今日のエッセイ-たろう

日本文化の「季節感」とはどんな感覚なのだろう。 2022年7月29日

日本人は季節感を特別視する傾向がある。あると思う。ちゃんとした研究を読んだわけでもなく、ただの直感だから性格なところは知らない。けど、あると思うんだ。

ファッション雑誌などを見れば、色んな国でのコーディネートが掲載されている。日本の雑誌だから、国内か海外でもヨーロッパとアメリカに偏っているんだけど。そういうのを見ると、ファッションの世界でもちゃんと季節感がある。当たり前だ。夏のプールサイドでダウンコートがおしゃれだという人はいない。暑苦しい。そういうときは、サンダルにサラッとした生地の服が定番。もしくは水着である。

もちろん、どの国の伝統料理を見ても季節感というものは存在する。まぁ、一年中暑いとか寒いところは偏るけれど。ある程度四季のあるところだったら、その季節にあった料理も食材も食べ方もある。というのは、当たり前だと言えば当たり前。

これが「その季節っぽさ」を「感じる」ために行われているのか。ここだ。海外から見たら行き過ぎているくらいの季節感のような気がするんだ。逆にぼくら日本人から見たら、海外の料理は季節感が薄いと感じる要因だとも言える。

あ、どちらが良いという話ではなくて、文脈が違うということを理解したいだけなんだけどね。なにせ、知っていることが限られているので、想像が大半を占める。まぁ、仮定に基づく考察を装った妄想である。

日本の食文化の中に、「ハシリ」「サカリ」「ナゴリ」という概念がある。もちろん、食材の季節感を表す表現だ。まだ早熟だけど、季節を先取りしたハシリもの。初鰹が有名だよね。タケノコだって、一番最初のころに生えだしたものをハシリ。冬場にいちごを作るようになったのは、流石にやり過ぎのような気もするけれどね。ま、それも一種のハシリかもしれない。

サカリは最盛期だ。最も多くとれる時期。つまり、魚でも野菜でも一番味が乗っているときだ。大抵の場合、最も美味しいのはサカリ。しかも安い。だってピークだもの。

ナゴリは、文字通り名残。旬の終わりごろから、終わったあとにチラホラと見かけるもの。最盛期に比べて味が落ちることも多いし、生産量は低下する。

これ、日本料理でメチャクチャ大切にされるんだよね。高級料理だとかそうじゃないとか、食材がどうとか関係なく。味の善し悪しは二の次になることも多い。季節感第一。

例えば「お、もうすぐ秋がやってくるぞ」という予感を楽しむ。まだ味がノッていなくても良いのだ。初鰹が登場すれば、ボチボチ夏がやってくるなということを感じる。最盛期の味わいを100点だとしたら、70点くらいで良いのだ。むしろ、70点であることが楽しいし趣がある。ハシリは100点の味じゃイケナイという観念すらある。

料理の味だけを考えたらムチャクチャだ。味だけを考えたら全部サカリが良いに決まってるじゃない。だけど、それはつまらないのよ。移り変わり。そう、季節は移ろうものだから、その変化を体感できることが贅沢なことなんだろう。

だから、サカリのAとハシリのBとナゴリのCを組み合わせるなんてことが普通なのだ。しばらくして、Bがサカリになって、Aはナゴリとなる。そして新しくDという食材が組み合わせられる。これで移ろいを感じるということもあるのだ。

季節感というのは、その日を点で捉えるように考えていた。だけど、こうして書き出してみると、点ではなくて流れなのかもしれない。そんなふうに思える。いや、両方なんだろうな。

桜が散る様は、桜が散る時期であるという点でもある。それと同時に、満開であった桜が変化していくという流れでもある。この両面で季節を捉えることが、至極の贅沢で豊かなことなのだろう。

と、勝手な考察だけれど。これをあらゆるジャンルに持ち込んで愛でてしまう。としたら、なんとぶっ飛んだ思考だろうか。究極的に行き着くところまで行っちゃった感があるよ。茶道の千家が活ける花は、自然の一部をポンと茶室に放り込む。人為的に加工したものを良しとはしない精神性。庭だって、あまりいじらないのも好ましいという。枯れ木も味わいがあって良い。雑草が生い茂っているのも風情がある。朽ちた茅葺屋根もまた趣がある。春はあけぼのだ。結局どの風景も季節も、全部良いよねって話になる。

それぞれのその自然な姿を「美しく感じる心」がある。これが日本文化にある季節感というものかもしれない。

そういえば、禅宗の書には独特の味わいがある。筆順やカタチなどにこだわらずに書くことを推奨されるのだとか。先日臨済宗の和尚さんに教えていただいたのだけどね。禅宗における書道では心の発露だから、本来ひとつのはずの点がふたつだったり、短いところが長かったりしても、そのように心が動いたのだからその通りにするということがあるのだとか。それを間違いとするのではなくて、そのような自然の心の動きを受け止めて、向き合うこと受け入れること。そのような考え方があるらしい。どこか、季節感と通じるものがあるようにも思えるな。

今日も読んでくれてありがとうございます。そういえば、茶道の先生が禅宗の和尚さんに書の解説をすることがあったらしい。掛け軸の書は、個々がどのように読み解くかという精神性を表したものだそうだ。このように読み解くものだと解説することは「しない」が正。そもそも、茶道の作法は、禅宗の振る舞いをわかりやすく形式化したものだ、禅宗の僧侶が振る舞うことそのもののほうが、茶道の作法よりも上位にある。上位というのは語弊があるな。そっちが大元ってことね。だから、茶道においては和尚さんは作法に縛られない。

そういう話を聞いたよ。もう季節感の話じゃなくなっちゃったな。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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