今日のエッセイ-たろう

「好き」で繋がるネットワークのススメ。 2023年11月16日

何度かここにも書いている「釣りバカ理論」というのは、ぼくが勝手にそう言っているだけなんだけど。これが、結構評判がいい。最近、掛川で開催された観光シンポジウムでも紹介したら、話が盛り上がった。まぁ、アチコチで話しているから聞き飽きたという人もいただろうけどね。

ざっくりいうと、経済指標だけじゃなくて「好き」を軸にした別のコミュニティ「も」あったほうが良いよね、という話。

漫画の中ではスーさんは鈴木建設の創業社長で、ハマちゃんは平社員。なんだけど、「釣り好き」の仲間内ではハマちゃんが師匠になる。ヒエラルキーが逆転するところも面白いところだけれど、経済的な評価以外に「釣りが上手い」という評価が基準になっているところが大事なんだろうと思うんだ。そして、その評価軸は、お互いに「釣りが好き」という「気持ち」だけで成立している。

しかも、釣り好きコミュニティの仲間意識が会社の中の繋がりにまでじんわりと影響を及ぼしている。公私混同と呼ぶ人もいるだろうけれど、こういうことって人間らしい行動だし、案外社会的に良い効果を及ぼすんじゃなかと思うんだ。

学生時代は成績だったり、足が速いかどうかだったり、絵が上手いかどうかだったり、疑うまいかどうかなどといろんな指標があった。今はどうか知らないけれど、ぼくが子供の頃は、それぞれの「好き」とか「得意」が発揮されて褒められる場があったと思う。その頃の大人が、子供のことをどんな指標で評価していたのかわからない。少なくとも、子供同士の間でではそれがちゃんと機能していた。

大人になると、例えば会社の中で「◯◯さんは△△が得意」ということはお金に変換されて評価される。経済活動をするというひとつのコミュニティの中では、それは自然なことなのかもしれない。だからこそ、別の軸で繋がるコミュニティの評価を経済社会にも乗り込ませるのが「人間らしくて自然」なのじゃないかと思うのだ。

言い換えると、そのくらいのことがあって、やっとバランスが取れるという感覚。

マイケル・サンデルの「実力も運のうち」は衝撃的な話だったけれど、ぼくにとっては「釣りバカ理論」を強化する内容だった。なにかしらの影響でたまたま富を手に入れた。それは、あくまでも経済的指標だけで社会を切り取った場合のこと。それだけじゃないよねっていう話にも読み取れる。

ホントは、経済的な評価に繋がりにくい人がいて、それでもちゃんと誰かの役に立っているし、社会にとって必要だということは定量的に測りにくい、ということだってある。その研究やって、数年後に儲かるの?という観点だけだと、科学は進歩してこなかっただろう。19世紀の偉大な科学者たちが実績を残せたのは、たまたま経済的に恵まれた環境を獲得できたからだとも言われる。

こうした人たちのことを「知る」のに、「好き」を軸にしたコミュニティはとても良い。自分が好きだと思える存在が経済的評価をされていないことに違和感を覚えるだろうからだ。なんというか、情みたいなものがじんわりと語りかけてくる。スーさんが、うっかりハマちゃんの人事に口を出してしまうのも、釣りを通して知り合った別の人がハマちゃんの仕事を成功に導いてしまうのも、そういうことなんじゃないかな。コメディみたいだけど、実はこうした部分が社会のバランスを取っているのかもしれない。

今日も読んでくれてありがとうございます。この話と観光がどう結びつくのか。それはね。いろんな「好き」が集まる物理的な場所が全国各地に出来ること。いや、たぶんもう有るんだろうな。ちょっと視点を変えて、わかるようにアレンジする。そうすると、観光都市計画みたいなものも、企画も、情報発信も今とは違うものになりそうじゃない。そのうち、その町に愛着を持つようになる人も出てくるだろうし。そんなことを考えていて、シンポジウムで話したんだけど、伝わったかなあ。メインスピーカーじゃなくて、ただのコメンテーターだったからな。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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