進化していなくても、ぼくらの感覚は社会に合わせて変化している。 2023年10月18日

このところ急激に視力が落ちている。いわゆる老眼。睡眠不足も原因のひとつかもしれないけれど、目を使いすぎているのだろうか。シンプルに加齢が原因なのだろうか。困ったことに、近くだけでなく遠くのものが少し見にくくなってきてしまった。両方の視力が落ちてきているのだ。まぁそれでも、一般的には視力は良いと言われる部類に入るらしい。この年齢にしては。

子供の頃から視力は良くて、見えなくて困ったということはない。小学生の頃なんかは、「2kmほども離れた山に生えている木々の葉っぱの数を数えっこする」という遊びをしていたくらいだ。視力検査で困ったことといえば「2.0以上」と表されることくらい。それ以上の視力は検査されないのだ。たぶん、もっと視力は良かったんじゃないかな。

現代の日本社会では、明らかに過剰な視力。そんなに目が良くても意味がない。サバンナで狩猟採集生活をしているわけじゃないし、肉眼で天体観測をしなきゃいけないわけでもない。不必要といえる。

古代人にとっては、視力が高いことは大切なことだったんだろうか。どんな生活だったのかは想像するより仕方ない。人類が動物として繁栄するようになったのは、意外と新しい歴史。どんなに長めに考えても2000年未満だという。他の動物たちに比べて体力に劣る私達は、常に天敵に怯えながら暮らしていた。

「赤ずきんちゃん」などの欧州の童話には、よく狼が登場する。まさに、狼は生活を脅かす存在であり、常に身近にある脅威だったのだ。ローマ帝国が崩壊してからというもの、各地の都市からは人々の姿が消えた。わずかに、教会を守る司祭が住んでいたに過ぎない。町を繋いでいた道は、ほとんど通る人もいなくなり、木々が覆い茂っていた。鬱蒼としていていつも暗く、深い雪のように積もった落ち葉は人々の歩みを阻んでいた。そんな時代。森には狼が住んでいて、か弱い人類は捕食される側の生き物だったのだ。

ぼくには目の使い方に特徴があるそうだ。常に、あちこちに視点が移動する。もう随分と前のことだけれど、仕事中に上司から唇が紫色だと言われて病院に行ったことがある。数日も前からずっと体調が悪かったのだけれど、熱があるわけでもないし、寝れば翌日にはいくらか回復していた。何日も続くので、病院に行って検査をしてもらったのだけれど、原因がわからなくていくつも科を渡り歩く羽目になった。どこにいっても「疲労」と言われるだけで、判然としない。ついには、精神科にまでお世話になったわけだ。ストレスが原因ではないかと。で、担当の医師から眼科を受診するように言われたのだ。

過度な眼精疲労。それが原因だと診断された。当時、メーカーの営業として家電量販店の担当をしていたのだけれど、週に何日も売り場に立っていた。元々、家電量販店の販売員経験が長かったので、特に負担は感じなかった。はずなのだけれど、どうやら目の使い方が激しかったらしい。当時、視野が広いと言われていたのは、そのせいだった。

売り子として接客しているよりも、全体の指揮を取ることが多かったせいか、常にあちこちに注意を払っていて、そのために目を酷使していたらしい。

もしかしたら、大昔の人々には当たり前のことだったのかもしれない。ひとたび集落から離れれば、常に五感を研ぎ澄ませていて、周囲を警戒する必要があった。目だけでなく、聴覚や嗅覚も駆使して状況を把握していたのだろうか。

ぼくが、目に頼り切ることになったのは、現代人の感覚が衰えたからなのか。それとも、家電量販店という環境では聴覚や嗅覚が封印されていたからなのかもしれない。なにしろ、うるさいし、いろんな匂いがしていて、多くの人が行き交うのが当たり前の環境なのだ。

現代人には、過去の人々の感覚を体感することができないのかな。どんな食べ物をどんなふうに味わっていたのか。もう、ぼくらには同じ感性を抱くことができない。仮に、料理を再現しても、食材も調味料もなにもかもが違う。それに、味わう人の感性が違うのだ。むしろ、バーチャル空間のように想像する方が近いのかもしれないよ。

今日も読んでくれてありがとうございます。文字情報だけだと、当時の人々の認知を得られないからと思って、いろいろと試してみてはいるんだ。なのだけど、きっと同じことを味わうことは出来ないんだろうなあとも思うわけ。生物的に進化したという程には変化していないんだけど、細かな点で違いが多すぎるんだろうな。

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