今日のエッセイ-たろう

3200年前の地中海文明が語る教訓とは。 2025年4月18日

紀元前1200年頃、地中海周辺にはけっこう大きな都市があって、栄えていたらしい。時代としてはミケーネ文明とかヒッタイトがあった頃。もちろんエジプト文明もある。港町があって、それぞれに交易をしていたのだそうだ。毎日やってくる船には、各地の食料品や織物、器や金属類が積み込まれている。それらを取引する港は活気に溢れていただろう。町へ行けばマーケットが立っていて、交易品の取引が行われていたり、彼らの食事を提供する屋台も出ていたかもしれない。3000年以上昔のこと、地中海の明るい日差しは活気あふれる港町を撮らしていた。

あるとき、賑わっていた町に海の民と言われる集団がやってくる。そして、町そのものが崩壊してしまったという。石垣で作られた防壁のようなものが残されているし、エジプトの壁画には戦いの様子が描かれている。状況を見ると、異民族の侵略によって文明が滅んでしまったように思えるのだけれど、どうやらそれだけが原因というわけではないようだ。

この頃、各地で干ばつが起きていた。現代の中東や、ギリシア、エジプトなどがその影響を受けて、人々は食糧難に陥った。エジプトではピラミッドの建設が行われていた時期で、労働者には給与として食料が配給されていたのだけど、それが滞ってしまって人類史上最初の座り込みストライキが起きたとか。

更に、間の悪いことに地震が続いた。マグニチュード6前後の地震が数十年に渡って何度も起きたというから、生きた心地がしなかったに違いない。石で組み上げられた町や神殿が崩落し、住むところを失った民は外敵に脅かされる。人間同士の争いもあるだろうけれど、それよりも他の動物に襲われるのが怖い。

住むところがなくて、食料も少ない。精神的に不安定になるだろうし、栄養不足になる。そうなると、健康体ならば跳ね除けられたかもしれないはずの病原菌に対しても弱くなる。疫病が流行するのも自然なことだっただろう。エジプトのファラオも疫病にかかっていたらしい。

エジプトの壁画に描かれている海の民は、様々な民族の集合体なのだそうだ。服装も違えば肌の色も違うし、持っている道具も違う。それどころか、女性や子供の姿も見られるという。もしかすると、海の民というのは難民だったのじゃないだろうか。自分たちの住んでいた環境が崩壊して、少しでも豊かな場所へ移り住みたい。ところが、訪れたエジプトもさほど余裕がない。滅亡した町に比べればマシかもしれないけれど、移民を受け入れられるほどの余裕はない。移民を排除するようになり、結果として戦闘に発展していった。そんなことも想像できる。

地中海貿易による仕組みが発達していて、この時代におけるグローバル社会が形成されていた。食料生産が少ない地域では、外国からの輸入に頼ることになる。木材や鉄資源、宝石などが食料との交換材料となる。環境が安定している間は、互いに協力し合って、時には競争もあって、それなりに平和に暮らしていたのだろう。だけど、自然がそれを許さなかった。自らの命が危険にさらされたとき、平和な協力関係はもろくも崩れ去ってしまった。

なんだかどこかで聞いたことのある話に聞こえる。3000年以上も前のことだから、もちろん現代と同じではないのだけど、やっぱり気になってしまう。グローバルの互助システムは素晴らしいけど、一方で自助も大事。月並みだけど、バランス感覚が求められるということか。国内でも、遠方から運ばれてくる食材と、地域内で生産消費される食材の両方があったほうがいい。なにかトラブルが起きたときに、自分たちの地域だけでもある程度生きていけるくらいの環境を持っておいたほうが、良さそうだと思える。

今日も読んでいただきありがとうございます。日本の食料自給率が低いのは、周知の事実だよね。もう何十年も前から課題だと言われている。外国から食料を買うためには、外国が欲しがる商品を作らなくちゃいけないし、少しでも自給率を高めなくちゃいけない。米だけは100%だって言うけれど、そもそも消費量が減っていて、その状態で100%だっていいうだけ。もし、小麦の輸入がゼロになったら、あっという間に米不足になっちゃうよね。なんだか、すっごい危ない綱渡りに思えてきたんだけど、みんなどう思う?

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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