今日のエッセイ-たろう

「緩み」が「偏り」を生んで「フィット感」を増す。 2023年8月16日

布は手織りや手編みだと、少し緩みが出てしまうらしい。それは、どうしても糸のテンションが一定にならないから緩んでしまう。なのだけれど、実はその「緩み」が良い働きをすることがあるという。

布自体が緩みを持っているから、その布で作られた服もまた緩みがある。どんなにきっちりと採寸しても、基礎となるべき布がゆるいのだから偏りが発生する。偏りが出る。これが実に大切なことらしくてね。人間の体というのは、常に一定の形をしているわけじゃないし、そもそも動くんだ。動くというのだって、関節や筋肉である程度決められた動きをするのだけれど、人それぞれに癖がある。緩みがあると、その癖に合わせた偏りが生まれる。つまり、体にあった形に変形して、使っているうちにフィット感が増すのだそうだ。

これに対して、機械編みの場合は違うらしい。なにしろ、機会的にピッタリと均一に、きっちりとしたテンションで編み込むわけだ。とにかく早く、ズレがないように編んでいく。そのほうが経済合理性が高いから。素早く編むということを優先すると、自然とそのような結果になるらしい。だから、あまり伸びないし偏らない。

最近の伸びる生地とか繊維とはちょっと違う目線で面白い。きっちりしているのに、素材となる布に伸縮性をもたせる。これによって快適さを生み出しているのが、最近の伸びるスーツなどの流行なのだそうだ。

前述の「緩み」のある布は、それ自体が自在に伸び縮みするのではないけれど、偏りが発生することで体にフィットする。体や日常の動きにフィットしているから、動きを制約することがなくて快適だということなんだって。

快適さを求めているということに関しては、同じ。なのだけれど、そのアプローチが違うのが面白いよね。

でね。手編みが生み出す「緩み」みたいなものって、実はいろんな場面でメタファーとして使えるんじゃないかと思うんだ。使うというと、ちょっと意味が違うな。でもまあ、この考え方は他の事柄にも通じるような気がするんだよ。

試しに、無理やり料理に置き換えてみる。

料理のレシピっていうのは、ほとんどの書籍などで見られるようにかなり雑だ。化学を専門にしている人達からすると、もっと精緻な数字を書いてほしいと思うらしい。確かに「少々」とか「弱火」とか「ひと煮立ち」とか、なんとも感覚的だ。

この感覚的なところが、作り手の「癖」を反映するのじゃないかと思うんだ。塩を少々というとき、人によって様々なズレが生じるのだけど、案外同じ人にとっての「少々」は同じような量になる気がするんだよね。だから、毎回同じくらい。いろんな癖が偏りを生んで、結果として「その人らしい」味付けになるということがあるかも知れない。

だから、レシピの緩さっていうのは、個性を生み出すために必要なものなんじゃないかと思うのだ。

今日も読んでくれてありがとうございます。布の話は、服飾関係の知人から教えてもらったんだ。なんだか、いろんなことに通じているような気がして、忘れないようにメモしておいたのを、さっき見つけて書いてみた。この話を教えてもらったときも、何かのメタファーとして引用していたと思うんだけど、ちょっと忘れちゃった。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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