今日のエッセイ-たろう

「一度壊れたらなかなか直せないもの」を壊さないように守ること。 2024年9月6日

一度壊れてしまったものは、なかなか元に戻らない。自然環境、経済、人間関係、文化、建造物。具体例はないかと想像を巡らせてみて、ちょっと暗い気持ちになってしまった。光を失った目で、再び世界を眺めることができるようになる日は、現代の技術ではかなり難しいらしい。

時々、回復させるための活動を必死に行う人が現れて、メディアなどで取り上げられることがある。砂漠化してしまった大地に緑を取り戻そうとしている人たち。人間関係を修復してくれる心優しい人たち。かつての文化を復興させたり、史跡を復元させたりする人たち。どれもこれも素晴らしい活動で、とても難しいことにチャレンジしているからこそ注目を浴びるのだろう。その注目も、総長続きしないのが残念なところではあるのだけれど。

30年以上まえの地球サミットでセヴァン・スズキが行ったスピーチの中にこんな一節があった。「どうやって直すのかわからないものを、壊し続けるのはもうやめてください。」彼女のメッセージが届いたのかどうかはわからないけれど、少しは「直す」という取り組みが行われていて、多少なりとも実現した部分があるのだろう。

ただ、「壊さない」という活動に関しては、あまりにも無頓着なんじゃないかと思っている。メディアもそうだし、ぼくらもそうだ。

実は、仕出し弁当の注文が入るたびに心がきゅっとなるようになった。今でも使い捨ての折り箱を使用していて、それ以外の代替策が見つかっていない。いや、わかっている。以前のように弁当箱で届けて回収すればよいのである。それだけで、僅かではあるけれどゴミは減らせる。それと同時に多くの売上が減るのもわかっている。経済合理性に絡め取られていて、その循環の中から抜け出せないでいるのは僕自身なのだ。すっぱりと宣言すれば良いのだけれど、その変化で失う経済的リスクを受け入れる覚悟が無いままでいる。

日本経済がとても良かった時代は、大消費時代と言われたが、それは世界の先進国と呼ばれる地域も同様だ。買っては捨て、また買っては捨てている。ぼくが小学生の頃は、5年以内に車を乗り換える人がとても多かったし、モデルチェンジのたびに買い替えている人もいたという。ちょっと信じられないような感覚だと思っているのだけれど、ぼくの周りではメンテナンスしながら10年以上乗っている人のほうが普通だ。ただ、経済的余裕がないからだけなのだろうか。

車のような大きな金額を伴うものは買い替えサイクルが長くなったけれど、低価格のものは循環が早いままなのかな。どうなんだろう。

昔、こんな記事を見たことがある。ストリートチルドレンとの会話の中で「もしお金持ちだったら、家の無い子みんなに食べ物と服とくすりと、そして住む場所をあげたい。」というセリフが合った。僕らが持っている物の数と比べたら、ほとんど何も持っていない少年は、手に入れたとしたらシェアしたいと言っていた。数え上げたらきりがないほど持っているぼくらは、自分のものを守ろうとしている。それが世界だ。

持っているものを手放したくないから、経済的にも物理的にも争ってきた。人類の歴史は、奪い取ることよりも守り通そうとする戦いのほうが多い気がする。ぼくらが子どもたちに教えるように、「争わず話し合い、独占せずに分かち合う」ことを実現できていれば、学校で習う世界史はもっと単調で面白くなくなっただろう。素晴らしいことだ。

どうしたらうまくシェアできるんだろうな。食料生産なんて、世界に偏りがあるのは当たり前じゃない。環境が違うんだから。エネルギーだってそう。奪うでも独占するでもなく、うまいことシェアする方法は無いのかな。

よく知らないのだけれど、国連ってそういうことを話し合う場所だと思っていたんだよね。世界史を勉強してみると、どうやらそうじゃなかったらしい。今はどうなのだろう。

今日も読んでいただきありがとうございます。こういうことを話すだけでも「意識高いね〜」って揶揄される風潮がまあまああるんだってさ。いや、まぁあるか。地元でも聞くね。まず、その感覚から無くなってほしいかな。言われたら「え?意識低すぎないっすか?」って言い返すかな。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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