普段、取扱説明書って読む?社会の取説、人文学。 2023年6月16日

最近、店の炊飯器が古くなったので買い替えた。炊飯器なんかは、美味しくご飯が長ければそれで良いわけだ。そのために、メーカーも色々と工夫をされていて、いろんなメニューが付いている。それらのメニューを覚えなくちゃいけないかというと、日本語でわかりやすく表示されているわけだから、そうでもない。デカデカと炊飯と書かれたボタンがあるのだ。米と水を入れて、そのボタンを押せばご飯が炊ける。それだけのことだ。取扱説明書を読むまでもない。

弟は、どんな家電でも、車でも取扱説明書を読む。もちろん、炊飯器であっても、だ。そして、それが良いのである。案外知らないこともあって、面白い。ぼくは、あまり取扱説明書というものを読まずに使い始めることが多かった。使ってみてわからないことがあったら、それを調べるために取扱説明書を読むくらいのものだ。辞書扱いである。

弟の影響で、ちゃんと読むようになったのだけれど、これがなかなか面白いのだ。

取扱説明書に記載されている内容を大雑把に分類するとこうなる。初期設定、操作方法、機能紹介、注意事項、Q&A。開発秘話だとかコラムだとか、そういうものはない。あったら面白いと思うけれど、まぁ必要ないだろう。

取扱説明書を読まない人の意識は、初期設定と操作方法は直感的にわかるから大丈夫、である。少なくともぼくはそうだった。だから、機能紹介と注意事項を見落とすことになるのだ。

意外と、注意事項に大切なことが書いてある場合がある。例えば、炊飯器の内釜はスポンジでこすらないでくださいとか、急激に冷やさないでくださいとか。こびりつかないような加工がされているのだけれど、その劣化が早くなるからだ。読めば書いてあることなのに、読まない。だから、スポンジに洗剤をつけて擦っていたり、熱いまま冷水を入れてしまったりするのだ。

機能紹介を読むと、「へぇ、こんな使い方もできるんだ」という感想を抱く。だったら、もしかしたらこんな事もできるのかな。と考えることもできる。場合によっては、活用方法やコツまで書いてあることがある。

読まなくても基本的な操作はできる。なのだけれど、他の機能を知らない。製品の機能をしっかり把握していれば、もしかしたら今までは思いつかなかったニーズが浮き彫りになるかもしれない。ぼくらは「◯◯が欲しい」というニーズを自分では把握できていないことが多いのだ。

アメリカの大手自動車メーカーのフォードにまつわる有名な話がある。消費者が車がほしいといったから車を作ったのではない。もっと早くて、自分で自在に操れる丈夫な馬車が欲しい。そう言うから、じゃあ自動車だろうということになった。

このエピソードが示すことは、ニーズや解決策は、自分ではわからないことが多い、ということだろう。そして、それまで知らなかった技術や機能を提案され、自動車が馬車を凌駕すると理解する。そして、あっという間に量産型の自動車が社会の常識に変わった。技術や機能をしることで、新たなニーズが生まれたり、また応用を思いついたりする。

つまり、取扱説明書というのは、そのためにあるのかもしれない。

人類は、人類社会の取扱説明書を持っていない。だから、ややこしいし、難しいし、複雑で面白い。取扱説明書はないけれど、取扱説明書的なものを作り出すための情報は持っている。これまでの人類の営みの事例、現在の状況、地球環境、人類以外の生き物などなど。それは膨大な情報量だろう。情報量が多すぎて、取扱説明書のようにまとめることが困難だということのようにも見える。

社会文明の取説。そんなものがあったら良いかもしれない。このように使わなきゃダメ、と言われると窮屈だし進展がないのだけれど、実装されている機能や注意事項なんか分かるような気がする。注意事項なんて言うものは、どこかの誰かがやらかした失敗の結果である。過去の出来事には、かなり多くの失敗があって、長い長い時間を俯瞰してみることができるから、それが失敗だったと認識することができる。

機能に関しても同様である。ぼくがどんなに素晴らしいことを思いついた、と思っていても、もう随分前から社会実装されていることがある。ただ、知らなかった。知らないということは、その機能が無いと思っている。井戸しかない生活をしていて、近くにある水道の存在を知らなかったら、その人にとっては水道が存在していないのと同じことだ。

今日も読んでくれてありがとうございます。時代の転換点では、人文学が注目される。というのは、ここ数百年の歴史を見ると、そうらしいことがわかる。故障かな?と思ったら、取扱説明書を開くようにして、人文学を紐解くのだろうね。

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