだと思う。日本のことを「食す国(おすくに)」と表現することがあるけれど、天皇を中心として食を整えるということでもあったのだろう。

体内ではアデノシン三リン酸(ATP)が、リン酸を放出してアデノシン二リン酸になる時にエネルギーが生まれる。このエネルギーを使って体のあらゆる部分が動いているわけだ。この元になっているのが、タンパク質、脂質、炭水化物の基本栄養素。で、それは植物や動物を食べることで補給し続けている。

食物連鎖を辿っていくと、植物を食べている。牛乳だって牛肉だって、元はと言えば牛が食べた植物。植物から得たエネルギーを体内に蓄えたものだ。人間だったら食べきれないほどの大量の草を食べて、圧縮していると言える。それも、かなり長い時間をかけて。人間に置き換えると、人生の大半を食事に当てているようなものだ。表現は少々乱暴だけれど、私達人間のかわりにエネルギーの圧縮を行ってくれている。そのおかげで、人間は他の活動に時間を費やすことが出来ている。

狩猟採集時代から農耕社会の確立、そして工業的な食糧生産へと時代は大きく変化してきた。これは、人類の活動を食糧生産以外へと振り分けようとしてきたように見える。もちろん、現場レベルではそうではないけれど、人類の生活スタイルを大雑把に眺めるとそのように見えるということだ。

自分たちにしか出来ないことに集中するために、一定の作業をアウトソーシングする。というのは、ビジネスでも一般にあることだ。それこそ、かなり古い時代から存在している。そして、その仕事を受け取った人は専門化して効率よく業務をこなしている。集約と圧縮。これと似たようなことが食物連鎖の中にも見られる。

さて、いま課題になっているのはタンパク質不足、食料そのものの不足、食料を生産するために必要な自然エネルギーの涸渇など。これって、圧縮する前の状態で存在しているエネルギーが足りないということにならないだろうか。人類から見たら、まるで無限のように思える大地や海、太陽の光。これらが、実は無限ではないということに気がついた。いや、大量に存在しているのは事実だけれど、人類にとって活用できる部分が足りなくなっているということなのだろうか。

現代のSDGsでは「なるべく節約する」という文脈で語られることが多いだろうか。利用できていない部分を活用するとか、圧縮の方法を見直すということを検討することもあって良い気がする。

以前、「農業生産に適した土地」と「都市に適した土地」がコンフリクトしているのではないか、ということを語ったことがある。つまり、食料循環のサイクルでは利用できていないエネルギーソースだとも言える。むしろ、森などに比べれば、表面積は都市の方が圧倒的に多い。ビルの側面などを光合成に利用したり、屋上を全て農業生産にあてるなどすれば、どうなるだろうか。

今日も読んでくれてありがとうございます。あんまりマクロ視点でばかり捉えていると、足元が見えなくなってしまうという問題はある。と同時に、目の前の課題にばかり囚われていると木を見て森を見ずということもある。両方を行ったり来たりすることが大切なんだろうな。たまには、あえて抽象化してみるのも良いトレーニングになると思うんだ。

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