熱交換を前提にして、空気の流れを設計するまちづくり。出来るのか? 2023年7月17日

今年もまた、ずいぶんと暑い夏がやってくるらしい。エルニーニョの影響で少しは冷夏のような現象が起きるかもしれないと思ったけれど、そんなことは無いそうだ。昨年からのいろんな気候現象があって、それらの複合的な結果として、やっぱり暑い。理由はともあれ夏は暑いものだ。

都会の生活から離れて、ずいぶんと時間が経った。掛川もやっぱり暑い夏がやってくるのだけれど、なんとなく東京よりも過ごしやすい気がしている。地方の移動手段は、たいてい車。向かう先が商業施設だったら、そこも冷房が効いている。だから、暑いと感じるのは家から車までの僅かな距離と、車から目的地までの時間だけなのだ。とても、現代的な意味で田舎暮らしのほうが涼しいといえる。

冷房が適度に効いた環境でテレビを眺めていると、ビルの間を歩く人々の姿が映される。猛暑対策してますか?とインタビュアーの声。そんな声よりも気になったのは、ビルのほうだ。町中のビルのなかで、冷房が使われていない建物なんてあるのだろうか。雑居ビルなどは、もしかしたら使われていないフロアがあって、そこでは冷房が使用されていないだろう。人がいる限りは冷房に電源を入れる。それが、風通しの悪いビル群の常識だろう。

建築物っていうのは、通気を良くしない限り温度が上昇する。炎天下にビニール袋を置いておけば、その内側の空気は外気よりも暑くなる。テントだって暑くなる。建造物は熱を籠もらせる大きな器なのだ。高層ビルなんかは窓が開かない分だけ熱を溜めてしまう。いつだったか、夏の休日にどうしても済ませなければいけない用事があって東京のオフィスに行ったことがある。15分とかからないうちに、全身から汗が吹き出したものだ。平日の快適なオフィスは、冷房のお陰で成り立っている。

ところで、この熱はどこに行くのだ。熱量は保存され、交換されるというのが基本法則なのだから、必ずどこかに移動しなくちゃいけない。ただでさえ熱せられやすい建物には、多くの人が過ごしているのだ。人や機械類が出す熱量だって馬鹿にならないだろう。どこに行くのだと問いを立てるまでもなく、外気に放出されているに決まっている。エアコンとはそういう仕組なのだ。

店の厨房にはいくつもの冷凍冷蔵庫がある。基本的に冷蔵庫の類は室外機を持っていない。庫内の熱は、背面や上部から排出される。当たり前の話だが、厨房はそれだけで気温が上昇する。食品衛生上、あまり厨房内の気温やら湿度やらを上げたくないので、エアコンのスイッチを入れて、室内の熱を屋外へ交換する。なんだか、二度手間っぽいよなあ。

一部の大型冷蔵危機だけが室外機を使っているんだけど、もう少しうまいこと出来ないもんかなあ。夏のマンションを内側から温めるのに、キッチンの冷蔵庫も一役買っている。外に排出するのをデフォルトにしたらどうなるのだろうか。

東京のオフィス街っていうのは、厨房みたいなものだと思う。厨房の場合はスケールが小さいから、それ自体を冷却するすべを持っている。エアコンもそうだし、それがなくても強力な換気扇で熱を排出する。空気の流れをうまく設計できていれば、入れ替わりに流入してくる空気は冷まされているということも可能だ。まぁ、調理で火を使うから結局暑いのには変わらないのだけど。

町というのは、室内みたいに閉ざされた空間ではない。ないのだけれど、空気や熱のことを考えると、かなり閉ざされているのかもしれないね。外から入り込んでくる空気は、どこからどこへ向かって流れるのか。隣町が暑かったら、結局熱い空気を引き受けるだけでしょう。

一箇所に沢山の人が集まっちゃったせいで、その一箇所が大きくなっちゃった。だから、外からの空気の流れが悪くなっているのに、内側から熱を吐き出し続ける。陰陽師の世界観で、京に結界を張ったら内側から怨霊が生まれて大変なことになるという感じと似ている。その巨大版だ。

うまく風が抜けるとか、空気が適度に冷やされたり温められたりする空間があるとか、そういうのが設計上の理念にあるんだろうか。厨房の設計で不満があるのはそこなんだよね。夏と冬で空気の流れを切り替えられない。排出したのと同じだけの容量の空気を入れさえすれば良い。それじゃ、知恵がないってもんだ。

今日も読んでくれてありがとうございます。二度手間と言うか、理不尽と言うか。そんなふうに感じてしまうんだよなあ。うちに特殊凍結機があって、高品質の冷凍が出来るのだけどね。これを稼働させると、その部屋がサウナのように暑くなるんだよ。で、換気扇でも間に合わないから冷房をかけるの。なんだかなあ。

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