今日のエッセイ-たろう

なんで勉強しなくちゃいけないの?という子供に、祖母が「バカになっちゃうじゃないか」と答えた意味。 2023年6月12日

何度となくこのエッセイに登場するのが祖母である。それだけ僕の人生において祖母が伝えてくれたことが影響を与えている。

子供の頃、祖母に「なんで勉強をするの?」と聞いたことがある。祖母はこう言った。「勉強しなければバカになっちゃうじゃないか」

この意味が分かるようになるまでには随分と時間がかかった。勉強しなければバカになる。子供のぼくにとって、勉強というものは学校で行う儀式のようなものだと思っていた。そのなかで、テストがあって成績がつけられる。そんな仕組みの中で生きていたのだから、点数が悪いことをバカと表現しているのであって、そうならないためにはちゃんと勉強しなくちゃいけない。そんな程度に理解していた。

イマイチ納得感がなかったのか、再び同じことを祖母に訪ねた。「足し算も掛け算も、言葉も自分で作り出す気でいる?因数分解にたどり着くまでには一章が終わっちゃうよ。」

例えばね。ある子供が無人島に置き去りにされたとするでしょう。その子は、一生懸命に知恵を働かせて何年も生き延びたんだよ。ある時、船が通りかかって助かったときにその子は言ったんだ。ねぇ、凄い発見をしたんだよ。木に線を書いていくと数を数えられるんだって。その子にとっては大発見だったけれど、それは世界の多くの人が知っていること。

これで、やっと意味がわかった。

本を読むだけで知ることができるようなことは、本を読むだけでいい。というと乱暴な表現かもしれない。けれども、これは真実。知っている人からすれば、実験や経験を重ねるような苦労をしなくても手に入れられる知識は、本に書いてある。それだけのことだ。

以前、こんなことを言われたことがある。お前は本に書いてあることだけが全てだと思っているのか。現実を見ろ。確かにそのとおりだ。ただ、本に書いてある程度のことは知るだけでも知っていたほうが良いとも思う。それが、目の前に現れている現実に適合しているかどうかはさておき、知らないと知っているでは選択肢の幅が違う。手に入れた知識を使ってやってみて、うまくいけばそれでいいし、うまくいかなければ工夫すれば良い。レシピ本に書いてあるとおりに作ってみて、気に入らなければアレンジすればよいのだ。と思う。

こうしたことを書くと、いかにも勉強熱心な人のようだけれど、そうではない。学ぶことの大切さを実感して、行動に移すようになったのは30歳を過ぎた頃のことだ。それまで実験と検証を重ねて手に入れたスキルの多くは、すでに先人たちが取り組んだ後のことだった。もちろん、実践して手に入れたものは強いと思っている。他人からの借り物ではなく、自分のものなのだから応用力も高いし、説明するときにも自分の言葉で語ることができる。ただ、少し遠回りをしたなとは思うのだ。

つまり、学ぶことと実践することの両輪が必要だ。これに気がつくのに随分と時間がかかった。若い頃の自分に伝えるメッセージがあるとしたら、これだろう。

先日、とある先輩と話をしている中で議論になったのがこれだ。おれは君のように頭が良いわけじゃないから。その代わり、現場のことは分かる。君がわからないことだ。と言う。

頭が悪いから。これを、学ばない理由にしちゃうのはもったいないと思うのだ。彼も僕も職人だ。職人の世界でも、成長のスピードが早い人は学びを諦めていない。先輩も職人としての学びに関しては一生懸命にやったというのだ。ただ、他のジャンルになると、同じことのように思えないと言っていた。得手不得手はある。苦手なジャンルもある。それは誰でもあるだろう。ただ、少なくとも「学ぶ」という行動を取ることができたという実績があるのだから、多少なり苦手なことも学ぶことができるだろうと思う。

今日も読んでくれてありがとうございます。知る、ってさ。考えたり実践したり疑問をもったりするきっかけなんだろうと思うんだ。そこからがスタート。もったいないと思うんだよね。ぼくなんかは、それに気がつくのに随分と時間がかかって、こんなに本を読むようになったのも2年くらいかな。その分、偏ってしまっている気はするのだけれど、子供の頃の自分に伝えるなら、やっぱりこういうことを言いたいんだと思うよ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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