今日のエッセイ-たろう

移民国家アメリカの構造。新たな移民問題のヒントになり得るか。 2025年6月25日

最近、アメリカ社会とその構造や歴史について勉強している。たべものラジオのシリーズで「ハンバーガー」を題材にするので、どうしても不可避なのだ。食文化史を学ぶうえで、近代史になるとアメリカという国もまた避けては通れない。これまでにも何度か登場したけれど、それでも学ぶことが多いのは興味深いところだ。

アメリカ合衆国は、移民の集合体だ。これは間違いない。1924年の移民法や、もう少し前なら1882年の中華排斥法が発布されたあたりから、自分たち以外の移民を受け入れないという姿勢がみられるようになったけれど、そもそも「君たちは来ないでください」と言っている人たちもまた移民なのだ。多くのアメリカ人は1840年から1920年くらいの間に移り住んだ人たちの流れ。世界史のなかでも珍しい国家である。

ぼくの解釈でざっくりアメリカの移民の歴史を整理すると、3つのステップになる。

ファーストステップは、17世紀の初期移民。色々な人たちが流入して、それが整理されてアメリカ合衆国という箱が出来る段階。

セカンドステップは、19世紀前半の旧移民。いろんな事情があってアメリカに移民がやってくる。いわゆるアメリカの土台を築いたのは、この世代だ。

サードステップは、19世紀後半から20世紀初頭の新移民。工業や金融を背景に、アメリカを経済大国まで発展させた世代だ。

ファーストステップ

イングランド、オランダ、フランスなどが北アメリカ大陸へやってきて植民地を建設する。イングランドはヴァージニア植民地、オランダはニューアムステルダム、フランスはケベックやルイジアナといった具合。フロリダや西部にはスペインがいるけれど、本流から外れるので割愛する。あと、黒人奴隷やドイツ系移民もいいたけれど、それは国家として植民地を持っていた勢力ではないので、これも割愛。

18世紀に入って、それぞれの国が植民地争いをする。英蘭戦争ではオランダが勝ったのだけど、イングランドがニューアムステルダムよりも収益の良い場所を持っていたので、そこと交換した。これでオランダが北アメリカから出ていくことになって、ニューアムステルダムはニューヨークになった。その後、英仏植民地戦争(フレンチ・インディアン戦争)が勃発して、イングランドが勝利。これで東海岸近辺にはイングランド以外の国がいなくなった。そしてついでに本来のアメリカ人である先住インディアンの諸勢力を駆逐することも出来た。縄張り争いにイングランドが勝利した。そしたら、植民地に入植した人たちが本国に対して反乱を起こす。アメリカ独立戦争というけれど、本質はイングランド国内の内乱である。で、イギリス人が中心となってアメリカという国家を成立させたのだ。

セカンドステップ

主に中国人、アイルランド人、中央ヨーロッパの農民の3つのカテゴリに分類される人たちが移住する。それぞれの国に出ていきたくなる事情があったのだ。中国はアヘン戦争、アイルランドはジャガイモ飢饉、ドイツなどの中央ヨーロッパは諸国民の春や三月革命と言われる内乱。政府の動きに影響を受けているけれど、政府が移民政策をとったわけではない。祖国を離れなくちゃいけなくなる一番の理由は、祖国での生活が苦しくなるからだ。これは現代の難民も同じことが言えるのかもしれない。

ちょうどこの頃、大陸横断鉄道が敷設されたり、アメリカの産業革命が進展したり、ゴールドラッシュがあったりして、チャレンジしやすい土壌があったのも移住の動機となりえた。ここで頑張った人たちが産業の礎を築いたし、彼らが祖国から持ち込んだ文化が融合してアメリカ文化が形成されていくことになる。

サードステップ

次にやってくるのは、日本人、イタリア人、ロシア系ユダヤ人だ。中華排斥法で追い出された中国人はよく働いた。アジア人は基本的に労働に勤勉だというのは、今も昔も変わらないらしい。排斥された中国人と入れ替わるようにして移住してきた勤勉なアジア人が日本人だ。明治時代初期の頃である。津田梅子や高橋是清などがアメリカにわたり、人口爆発を警戒した明治政府が移民政策で海外渡航を促した。イタリアは、それまで統一国家ではなかったのだけど、北西部のサルディーニャ王国が南進して半島を統一していく。この戦禍で土地が荒れてしまった地域、特に南イタリアの農民が祖国を離れてアメリカへ渡る。ロシアでは宗教弾圧があって、ユダヤ人はその生活の基盤を失うことになる。そうしt一路アメリカを目指すのだ。

イギリス系は、我々こそがアメリカという国を作ったというプライドを持っている。だから、感謝祭のルーツをピルグリム・ファーザーズと紐づけているし、ことさらに建国時の中心地であるフィラデルフィアを重視する。旧移民はアメリカの土台を作ったというプライドを持っていて、ハンバーグやデリカテッセン、ピクルスなど彼らが持ち込んでアメリカナイズされた文化は数え切れない。ユダヤ資本をテコにして工業製品出荷額で世界1位となり、現代人のイメージ通りのアメリカは新移民の誇りでもある。

ここで紹介した以外にもたくさんの文化的背景を持った移民がアメリカへとわたった。主だったところだけでも17の民族が住んでいて、それぞれにコミュニティを形成している。日本人街、中国人街、という言葉を聞いたことがあるだろう。ドイツ人街やイタリア人街、メキシコ人街と呼んで差し支えないほど、同国出身者が集まっている地域がある。良し悪しではなく、そういうものなのだ。自分とは異なる言葉を話し、文化的背景も価値観も異なる人達が無数にいるとき、安心できるコミュニティを形成するのは自然なことだ。

今、日本でもいくつかの地域で外国人コミュニティが形成されていて、問題視されている。が、コミュニティというのは確たる理由もなくある場所に自然発生するものである。アメリカは、元々アメリカ文化などというものを持ち合わせておらず、色んな地域にそれぞれにちっちゃな外国を作ったに過ぎない。それが、時間を経て混ざり合うことでオリジナルの文化を形成したわけだ。しかし、日本には古くからオリジナルの文化があり、先住民として暮らしている場所に外国人コミュニティが重なっている状況である。さて、ここからどのように溶け込んでいくかが問題である。

既存の日本文化を破壊するようであれば、それは西部開拓時代に白人たちがやった行為にも似た文化の破壊だ。下手をすれば、そこだけ別の国のようになってしまう事もありえる。しかし、日本文化を尊重しながら出身地の価値観を重ね合わせていくという姿勢であれば良いのだろうと思う。それは新たなプラグインを得たというのに似ている。このあたり、対話を積み重ねていくよりないというように思えるのだけれど、だからといってそれは簡単になし得ることだとは思えない。先住の日本人からしたら、面倒な対話を行わなければいけなくなったのだから、いい迷惑だと思う人もいるかも知れない。だからこそ、政府なり地方行政がルールを整備して、ルールのもとで話を進めるのが良いだろう。ルールがすなわち排外主義というのではなく、融和のためにこそ厳格なルールが必要だ。と、移民に関して一日の長があるアメリカ社会を観察してみて思うところだ。

今日も読んでいただきありがとうございます。人が住んでいる町にドカドカと上がり込んできて、ここは俺の土地だと勝手に宣言して支配するのは、漫画の中の悪役海賊がやることだ。で、他の海賊がやってくると、争いが起きる。現在のアメリカってそういう状態なんだよね。でも、だからといって際限なく移民を受け入れるとどうなるかは、アメリカが一番良く知っている。その地域の大多数が別の民族に置き換えられて、アイデンティティを祖国に残したままだったら、実質上乗っ取られたに等しい。これを利用してメキシコからテキサスを奪ったし、ハワイも同じことをやったわけだもんね。いろいろと、先例として勉強すると良いかもね。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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