今日のエッセイ-たろう

食のパーソナライゼーションの源流 2024年2月18日

食のパーソナライゼーション。何度かこのエッセイでも取り上げたのだけれど、そう言えばなぜこれが注目されるようになったのだろう。この点についてはあまり考えたことがなかった。

元々、個人にあわせたカスタマイズだとか、体に合わせた医療や食というのは古い時代からあったようだ。漢方医学では、まず最初に体がどのような特性を持っているかを診断するらしい。体が温なのか、それとも涼なのか。体力があるのか無いのか。その時々の状況にもよるけれど、持って生まれた体の特性を知って、それにあわせて薬を調合するのだという。医食同源という言葉があるように、食事についてもパーソナライズするという思想は影響してきたようだ。

昨今の潮流は、これとは別の文脈から派生してきている。実に西洋的な文脈なのだ。1990年、アメリカ政府が30億ドルの予算をかけた計画がスタートした。ヒトゲノム計画。ヒト細胞の核内にあるDNAの塩基配列のすべてを解読すること。当初の予定では15年の計画だったのだけれど、なんと2年も短縮されたのだから驚きだ。すでに塩基配列を解読する技術はあったのだけれど、その膨大な量の全てを解読するには、途方もない時間と労力がかかる。だからこその巨額の予算だったし、時間だった。

計画の前倒しについては、様々な要素があるのだけれど、中でも次世代シーケンサーの開発は大きな影響を及ぼしたという。塩基配列を読み解くための装置が格段に良くなった。その結果、低コストで大量のデータを取得することが出来るようになったのだ。

ヒトゲノムのほぼ全ての解読が出来たこと。次世代シーケンサーによって解読のコストが下がったこと。この2つがもたらしたのが、医療のパーソナライゼーションだ。いまや1万円そこそこで個人の遺伝子情報を解読することが出来る。どこが弱いのか、特定の薬が効果があるのか無いのか。塩分控えめが良いというけれど、それが良いという人もいればそうでもない人もいる。そんなことが簡単にわかるようになった。その延長上に現れるのが食のパーソナライゼーション。やっぱり医食同源。

健康のための食のパーソナライゼーションと、文化や好みのための食のパーソナライゼーション。これが並走しているからややこしい。

スマホの中では、それぞれの好みにあったニュースや情報が提示されるようになった。過去の行動履歴などから、類似のものが頻出する。確かに、興味があることだからついつい見てしまう。それに、深掘りされた情報へアクセスする道が開かれるのはありがたい。一方で、あまり興味のない情報は見えなくなってしまう。

食の好みをパーソナライゼーションすると、似たようなことが起きる可能性がある。というのが、文化面での懸念でもあるなどと言われている。

まぁ、懸念点はいくつもあるのだろうけれど、新しい技術が登場するたびに立ち現れるものだろうと思う。だって、今まで無かったものが出来るようになるんだから。後手になるのは当然といえば当然のこと。で、あれやこれやと考えるわけだ。本当は、現出しそうな問題に対してあらかじめ仕組みなり法なりの整備が出来れば良いのかもしれないけれど、そうはならない。ならないと断言したいわけじゃなくて、人類史を見ると問題が起こったあとでしか対応できていないように見えるという感じかな。

今日も読んでくれてありがとうございます。何か思いついたことがあったわけじゃないんだけどね。潮流の中に身をおいていると、どうしてもルーツと言うか川上の部分が見えなくなってしまう。だから、備忘録がてら言語化しておこうと思ったんだ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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