今日のエッセイ-たろう

誰かの日常は、他の誰かの非日常になる。2022年10月17日

誰かの日常は、他の誰かの非日常になる。というのは、ぼくの持論のつもりだったんだけど、割りと知られた考え方だ。ただ、これをカタチにするのがなかなか難しいんだよね。

まず、なにが面白いのかわからない。そりゃそうだ。自分にとってはルーティンなんだからさ。下手をすると、自分以外のみんなも同じ生活をしていると思っているかもしれない。みんなが同じことをしているはずだと思っていたら、自分の生活が特別に変わったものだとは思えないだろう。そして、普段の暮らしを比較するチャンスも無いだろうから、一生気が付かないままなんてことはよくある話だもんね。

なにが面白いのかがわからないから、どう振る舞っていいいかわからない。これ、意外と見落としがちなんだよ。誰かが自分の日常生活を覗き見すると思ってみて。ホントに気持ちが悪いから。盗撮ってそういうことでしょう。だけど、観光客だって全部を覗き見したいわけじゃないよね。歯磨きや洗顔なんて興味ないって。いや、そこが特別変わっているのなら面白かもしれないけれどさ。要は、面白いと思う部分以外は必要ないんだよね。

だからといって、普段どおり振る舞うのも難しい。盗撮みたいに覗き見するわけじゃないでしょう。言ってみれば、テレビで密着取材を受けているような感覚。そんな経験が無いからわからないのだけど、テレビカメラを構えた人が近くで撮影している状態で普段どおりに振る舞うのって、なかなか難しいんじゃないかな。緊張もするだろうし、ちょっとくらいはカッコつけるだろう。誰しも見栄ってものがあるから。

例えば、山奥の田舎で昔ながらの豆腐を作っている店があったとするじゃない。で、その風情だったり、素朴な豆腐だったり、地道な生活そのものがウケる。味わい深い風情になっている。それが、なにかの拍子に噂になって、口コミやら取材やらで認知されるようになっていく。そうすると、思いもよらないくらいの多くの人がやってくるようになる。時には観光バスなんかが来るようになっちゃってさ。で、失われちゃうんだよ。それまでの「普段の生活」っていうのがさ。元々、人々が魅力を感じて惹きつけられていたものはなんだろう。それは「誰かの日常」なんだよね。そのなかの「いくつかの要素」が魅力だった。なのに、やってくる人たちのせいでそれが失われてしまう。よくあるでしょう。

これを、「あそこは観光化しちゃったからなぁ」と嘆くわけだ。あたかも儲け主義のように言われることすらあるんだよね。だけど、実際のところはそればっかりじゃない、とぼくは思っている。善意なんだよね。

こんな片田舎で細々とやっている手仕事を喜んでくれる人がいる。それだけでも嬉しいじゃない。で、せっかく遠くから足を運んでくれるのだから、ちゃんとおもてなししたい。せっかくいらしたのに、売り切れましたでは申し訳ない気持ちになる。周囲に飲食店も無いのだったら、ちょっとした食事くらいは提供できるようにしないと申し訳ない。たくさんの車がやってきて、周辺に車を停めるところもなく道路も狭いのなら、申し訳ないから隣の畑を駐車場に変える。

そうこうしているうちに、みなさんに喜んでいただけるための工夫が、徐々に普段の生活を変化させていく。そのうちに、何のために商売しているのか、長い歴史の中で豆腐を作ってきたのかがわからなくなってしまう。そして、素朴で味わい深かった「誰かの日常」は、「観光事業で振り回されるよくある日常」に置き換わっていく。もう、そんな日常は見飽きたのだ。それこそ、高速道路のサービスエリアでも見られるのだから、山奥へ行く意味も薄れてしまう。

これが、何を招くだろうか。昔から愛用してくれていたリピーターを失うんだよね。大体の場合「あそこは観光化しちゃったからなぁ」という人のうち、多くは利用者だったんだ。だから、そういった変化を寂しくて残念に思っている。そして、この人達は離れていく。一方で遠くからやってくる人たちは、おそらくリピートしない。なぜなら、楽しみにしていた「誰かの日常」はそこにないからだ。秋の山道で眺める紅葉風景と同じだ。その時だけは楽しんでも、なかなか同じ場所へ行こうとはしない。遠方ならなおさらだ。

ここでは、空想の話をしたつもりなんだけどね。もしかしたら、これを読んでいる間にも具体的な事例を思い浮かべている人もいるかもしれない。どうかな。ぼくの頭の中に浮かんでいる光景があるんだ。なるべく、ぼくの知っている具体的な事例にならないようには気をつけたよ。

さて、今日の話は「デザイン」の話だ。広義の意味でね。誰にとって何が面白いと感じるのか。そして、その中から何をどのように見せるのか。見せたいのか。そのために必要なものはなにか。必要なものの中で、やりたいことに繋がるものは何か。やらないという判断をすべきものはなにか。で、最終的にどのようにデザインして楽しんでもらうのか。お互いに心地よいポイントを探る必要があるんだよね。

今日も読んでくれてありがとうございます。観光デザイン。まぁ、ぼくにとっては会社経営も一緒なんだけどさ。こういったことを考えなくちゃもったいないと思うんだ。で、そのためにマーケティングが必要で、そのためにアイデアや工夫が必要で、そのための行動力が必要なの。よくまちづくりに必要な3つのものがあるって言うよね。よそ者若者馬鹿者。これは、広い視野を持って観察する力を象徴するのがよそ者。過去の執着を良くも悪くも破壊する突破力を象徴するのが若者。そして、常識や古い慣習に囚われない広い解釈からアイデアを生み出すことの象徴が馬鹿者なんだ。というのがぼくの解釈。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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