成長の早さを上げる方法 2022年7月3日

料理が上達する方法ってなんですか?と聞かれることがある。いや、それをぼくに聞くかなあ。もっとふさわしい相手がいる気がするんだけど。いや、ホントに。もっとずっと料理がうまくて、教えるのも上手な人はたくさんいるんだよ。

仕方なく答えることにはしてるんだけどね。だって、中学校や高校の職業講話での質問に答えないわけにはいかないでしょう。料理人という肩書で講話してきているわけだからね。ただ、ぼくの答えが中学生に実践できるかというと、それも難しいのだけどね。

料理が上達する方法は、いくつもある。技術の習得も、知識の習得も、組み合わせの実験も、機械学習的な訓練も、そのどれもが確実に料理の腕を上達させてくれる。料理の腕を上達させるというのは、学生で言えば内申点を上げるのと似ている。なにか一つのことを行ったからと言って、内申点が向上するなんて魔法みたいなことはないのだ。それぞれを、コツコツとやるしか無い。

答えが「コツコツやるしかありません」だと、あまり芸がない。はっきりいって芸などいらないのだけれど、その場が面白くない。だからぼくはこんなふうに答えるようにしている。

「とにかくお金をもらって料理をすることだ」

だから、中学生には難しい。やろうと思えば、すぐにでも可能なはずなんだけどね。出来ない気がしてしまっている。本質的にはお金を貰わなくても良い。ただ、お金をもらって料理をするようになると、成長の速度は圧倒的に早くなるものだ。だから、調理師学校でしこたま勉強と練習をしてきた人が、独学で料理を売っている人にかなわないのだ。

本質は、環境を作り出すことである。前述の通り、料理の腕を上げるためにやるべきことは山のようにある。それこそ、数年ばかり学校で教えてもらっても体得できるような物量でもないし、簡単に到達できるほどその山は低くない。これを、全部やろうと思っても心がついてこない。形だけやっても、発生した現象から受け取るフィードバックの質が違うのだ。とことん本気になるため。その環境を強引に設定するのが、お金をもらって料理することだ。

もう大変だよ。一度お金をもらってしまうようになると、それはもうプロということだ。プロだというだけで、食べる人の評価基準は途端に厳しくなる。プロの料理人という肩書は期待値を上げるし、コストに見合う品物かというコスパ意識も発生する。お金をもらい始めると、それをヒシヒシと感じられるようになる。こればっかりはね、頭で想像して立ってダメなんだよね。体の何処かがピリピリしてくるくらいの感覚なんだよ。文字や言葉じゃない部分がアンテナになってくる。

お客様に料理を出しながら練習している。それがホントのところだ。それはけしからんと言われるかもしれない。だけどね。これが最も成長が早いと思うんだよ。本番を毎日こなしているんだもの。そりゃうまくなるよ。スポーツ選手だってそうでしょ。野球だってサッカーだって、毎週何試合も行うから上達するんだよ。本番ほど人を成長させる環境はないと思うよ。

ほら、失敗が成長の糧になるって言うじゃない。一方で、成功体験が成長につながるとも言うよね。これ、どちらも真実なんだけど、「本番」だからだよ。練習だったら、失敗も成功もちいさな体験にすぎない。本番に比べればね。そこに、お金をつけちゃうとヒリヒリするほどの緊張感が漂うわけだから、もうたまんないよね。

今、たべものRadioは無料放送だ。いつか有料配信する可能性があるかもしれないけれど、たぶん無料のままだ。この番組の目的は、番組自体の販売じゃないからね。じゃあ、無料だから練習気分なのかというとそうでもない。たべものRadioの存在目的が、ぼくらに緊張感を与えてくれている。そして、リスナーのみんなが緊張感を与えてくれる。

どういう表現が適切かな。いい加減なことは言えない。いい加減な仕事は出来ない。そういうプレッシャーみたいなものを、身の傍らに置き続けている感覚だ。

初期からのリスナーさんは気がついているはずだけど、初回に比べたらずいぶんと上達してきたでしょ。そりゃ100回も本番やってるんだから、成長幅は大きくなくてもちょっとくらいは成長しなくちゃ困るか。毎回本番で成長しているんだ。

こんなに早く固定リスナーさんが増えるとは思っていなかったけど、地道に繰り返してコンテンツを成長させていくつもりではいたんだ。だから、実力が乏しいときでも乏しいなりに全力でやることには変わらない。そういうスタンスで続けてるよね。じゃないと、成長が遅いんじゃないかな。

今日も読んでくれてありがとうございます。エンタメであり、作品である。その限りは、より面白くてより深くてより学びの多いコンテンツにしたいんだよ。これって、毎日料理作ってるのと同じ感覚。これって、いろんなカテゴリーでも通用する概念なんかな。どうだろう。

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